表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
28/252

27.白蛇姫はもっと語る





 ガガセからジータに三人目の妻ができた情報が出たところで、アーレ・エ・ラジャは「やめだ」と宣言が出た。


「今日はもう、ジータの話は終わりだ。このまま続けたらうっかりあいつを殺しに行くかもしれん」


 衝動的な殺意による犯行をほのめかし始めた。

 本人の希望通り、ジータ周りの話はここで打ち切りにした方がよさそうだ。


 かつては許嫁で幼馴染でもある彼女には、思うことがたくさんあるのだろう。

 付き合いなんて皆無、ほんの少し会って話しただけで、思うことがまったくない私でさえ、引っかかることしかない話だけに。

 

「次はなんの話だ?」


 じろりと私に向けられた視線は、睨みつけるように鋭い。とんだとばっちりである。


「えっと、族長を決める勝負で、たまたま偶然勝った……とかなんとか」


 正直このまま話すよりは、日を改めた方が彼女の精神衛生上よいとは思うが――


 しかし私にとっては、何よりも、この話が気になっていた。


「俺もいてっ、気になるぞ」


 相変わらずナナカナに「黙ってて」とばしばし叩かれつつ、ガガセはやや眉を寄せて厳しい顔をする。


「アーレは、いっ、いつも、ジータに負けてただろ。族長を決める勝負でっ、まぐれで勝っただけだ。戦士たちは納得しいててててっ! な、納得してないから! ジータを族長として立ててっ! 別れたんだ!」


 最終的には髪を引っ張るという暴挙を受けつつも、ガガセはめげなかった。もうさすがにどっちか諦めろよと思う。


 ……いや、それより。


 この話が本当なら、私は言わねばならないことがある。


「アーレ嬢、本当か?」


「本当だ」


 そうか。事実か。


 私も王族のはしくれだった者だ。

 無能な、あるいは能力の足りない者が上に立つ愚かさと悲惨さは、よく学んできた。


 この集落にある「一番強い者が族長となる」という決め方は、要するに、狩猟や有事の際に最前線で戦う者を決めることである。


 族長には強さが求められる。

 ならば、もし強くない族長が族長になった場合は、どうなるか。


 ――族長は戦いで早死にするか、族長の代わりに戦士たちが死ぬだろう。


 一国の王と同じだ。

 規模は違えど、なりたい者がなっていいものではない。


 それになるだけの力が、能力が、絶対に必要なのだ。そうじゃないと国だって集落だって混迷を極めるだろう。

 困るのはいつだって、長を支える民だ。


「それで、アーレ嬢の言い分は?」


 こちら側(・・・・)の事実によっては、私がアーレ・エ・ラジャに族長を降りるよう説得せねばならないが――


「勝つと面倒だったからだ」


 …………


白蛇(エ・ラジャ)族の集落は男社会だからな。もっと言うと、男の戦士社会だ。女の戦士より数も多いしな。

 そんな状況で、普段から男より強いことをひけらかして、何かいいことがあると思うか? 嫌がらせをされたり文句を言われたりするだけだ。理不尽にな」


 ああ……そうか。そういうことか。


「えっ!? じゃあ普段はわざと負けてたのか!?」


 ガガセが驚いているが、反対にアーレ・エ・ラジャは平然としたものである。


「よく考えろ。族長を決める戦いなど、誰もが意気込んでいる。光輝牛(ファー・ル・ギリ)を一人で狩る時のようにな。

 そんな大勝負でたまたま(・・・・)だの偶然(・・)だのまぐれ(・・・)だの、そんなものがあると思うか?」


「そ、それは……じゃあなんでそれを言わないんだよ! 言えば戦士たちに認められたかもしれないだろ!」


「――それはないな」


 アーレ・エ・ラジャの声は、ひどく冷めていた。


「男の戦士の拠り所は、強いだけではないか。強いだけで強権を握り、女をないがしろにしてきた。集落の決め事は全部男が決める。族長となれば番さえ決め、女の自由を奪う。


 たかが強いだけで、俺たちが守っているから女は無事でいられる。俺たちのおかげで女は生きられる。感謝しろ。だから女は俺たちに従え――そんなことを言う連中ばかりじゃないか。


 そんな男たちが、我の強さを認めると思うか? 唯一の拠り所を、集落の権利を、明け渡すか? そんなのあるわけがない」


 なるほど、確かに認めないだろうな。

 これまで女の族長がいなかったという辺りから、どれだけ男尊女卑の社会だったかがおぼろげに見えるくらいだ。


 それに、長年続いてきた意識の改革なんて、急にできるものではない。変えたいのなら、少しずつ変えて行くしかない。


「もう一つ言うと、気を遣っていたんだ」


「気を……?」


「いずれジータの嫁となる身だった。戦士ではなくなるのは決まっていたから、力を見せる必要がなかった。

 戦士の夫を立てるために、夫より弱い妻(・・・・・・)であるために、気を遣っていたんだ。

 もうやめたがな」


 それと、とアーレ・エ・ラジャは続けた。


「我は族長になろうとは思った。一番強いからな。だがそれに賛同した女たちは、女たちの意志によるものだ。我は特に声を掛けた覚えはないし、集めた覚えもない。


 わかるか? 我と同じように、女たちも、男たちの言い分や態度に我慢の限界を迎えていたということだ。


 ――まあそれにしたって、男にはまるで通じていないようだがな。男の理屈は、女は言うことを聞くのが当たり前、だからな」


 …………


 男女の意識の問題か。

 慣例を変えるのは容易ではないことは、すでに問題の発生から一年以上経っていることからも、よくわかる。


 小さな集落の問題だとしか思っていなかったが、意外と根深い問題である。


 正直、どうすればいいのか、私にはわからない。

 父上や兄上ならいい知恵が浮かぶだろうか……





「レイン。これで納得したか?」


「え? ああ、うん。ありがとう、聞きたいことは全部聞けた」


 ジータとの関係と、族長を決める勝負。

 気になっていた疑問は、ちゃんと解消できた。思ったより解決が難しそうな問題であることもわかった。


「俺はなんで呼ばれたの?」


 あ、そうだ。そう言えばガガセはなんで呼ばれたんだ?


おまえたち(・・・・・)の集落がどうなっているか聞きたかったからだ。レインにも聞いてもらいたかったしな。

 婆様のお触れは聞き入れているのか?」


「婆様のお触れって……あ、塩か。気を遣う家も増えてるみたいだよ。大狩猟の宴で出た料理も塩味薄めだったよな。俺はあれくらいがいい」


 それは朗報だな。


「死んだ戦士は?」


「今年はまだいない。怪我人はいるけど」


「そうか。我も今日知ったばかりだが、レインは怪我の治療ができるそうだ。希望する者がいるか聞いておけ」


 ん? 私?


「え、治療……? できるのか?」


「まあ、少しだけ」


 これまたガガセが驚いているが、私はアーレ・エ・ラジャの采配に少し驚いている。


向こう(・・・)を助けるのか?」


「嫌か?」


「そんなことはない。私はアーレ嬢に従う。そうした方がいいと言うならそうするよ」


「では頼む。集落は割れているが、それでも仲間だ。苦しむ者も死者も減らしたい」


 おお……さすが私の嫁、なかなかの器量である。


 それからアーレ・エ・ラジャは、更にガガセからいくつか向こう(・・・)のことを聞き出すのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ