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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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17.大狩猟当日





 初めて見た。

 そして、もしかしたら初めて私も見られたかもしれない。


 ――男性の白蛇(エ・ラジャ)族。


 いる、という話は聞いていたし、実際いるのはわかっていた。

 タタララなんてまだ一人前じゃない戦士の弟がいるとまで言っていたから、実在していることはわかっていた。

 しかし、この集落に来て一ヵ月半が過ぎようという今日まで、姿を見ることさえなかったから。


 こうしてちゃんと自分の目で見ると、ちょっとした感動がある。





 いよいよ大狩猟である。

 これまでも準備で忙しかったが、いざ当日まで残り数日となれば忙しさに拍車が掛かり、あっという間にその日が来てしまった。


 まず先行してきた他部族の女性たちと準備をしている最中、数日を掛けて今度は戦士たちが集まってきた。


 だいたい一部族から五十人くらいが来ており、戦士たちは集落の外で、野営をしてその時を待っていた。

 単純に百五十人もの来客があった計算だ、さすがに全員を泊める場所がないので、外で待つのは通例らしい。


 そして、こちらからは白蛇(エ・ラジャ)族の戦士たちが五十から六十名ほど。


 集落の入り口に、二百人を越える戦士たちが集まっている様は、なかなか恐ろしいものがある。あと全員露出がすごくて腹筋もすごい。女性戦士もかなり鍛えているとは思っていたが、男性は更にすごいな。ムキムキどころかもう血管とかビキビキだ。


 私も幼少から多少は鍛えてきたが、あれらとは比べ物にならない。

 彼らからすれば、私の鍛錬など鍛えていた内に入らないかもしれない。何気にナナカナの方が私より力もあるしな。……あるんだよな、あの子供の身体と細腕で。


 これだけの蛮族の戦士がいれば、きっと、一国くらいは落とせるのだろう。

 全員が、一人一人が、きっとフロンサードの騎士より強い。


 ……まあ、矛先が霊海の森の向こう側(・・・・)に行かないことを、祈るばかりだ。


 ――それはそれとして。


 女性たちと一緒に戦士たちを見送りに来た私は、そこにいた白蛇(エ・ラジャ)族の男の戦士の集団を始めて見た。

 それと同時、彼らにもすごくじろじろ見られている。たぶん私の噂くらいは聞いているのだろう。


 そして、だ。


「いいかげんにしろよ、アーレ」


「黙れジータ。掟を破ったのはおまえらが先だ」


 そして、大狩猟開始の合図を出すために控えていた、族長アーレ・エ・ラジャに絡む白蛇(エ・ラジャ)族の男。


 名をジータという、分裂している男の集落の族長にあたる若者だ。意志が強そうな顔で、左の太腿が白鱗に覆われている。

 二十歳くらいだと思う。上背もそこまでじゃないし、やや細身だ。もちろん腹筋はビキビキである。


 族長は戦士の中で一番強い者がなる、というのが掟らしい。

 ならば、少なくとも、アーレ・エ・ラジャには勝てないまでも男の戦士の中では最も強いのではなかろうか。


 ……私としては、ジータの後ろに付き従う大柄な白蛇(エ・ラジャ)族の男の方が強そうに見えるが。

 でも、立ち位置からして、彼よりはジータの方が強いのだろう。


「――ジータとやらの後ろにいる者は?」


 彼らの耳に入らないよう、ひそりと隣のナナカナに訊いてみる。正直ジータよりもあっちの方が気になった。


 たぶん目のせいだろう。

 彼もアーレ・エ・ラジャと同じ金色の瞳をしていたから。


「――カラカロ。前族長の息子。すごく強い」


 カラカロ、か。彼も腹筋バッキバキだな。


「もういいだろう。女の族長なんてよその部族にも舐められる。俺に族長を譲れ」


「黙れと言っている。大狩猟の前に怪我でもしたいか?」


 いつになく……というか始めて見るレベルで不機嫌なアーレ・エ・ラジャが、噛みつくように言ったところで。


「――ジータ、その話はもう済んだはずだ」


 と、後ろのカラカロが低い声で割り込んだ。


「どちらも折れない。今回は二人でやる。そう決めただろう。――こんな言い争いこそただの恥だ。お互い族長になりたいなら決め事くらい守れ」


 まあ、確かに。

 白蛇(エ・ラジャ)族の戦士も含めて、二百人ほどの戦士たちが、今か今かと開始の合図を待っている状態だ。


 もっと言うと、アーレ・エ・ラジャとジータの言い争いを見ているくらいだ。

 距離があるので聞こえてはいないと思うが、でも言い争っていることくらいは見ていてもわかるだろう。


「チッ……女なら男に従えよ」


 捨て台詞のように言うジータだが、アーレ・エ・ラジャはそれには構わず振り返った。


「レイン」


 私を。


「ナナカナ」


 それとすぐ隣のナナカナを。


「行ってくる。飛びっきりの飯を用意しておけ」


「――いってらっしゃい」


 大狩猟は戦士の祭り。

 戦士たちはこの日を待ちわび、力を誇示する。

 よその部族にも、自分の部族にも。

 あるいは、神々にも。


 戦士たちは当然として、アーレ・エ・ラジャも例外なく、奮起していた。


「……?」


 アーレ・エ・ラジャに応えた私を、ジータとカラカロが見ていた。……まあ、気になる存在ではあるのだろう。私も彼らが気にならないわけではないから。


「――待たせたな!!」


「あ、おい待て!」


 アーレ・エ・ラジャが開始の合図を出そうとしたので、ジータとは慌てて彼女を追って行った。そしてそんなジータにカラカロはゆっくり追従した。


「今日は大狩猟だ! 我らが勝つ! おまえたちも負けるな! 行くぞ!!」


 ――うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!


 戦士たちが雄叫びを上げた。

 まるで空が震え、大地が揺れ、山が動きそうなほどの力強さを感じた。


 すごい。

 騎士隊や兵士隊の合同訓練もすごかったが、彼らが放つこの迫力はそれよりすごい。


 純粋な生命力を感じる。

 余計なものが存在しない、剥き出しの生命力を感じる。


 魔獣に負けないくらいの暴虐を感じる。 

 いや、今や彼らこそが魔獣そのものなのかもしれない。


 生き物を殺すこと、仕留めることしか、きっと頭にないから。


 戦士たちが走り出した。

 地響きを立てて、走り出した。


 大狩猟が始まった。





 そして、こちらでも戦いが始まる。


「――さあ女ども! 宴の準備を始めるよ!」


 白蛇(エ・ラジャ)族の女性をまとめているミタが声を上げ、私たちはそれぞれのやるべきことのために走り出した。


 この日のために、食材も下ごしらえもたくさん準備してきた。

 だが、大人数分の料理はこれから作るのだ。


 私も、この日に備えて色々仕込んできたが――さっきの戦士たちの雄叫びを聞いたら、あれで足りるかどうか心配になってきた。


 戦士たちは、想定以上に肉食獣っぽかった。

 アーレ・エ・ラジャやタタララでも充分肉食っぽいと思ったが、それ以上に肉食獣っぽいかった。


 きっとめちゃくちゃ食べるし、呑むと思う。

 特に想像以上に身体が大きい戦牛(イルハ・ギリ)族は、通常の量の十倍くらいは平気で食べてしまいそうだった。


 食材には余裕があると思うが、もう少し多めに作った方がよさそうだ。





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