表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第五章 新婚旅行という名の
191/252

190.話を預かろうと思う





「とにかく婿探しに行きたいという気持ちはわかった」


 少々いけない雰囲気になってきた気がするので、話を変える……いや、話を進めることにした。


 タタララは、私のような婿が欲しいと言った。

 だが、もし仮に私のような男がいたとして、彼女と合うかどうかはわからない。


「タタララ、先に言っておきたいんだが、私は本当に特殊だったんだ」


「特殊、とは?」


「命懸けで婿入りを決める者は、ほぼいないという意味だ。

 今すぐタタララが森を越えて向こう(・・・)で婿探しをしたとして、きっと誰かは見つかると思う。


 だが、霊海の森を越えて(・・・)まであなたと添い遂げようと思う者は、なかなかいないと思う。きっとすぐには見つからない」


「……そうなのか?」


 それはそうだろう。

 さすがに、二度と故郷に帰らないつもりでの命懸けの結婚と言われれば――


 ……いや、これも文化の違いがありそうだな。


 こちら(・・・)で言えば、タタララは「よその部族の男を引っ張ってくる」くらいの認識かもしれない。

 そしてそれは、だいたいの意味において、その部族から外れるという意味になる。


 夫婦仲の破綻で元の部族に戻る……いわゆる出戻りみたいなことは、あまりないらしいから。


 その常識で当てはめると、私も含まれるのだ。

 だからタタララが勘違いするのもわかる。


 ただ、私の場合は、……たぶんこちら(・・・)の者より、覚悟は上だと思う。


 本当に、死んでもここにいるつもりで来たから。

 二度と故郷には帰らない覚悟をしてきた。


 こちら(・・・)の部族間でのことなら、折を見て里帰りくらいはできるだろうし、故郷の者が訪ねてくることもある。


 私にはそんなの絶対にないからな。


「そう言えば、おまえはどうして婿入りすることを決めたんだ? 確か、おまえの姉を助けたことが縁になったんだよな?」


 そう。

 私の特殊という言い方は、この辺が関係している。


「過去……三年前かな? あなたたちが私の姉を助けたことが縁になっている。アーレたちが姉を助けた礼に『男をくれ』と要求したんだろう? それで私が来たんだ」


「そうだった。森の向こう(・・・・・)の話だったから私も覚えている」


 それはよかった。


 時期は冬。

 姉が嫁入りのために移動している際、魔獣に襲われた。

 それを助けたのが、アーレたちだった。


 その当時、白蛇(エ・ラジャ)族では男女が割れる集落問題が勃発しており、食料のストックが儘ならなかった女性陣が、食料調達のために森を越えたのだ。


 通りがかったアーレたちが姉を助け、そして姉に「婿をよこせ」と要求した。


 ――姉サンティオも聖国フロンサードの王族である。

 ――その力は他国に渡せるほど弱いにしても、彼女も聖女の力を持っていた。


 姉は、直感が鋭かった。

 あれは恐らく「聖女の先見の力だろう」と言われていた。


 初代聖女は水鏡や水晶、宝石といった光を反射するものから、未来の映像を読み取ったという。

 その辺の力を継いでいるのだろう……と言われていたが。


 実際どうだったのかは未だ謎である。

 本人が見たい時に見られるものじゃないし、そもそも映像は見えないようだし。


 傍目にも本人的にも、本当に直感が働く時がある、というだけのものだったから。

 私も聖女の力はあまり継いでいない方だが、サンティオは弱い上にわかりづらかったのだと思う。


 ただ、アーレたちの要求に対し、姉の直感は確かに働いたらしい。


 だから「最高の男を用意して送れ」という姉の手紙に対し、父上は悩んだのだ。

 手紙を貰って半年くらいは何も決まらず、ずっと悩んでいたらしい。


 もし姉の直感がなければ、適当な男を見繕って送っていたと思う。

 だが「最高の男」と注文が付くのであれば、適当な男を送るのでは適切ではないからと。


 姉の直感がそう言うのであれば、無下にするべきではないと。

 姉の直感があったから、王位継承権は低いまでも、一応は王族だった私が行くことを許されたのだ。


 一応、選べる中では「身分が最高の男」として。


 ――個人的な心情を言うなら、姉の直感は間違っていなかったと思う。


 少なくとも、私は今とても幸せだ。


 ……という長い説明をしても、伝わらないだろうな。


「姉の直感は鋭い。その姉に行った方がいいと言われたんだ。当時私は女性にフラれて傷心だったこともあってね、少しばかり故郷に居づらかったから」


「おまえを振る女がいたのか? バカだな、その女。レインほどの男など早々いないのにな。私なら牛百頭と交換でも応じないぞ」


「……ありがとう」


 いまいち単位がよくわからないが、金銭換算だとかなりの高額になると思う。フロンサードでも牛一頭は決して安くないから。


 まあ、元々政略結婚だし……いや、もうややこしいのはいいか。事実だけ言えばそれだけのことだしな。





「とにかく、私のような男がすぐには見つからないという話は、納得してもらえたかな?」


「よくわからんが、おまえのような男がたくさんいるとは思えないな。だから特殊なんだな」


 よくわからん、か……まあそれだけわかればいいか。

 話を続けよう。


「行ってすぐ見つかるとは思えないし、基本的にこちら(・・・)の者が向こう(・・・)をうろつくのは、あまりお勧めできない」


「知っている。すぐ騒ぎになるからな。だから私たちは向こう(・・・)で活動する際はこれを隠す」


 と、タタララは白鱗に覆われた右手を振って見せる。わかっているならいい。


「タタララ。この話、私に預けてみないか?」


「私の婿探しか?」


「そうだ。向こう(・・・)の知り合いと連絡を取って、できるだけあなたの要望に添う形で話をまとめてみる」


「……」


「そもそも今は戦の季節だ。今すぐ行く気はないだろう? 現実的なのは秋と冬だ」


 秋冬は、いわゆる狩りのオフシーズンである。

 夏があまりにも大変なだけに、戦士の休息はそれなりに長い。


「……そうだな。今はアーレの傍を離れる気はない」


 うん。


 白蛇(エ・ラジャ)族が弱りに弱る冬は、さすがに危険なので集落に戻ってくると思う。

 向こう(・・・)で越冬までするとは思えないので、婿探しに動けるのは、秋の間くらいだろうか。


 時間としては短い。

 それを有効利用するためには、やはり、向こう(・・・)の協力体制やバックアップが必要になるだろう。


 なんなら事前に婿候補を探してもらうのも有りだ。


「フレートゲルト。覚えているか?」


「ん? ああ、ケイラを連れてきたあの男だな」


「彼に相談して、あなたが向こう(・・・)で動きやすくなるように、協力してもらおうと思う。住む場所とか必要だろう?」


「……、よしわかった」


 しばし視線を漂わせて迷いを見せていたタタララは、力強く頷いた。


「この話、おまえに任せる。おまえがいいと思うようにしてくれ。頼む」


 深々と頭を下げるタタララに、私はわかったと応えた。





「あ、いろんなうまいものを食い歩きたいというのもあるんだ。そっちも忘れないでくれよ?」


「え? あ、そうなのか?」


「あのドーナツが未完成だと言っていただろう。本来の味とは格段に劣ると。確かめてやろうと思ってな」


 …………


 もしかして、婿探しより食道楽が本命だったりするのだろうか。


 いや、あえて聞くまい。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レインの、知り合い/フルートゲルトに協力頼むの辺りでタタララが迷うのが興味深い。w
[良い点] フレートゲルト、大チャーンスw 恋のキューピッド・レインがくれた激アツ展開で、どの様にタタララを口説き落とすのか楽しみでニヤニヤしてしまうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ