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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第五章 新婚旅行という名の
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183.帰ってきた温度差





 帰ってきた。

 約二週間に及ぶ誘拐から、ようやく白蛇(エ・ラジャ)族の集落に帰ってきた。


 私が攫われてからも、特に何があったというわけでもないようで、私が帰るべき場所は変わらずそこにあった。


「――あ、婿さんお帰り!」


「――おお、帰ってきたか!」


「――無事か!? 無事だな!?」


 集落の皆……女性たちはそれなりに心配してくれていたようだが、


「――まあ族長が迎えに行ったから当然か」


 とのことで、歓迎ムードもそこそこに出迎えてくれてすぐ散っていった。族長に対する信頼が高いと見るべきだろう。


 なかなかクールな反応だが、まあ、今は昼時だからな。

 この時間帯の女性は皆忙しいから。


 話をするなら夜でもできるし、アーレから正式な通達もたぶん出るはずだ。


「――おまえら誰だ?」


「――羽がある! 黒鳥(カッ・コハ)族だ!」


「――ばか! 黒鳥(カッ・コハ)族は黒髪だろ!」


 おっと、そうだ。


「彼らはしばらく一緒に住むんだ。仲良くしてやってくれ」


 白蛇(エ・ラジャ)族の子供たちが、私と一緒にやってきた錆鷹(サク・トコン)族の子供三人に絡んでいるところに口を挟む。


「――おまえら飛べるよな!? 飛べよ!」


「――あ、すげえ! 飛んだ!」


「――こっち来いよ! ヤギどもを追い回してやろうぜ!」


 ああ……うん、子供たちは問題なさそうだな。


 あとヤギを舐めるなよ。

 彼らは子供たちから露骨に逃げ回るふりをして、逆に子供を遊ばせているだけだからな。


 まあ、それに気づいた時こそ、少し大人に近づいたということなのだろう。


「子供は大丈夫だろう。あなた方はこちらだ」


 と、私は私を吊って飛んできた錆鷹(サク・トコン)族の夫婦を促した。





 約二週間ぶりの集落は、特に変わりはない。


 一応私は誘拐されてようやく帰ってきた身になるのだが、それにしては心配が薄い気がする……

 いや、過剰に心配しろとは言わないので、これはこれで文句はないが。


 同行してきた錆鷹(サク・トコン)族は、夫婦に子供三人という五人家族だ。

 どういう基準で選ばれたのかはわからないが、彼らの族長オーカが選び、彼らも合意してやってきた。


 人質として。


 見た感じ、普通の錆鷹(サク・トコン)族の一家という感じだが……選ばれるだけの理由があったのか、なかったのか。

 気にならないとは言わないが、そこら辺はアーレが受け入れを決めた時点で決定なので、いずれ判明すればいいと思う。


 いずれ族長を後任に継がせたオーカも、この集落に来ることになっているしな。

 どうしても気になるなら彼に聞けばいいだろう。


 ――なお、アーレは到着が遅れている。


 私は錆鷹(サク・トコン)族夫婦に吊られて運ばれてきたが、彼女はずっと地面を走ってきた。

 子供たちの体力も考えて、途中の集落を訪ねて屋根を借りつつ、三日掛けて無理なく帰ってきたのだ。


 その間走っていたアーレも、無理のないペースだったらしく、常に互いが視認できる状態で移動していた。

 我が嫁ながら大した体力である。


 そんなアーレは、どこかで白蛇(エ・ラジャ)族の戦士たちと合流できたらそのまま狩りに行くと言っていた。

 だから、今頃は狩りに合流していると思う。帰るのは夕方だろうか。


 慌ただしいとは思うが、今は戦の季節なので、族長としてはすぐにでも狩りに参加したかったのだろう。

 白蛇(エ・ラジャ)族では、戦わない族長は認められないから。


「――レイン様!」


 子供たちは遊びに行ってしまったので、錆鷹(サク・トコン)族の夫婦二人を連れて家に帰ると――家の前に立っていたケイラが声を上げた。


 恐らく、集落が騒がしくなったところで私が帰ったことを知り、ここで待っていたのだろう。 


「よくぞ御無事で……!」


「うん。ただいま」


 うっすら瞳に涙まで溜められて言われると……ちょっと罪悪感があるので、クールな歓迎くらいが丁度良かったんだろうな。

 攫われた時こそ色々と不安はあったが、目的が判明してからは特に不安も何もない生活をしていたから……


 いや、不安はあったか。


 アーレが来たらどうしよう、というのが一番の不安だった。

 私が止める間もなく錆鷹(サク・トコン)族を皆殺しなんてことが起こりそうな不安は、どうしたって付きまとっていたから。


「詳しくは夜に話そう。アーレは狩りに行ったから、帰ったら彼女から説明があると思う」


「は、はい。……思ったより冷静ですね」


 私も多少気になった反面、迎える側も多少引っかかるものがあったらしい。


「誘拐されたと言われれば大事件だが、行った先でのことが思ったより何もなくてな。話せることも大してないんだ」


「は、はあ……まあ、ご無事で何よりかと」


「ありがとう」


 帰る側と迎える側の温度差か。

 きっと同じくらい熱量があるのが理想なんだろうけど、本当に、少なくとも私には特筆すべきことはなかったからなぁ。


 まあ、代わりに得たものは大きいと思うが。






  きゅー! きゅー!


 火を入れていない囲炉裏端でぐたっと寝ていたサジライトが、私に身体を揺らされて起きるという野生の欠片もない流れで飛び起きて、激しく歓迎してくれた。


 よしよし。

 私が攫われる時に私を見捨てたのは忘れていないが、しょせん獣だからな。そんなものだよな。いいんだぞ、忘れても。


 …………


 すぐに歓迎の熱が冷めて寝直したところはダメだと思うがな。もう少しいいじゃないか。なあ。なあ? 起きない? 起きたくない? 寝る? あ、そう……


 しつこく触っていたら、手が届かない場所まで行って寝てしまった。……しょせん獣だからな。こんなものだよな。


 ハクとレアは変わらず……私が誘拐されたことも帰ってきたこともきっと知らず、今日も寝ているようだ。

 下手に触って起こすのも何なので、見るだけに留める。


 ナナカナは卵を拾いに行っているそうで、昼は帰らないそうだ。


 ――さて。


「昼食を食べたら空き家に案内するから、しばらくゆっくりしてくれ」


 上がってもらった錆鷹(サク・トコン)族の夫婦にそう告げ、これから彼らが住むことになる白蛇(エ・ラジャ)族の集落について軽く話しておくことにした。





 つつがなく昼食が終わり、錆鷹(サク・トコン)族の二人はひとまず休める場所として、族長宅の空き家に案内した。


 細かい決め事はアーレがするので、私が彼らにできるのはここまでだ。


「私が不在の間、大変だっただろう」


 本宅の台所にいたケイラに声を掛ける。


 今は戦の季節。

 夜は毎日のように戦士たちが集まり、大騒ぎする。


「いえ、特には」


「あれ? そうなのか?」


「ええ。戦士の皆さまは、族長代理として立てられたジータ様の家に集まるようになったので。こちらは毎日女性が数名とカラカロ様が来るくらいで、あまり大変ではありませんでしたよ」


 ああ、なるほど。

 アーレが不在になるから族長代理を立てて、結果集まる戦士が分散したのか。


「ただ、違う方向で不便が」


「違う方向?」


「何名か若い男性戦士が、嫁探しのためにレイン様に相談に乗ってほしいと言っていました」


 あ……ああ、うん。そうか。

 夏は色恋の季節でもあり、秋に結婚することを目指すんだよな。


 私に何ができるかわからないが、相談くらいなら乗ろうじゃないか。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] ↓ですよね、前話と整合性がとれません。 前話では子供二人の四人家族でした。
[気になる点] 前話では子供二人でしたが子供三人?
[気になる点] アーレとレインではなくて、他のカップル達の話になるのかな? まあ、新婚旅行と言う名の何か別物って事だけど。 流石にないとは思うけど、いろんな集落の新婚さんがエラジャに押し寄せるとかだっ…
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