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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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59.準備に追われる





 ――思ったより様になっている。


「っていうのが年寄りたちの感想だな。とりあえず、今度の儀式は手伝おうって話でまとまったみたいだ」


 昼食の場に来てもらったタタララの弟ガガセは、向こう(・・・)の集落の状況を教えてくれた。

 私が会うのは久しぶりだが、変わらず元気そうだ。


 向こう(・・・)では、やはり認めない者も多かったらしい新族長アーレだが、いざ彼女が先頭に立って集落を動かし出すと、そんなに違和感はなかった、そうだ。


 その証拠に、日に日に女性の戦士たちと一緒に行動する男性の戦士も増えてきている。最初は見慣れない組み合わせが珍しかったが、今では普通のことである。

 きっと、私が来る前に戻っただけの話だと思うが。


 ようやく白蛇(エ・ラジャ)族は、従来の形に戻ろうとしているのだ。


「これうまいな。ナナカナが作ったのか?」


「うん」


「ふうん……料理が得意なんだな」


「得意なのはレインだよ。私は教わっただけ」


「ふうん」


 子供たちが、というかガガセからナナカナへ向かっている仄かな好意を温かく見守りつつ、私は彼から聞いた話から現状を考える。


 あと数日で、族長就任と結婚の儀式をする予定となっている。

 最初は準備の時間と手間で、まとめてやるのは無理だという女性たちの意見もあったが、無事山場は越えたようだ。


 向こう(・・・)の戦士たちの多くが、協力体制に入ったのが大きい。

 この分なら、もう「向こう(・・・)の集落」なんて言い方は、しなくて良くなりそうだ。


 手伝いの手が増え、着々と必要な物が揃い、大掛かりな儀式の実行が現実味を帯びてきた。


「あ、料理と言えば。なあレイン、レインの頼みで土塊魚(グレ・ラー)を釣るよう言われたんだけど、何に使うんだ?」


 え? ああ、ナマズか。


「正確には私じゃなくて、君のお姉さんの頼みだ。タタララが、ぜひ番の儀式に出す料理で土塊魚(グレ・ラー)を使ってほしいってさ」


「うえっ、あの土臭い魚を? 食うのか?」


 ガガセは思いっきり顔をしかめている。

 タタララとしては、協力者を増やして養殖作業の手伝いをさせたいようだ。それにはまず、食べさせるのが早いと考えたようだ。


 白蛇(エ・ラジャ)族のナマズへの反応を見る限り、私もそれが早いと思う。


「そもそも魚はなぁ。骨が多くて食いづらいだろ」


 そうだね。皆そう言うね。


「当日を楽しみにしているといいよ。それより――向こう(・・・)は大丈夫そうかな?」


「大丈夫だよ」


 いろんな意味を含めた質問に、ガガセははっきりと答えた。


「俺を含めて、戦士は馬鹿ばっかりだ。だから力とか強さにこだわるんだ。単純でわかりやすいだろ?

 アーレは文句のつけようがないほど、堂々と力を見せた。


 みんなほんとはわかってるんだ。

 男と女でケンカしたままでいいはずがないし、強いアーレが族長になっちゃいけない理由もないって。


 だから大丈夫だ。現に大丈夫になってきてるだろ」


 ……うん。

 私にできるなど早々ないし、そうだと信じたいな。





 そんな私の心配をよそに、準備は順調に進んだ。


「婿さんは……」


「やらなくていいけど……」


「……いや、ダメだね。これからも女の仕事をするなら」


 色々と混乱する情報があったので、女性たちに聞いてみると、どうやら私の立場は、やはり普通とは言い難いようだ。


 なんでも、番の儀式に参加する私は、言わば儀式の主役。

 だから普段やっている女の仕事は、普通は免除されるらしい。


 らしい、が。


 その儀式の直後から、私は「族長の婿」となる。

 私とアーレは男女の役割が逆なので、嫁扱いとなる。そうして「族長の嫁」としての義務と責任が発生する。


 ここまではわかりやすい話である。

 これまでやってきたことと変わらないから。


 しかし、これまでの族長の嫁は、何があろうと女性陣のリーダーとして立ち、まとめ、牽引する存在だったそうだ。

 やはり族長の嫁という存在も、集落には欠かせない大事な立場なんだそうだ。これまでは正式な族長が不在だったからまとめ役の女性がいたが、これからは私が引っ張っていかねばならない。


 当然、儀式当日であっても、その立場は変わらない。


 いや、正確に言うと、儀式の当日から「族長の嫁」としての義務と責任が発生する、という感じか。


 だから当日も、女の仕事はしなければならないようで、まあ主役なのか何なのか、という立場になってしまうそうだ。

 これもまた、儀式をまとめて実行するための弊害である。


 まあ、大して苦もないが。

 これまでやってきたことと本当に変わらないから。


 女性たちのまとめ役にしても、女性たちは私よりしっかりしているからな。大事な局面以外では口出しは必要ないだろう。


「――おい余所者! 聞いたぞ!」


 女性たちと当日の料理の相談をしていると、婆様がやってきた。相変わらず蛮族感がすごい。


 彼女は儀式の進行役でもあるので、彼女にしかできない準備で忙しいはずだが……わざわざ私に会いに来る用事でもあったのだろうか。


土塊魚(グレ・ラー)を出すんだってな!」


 ああ、うん。ガガセから聞いたのかな。


「出すよ。もう下準備も始めているし」


 そういえば婆様にもお裾分けしたな。あれっきり感想も聞いていないので、私も忘れていた。


「わしは儀式の日はしばらく動けん。わしの分はとっておけ。全部配るなよ? いいか? いいな? 約束じゃぞ?」


「わかった。憶えておく」


 何も言わなかったので口に合わなかったかと思ったが、それなりに気に入っていたようだ。


土塊魚(グレ・ラー)ってあの?」


「あれ食えるのかい? 無理だろ」


「いいや、婿さんの料理の腕を考えたら、なんとか食えるようにできるんだろうね」


 女性たちが興味を持ったらしいが、それについては今はいいだろう。

 これから新たな何かをする時間的余裕はないだろうから。


 ……でも、ナマズの養殖ができるのであれば、調理方法を広めた方がいいだろうな。


 …………


 あ、でも、ソースに砂糖を使うんだよな。砂糖は今もナナカナが独占しているし、現状では分け与えるほどの量は作れないし……


 ……ああ、この問題も、今はいいか。


 儀式の日は、もう間近だ。

 今は準備のことだけ考えよう。





 そして、ひどく慌ただしい日々が過ぎ。

 儀式の日、当日を迎えるのだった。





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