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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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25.大事な話なんだそうだ





「――何やってるの!」


 とてもじゃないが気にせずにはいられない情報に思考が止まったその時、小さな影が私たちの間に乱入した。


 ナナカナだ。


 カラカロに捕まった時から数えると、治療するだけにしては少し時間が掛かっていたので、様子を見に来たのだろう。


「ジータ! アーレの客に何するの!」


「何もしてねえよ!」


「じゃあどうしてカラカロに抑えられてるの!? どうせレインが言うことを聞かないから殴ろうとした挙句にありもしない嘘で騙そうとしたんでしょ!」


 まるで見ていたかのようなナナカナの言葉である。……もしかして様子を見ていたのだろうか。


「殴ろうとはしたけど嘘は吐いてねえよ!」


 離せ、と身をよじりならジータは言った。


「いいかレイン!? 俺が言ったことは本当のことだからな! なあカラカロ!?」


「ああ。嘘ではない」


「ほらみろ! あとおまえさっさと離せよ!」


「――レイン」


 カラカロはジータを解放しないまま、静かに語り掛けてくる。いや、なんなら羽交い絞めを更に締め上げているようでジータが「いででででっ」と呻いている。


「ジータの言ったことは嘘ではない。気になるならアーレに確認しろ。――俺たち(・・・)から見たらそれが事実なんだ」


 …………


 俺たち(・・・)から見たら、か。

 ならば、こちら(・・・)から見たら違う事実がある、ということだな。


「ナナカナ、アーレのことを頼むな」


「……うん」


 カラカロの言葉に、ナナカナは複雑そうな顔で頷いた。

 そして彼らは去っていった。


 まあ、正確には、カラカロが羽交い絞めにしたままジータを連れて行ったのだが。


「まったく。最近になってレインが族長の婿として来たことを聞いたんだろうね」


 ジータは、私のような部外者が集落に来ていることは知っていたが、その理由を知ったのは最近……というか、もしかしたら大狩猟の宴だったのかもしれない。


 やってきた当初から「女の仕事をする男」ということで、割と有名だったから。だからいたことは知っていたと思う。


「どうせアーレは渡さないとかなんとか言いに来たんでしょ?」


 まるで聞いていたかのようにナナカナの言葉は正確である。あるいはジータがずっとそんなことばかり言って来たのかもしれない。


「まあそんなところだ――それよりナナカナ、気になる話を聞いたんだが」


 かつては、アーレはジータと夫婦になるつもりだったこと。

 それと、族長を決める時の勝負のこと。


 どちらも気になる情報だ。

 無視することができないほどに、大きな問題だ。


 私は、向こうの事実(・・・・・・)に対するこちらの事実(・・・・・・)を、どうしても確かめたい。


 そうしてナナカナに聞いてみると――彼女は真剣な面持ちで私を見据える。


「それは族長の口から聞いた方がいいと思う。どちらも族長自身のことだから」


 ナナカナは答えを知っているようだが、あえて自分の口から語ろうとはしなかった。


 でも、確かに、その方がきっといいのだろう。


 立場の弱い入り婿であっても、婿は婿だ。

 これから夫婦になろうという相手に遠慮して大事な話一つできないようでは、先はない。





「――そうか」


 待ち遠しいのか、それともできるだけ遅く帰ってきてくれた方がよかったのか。

 自分の気持ちもわからないまま、夕方にアーレ・エ・ラジャが帰ってきた。タタララを連れて。


 そんな彼女の足を拭きながら、ジータとカラカロが会いに来たことと、その時聞かされたことを問うと、彼女は「そうか」とだけ答え、すぐ横で自分で足を拭いているタタララを見た。


「飯の後でいい。ガガセを連れてこい」


「あのことを話すのか?」


「ああ」


「話したら引き返せないかもしれないぞ」


「誰一人として、このままでいいとは思っていない。いい機会なんだろう――」


 と、アーレ・エ・ラジャは私に視線を向ける。


「レインに隠し事はしたくないしな」


 飯の後に話そう、と。

 それだけ言うと、彼女は家に上がった。

 




「――ガガセだ。もうすぐ一人前の戦士になるが、まだ半人前だ」


 夕食が終わると、ひとっ走りしてきたタタララは十三、四くらいの男の子を連れてきた。


 ガガセは、タタララの弟である。


 顔立ちは姉にそっくりでなかなかの男前だ。背中に白鱗がある。

 少年の身体らしく手足も身体もほっそりしているが――それでも筋肉はバッキバキである。私もバッキバキに鍛えようかな……?


「アーレ。大事な話をすると聞いたが、何の話をするんだ?」


 初体面である私との挨拶はそこそこに済ませ、彼はアーレを見た。


「――これからの我らの集落に関わる大事な話だ。ひとまず黙って聞いていろ」


「……わかった」


 真剣な顔をしたアーレ・エ・ラジャから何か感じたのか、ガガセは小さく喉を鳴らしてこくりと頷いた。


「さて……何から話そうか。――いや、そうだな」


 あれ?


 なんか私を見ながらニヤニヤし出したな? 真剣な話じゃないのか?


「まず、我とジータの関係について話そうか。レインは嫉妬して気にしてくれたのだろう?」


 お…………おう。びっくりした。


 ――そうか。言われて気づいたが、私がジータを最初から気に入らなかったのは、嫉妬していたからか。


 私の知らないアーレ・エ・ラジャを知り、長い時間を共に過ごして来たことが、不愉快だったからか。


「そうだな。嫁さんと仲がいい男がいるなんて聞かされたら、そりゃいい気はしないさ」


「よ……嫁……か……」


 あ、アーレ・エ・ラジャが照れてる。珍しい反応だな。


「よ、嫁……?」


「嫁……っ!」


「……嫁」


 戸惑うガガセ、なぜか鼻息が荒いタタララ、意外な言葉が出たなと言わんばかりに興味津々で私とアーレ・エ・ラジャを交互に見るナナカナ。


「な、なんだ? アーレはレインと番になるのか?」


「しっ。黙って聞いて」


 初耳だぞ、と漏らすガガセをナナカナがぺちーんと叩いて止める。


「――こ、こほん。もうさっさと結論から言うが、我とジータは、前族長が番になれと命じた関係だったのだ」





 ――白蛇(エ・ラジャ)族の集落では、番になる男女は全て族長が決めるのだ。


 そんな前置きから、アーレ・エ・ラジャの話が始まった。





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