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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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44.空を飛ぶ蜥蜴を狩る!!





「――来るぞぉ!! 野郎どもやっちまえぇ!!!!」


 空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)が、天より落ちるように襲い掛かってくる。

 白い巨体がきりもみ状態になり、不規則な動きでやってくる。


 だが、それに圧倒されるような戦士は、ここにはいない。


 空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の行動と、キガルスの声に合わせて、戦場が動き出した。


 黒鳥(カッ・コハ)族が飛び上がり、鉄蜘蛛(オル・クーム)族が走り出す。


 戦牛(イルハ・ギリ)族は鉄蜘蛛(オル・クーム)族を守るように付き従い、白蛇(エ・ラジャ)族と風馬(フ・バ)族は特に指示がないのでそのまま戦場に突入する。


 ――そんな周囲が動き出す中、巨大な白いトカゲは、アーレたちを目掛けてやってくる。


 速度はそうでもないが、ひねりが入っている分だけ、軌道と攻撃が読みづらい。


「当たるなよぉ! 当たったら死ぬぜぇ!」


 この状況でも楽しそうなキガルスの声など、聞くまでもないことだ。

 アーレとジータは、どんどん迫り来る空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)をじっと見つめ、回避に専念する。


 ――ここだ。


 もはやまばたきする猶予もないほど間近に引き付け、つぶさに観察し、動きを見切った。

 距離がある内に動いても追跡される恐れがあるので、できるだけ引き付ける必要があった。


 もちろん、周囲に注意が行かないようにするためでもあるが。


  ドォォォン!


 右前足を大きく振り下ろす、鍵爪の一撃。

 アーレたちが避けたことで、それは強く大地を叩く結果となった。


 本当に地面が揺れた。

 巨体も、重量も、そして頑丈さでも、空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)は魔獣として群を抜いた存在である。


「――な、んだとっ……!?」


「――ジータ!」


 一撃は回避した。

 しかし、連続の二撃目が来た。


 運悪く、狙われたのはジータだった。


 地面を叩いた……地面に手を着いた勢いそのまま、空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)は腕を軸に縦に一回転した。

 グォンと空を殴り抜ける長く巨大な尾が、真上からジータに降ってくる。


 まずい。

 落下速度をそのまま継いだ尾の振り抜けるそれは、回避を許さないほどの速さでジータの頭上を正確に――


「ぐははははぁぁぁ!」 


  ドォォォォォン!


 ジータの肩を掠め、空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の尾が再び大地を揺らした。


「悪い! 助かったぜキガルス!」


 避けるのに専念したジータとアーレだが、あの歴戦の戦士は避けると同時に反撃に打って出ていた。


 キガルスは、持ち込んでいたその体格に見合う巨大な斧を振り回し、空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)に投げつけていた。

 純白の鱗に弾かれて刺さることこそなかったが、その斧の重量と速度は、空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の体勢を崩すには充分だった。


 斧の一撃は、尾の軌道を逸らしたのだ。


「楽しいなぁジータぁ! アーレぇ! やっぱり狩りはこうでないとなぁ!」


 老いてなお戦牛(イルハ・ギリ)族最強の男は、ニヤニヤしながら空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)と睨み合う。


 ――どうやらあのトカゲも、この場で誰が一番強いのか、早くも察しがついたようだ。





 初手こそ危なっかしい面もあったが、狩りは順調に進んだ。


 この空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)は、あまり大きくないし、恐らく若い個体だ。

 動きが単調で、きっとこれまでの戦いは全て、力と巨躯と重量で力押ししてきたのだろうと思わせるほどに、読みやすい。


 たくさんの雑兵が、踏めば死ぬような虫けらがこの荒野一面にわらわら湧いている、程度の認識しかしていなかったのだろう。

 だから、早くも手遅れになってしまっている。


「――グオオオ!! グアアァァ!!」


 鬱陶しそうに声を上げ、身をよじるが、その拘束は解けない。


 純白である空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の身体には、無数の黒い線がまとわりついている。

 黒い線――鉄蜘蛛(オル・クーム)族の糸である。


 (オル)の名が付いているのは伊達ではない。

 弾力性には乏しいが、その糸は非常に硬く、力任せで千切るのは至難である。


 黒鳥(カッ・コハ)族が目くらましに、挑発に、糸を気取らせないために、空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の近くを飛び回っていた。

 その間に、できるだけ近づいた鉄蜘蛛(オル・クーム)族が、糸を出して拘束。


 そして、力任せに空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の動きを封じているのが、戦牛(イルハ・ギリ)族である。

 前こそアーレらがいるので近づかないが、後ろと左右はしっかりと手綱のように糸を握り、動きの全てを阻害している。


 もちろん、飛んで逃がす行為さえ許さないためでもある。

 手負いの魔獣を逃がすと、後々非常に厄介なことになるからだ。


「こいつぁもう決まったなぁ」


 同じ空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)の骨で作った槍や斧が、少しずつ、白いトカゲを赤く染めていっている。


 最初は鱗の一枚、二枚を飛ばすようなかすり傷だ。

 しかしそれが何度も重ねられることで、致命傷へと育っていく。


 この個体は、若い。

 つまり経験不足だ。


 体格や力こそ圧倒的で、だから逃げ時を見誤った。

 弱い、数が多いだけの獲物と見て、何をされてもお構いなしに無駄に動き続けた。

 まず先に狙う相手を間違えた。


 相手をするべきはキガルスでも、アーレやジータでもなかった。

 一番厄介で、一番後から効いてくる糸を放置したのが、致命的な選択の失敗だった。


 その結果、今や逃げようとしているのを、絡む糸に邪魔されて飛ぶことができないでいる。

 足元から尾からちくちくと攻撃され、鬱陶しいと薙ぎ払うも避けられる。


 飛ぶことができない。

 振り回す腕も尾も当たらない。

 足に傷を負いすぎて力が入らない。

 もう何もできない。


「グォォ! グォォォオ!」


 今や、やめろ、やめろと言わんばかりに悲しく鳴き続けるだけのトカゲを、蛮族たちは攻撃し続ける。


 少しずつ死に近づく。

 小さな傷が、少しずつ、死に到達しようとしていた。





 大物狩りは、昼時を前に終了した。


 怪我人は多数出たが、死傷者はなし。

 快勝だった。










「――ま、まさか……」


 離れた場所から戦を見守っていたレインティエは、倒れ行く空を飛ぶ蜥蜴(エペ・ア・ダラ)を……戦士たちの勇姿と勝利を見て、唖然としていた。


 すごいものを見た、と。


 体格差は顕著。

 誰がどう見ても、人間が勝てるとは思えない、ドラゴンが相手だった。


 にも拘わらず――


「蛮族……か」


 レインティエが戦士の戦いを見るのは、これが初めてだ。


 霊海の森を越える時に、アーレ・エ・ラジャとタタララの戦う姿は見たが、今目の前で行われた狩猟は、あれとはまったく別物である。


 強い強いとは思っていたし、知っていた。

 だが、実際に見ると……「強い」なんて言葉が陳腐に思えるほど、強い。


「おい余所者、行くぞ」


 婆様に声を掛けられハッとする。


 戦えないほどの怪我を負った者は、戦の最中、飢栗鼠(ガ・キャリ)族や風馬(フ・バ)族が医療班たるここに連れてきていた。

 レインティエも治療に専念しつつ、大物狩りを見ていたが……


 あの神々しいドラゴンが倒れた今、もう現地に行けない理由はない。


「おいこら。置いて行くな」


 レインティエは駆け出した。婆様を追い抜いて駆け出した。


 ――私のアーレ嬢は無事だろうか、と思いながら。





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