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蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~  作者: 南野海風
第一章 指先王子、女族長に婿入りする
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12.白蛇姫、夫候補を語る





「――意外とうまくいってる感じ?」


「――みたいね。最初に聞いた時は絶対に無理だと思ったけど」


「――キノコあった。焼いて食おう」


 陽が高くなった。

 狩りに出ていた女戦士たちは、狩場である霊海の森から抜けたところで、昼食を取ることにした。


 今日の狩りは、五人が参加している。

 族長アーレ・エ・ラジャとタタララ、そしてエキバとカーラとシキララ。皆独身でほぼ同年代の戦士たちだ。


 エキバとカーラが見ているのは、アーレだ。

 もっと言うと、アーレが夫に持たされた(・・・・・・・)昼飯だ。シキララだけは採ってきたキノコに枝を刺して焼く準備をしている。


 食料などの保存に使うバナガの葉で包まれたそれの中身は、肉をまるめた団子である。最近はいつもこれを食べている。


「お、なんだこれ」


「なんだ!? 今日は何が入っている!? 愛情とやらか!? 愛情とはなんだ!?」


 見た目はいつも、ほとんど変わらない。

 だが、この肉団子は、いつも何かが違う。


 その工夫になぜかタタララがいつも興奮しているが、まあいつものことなので誰も気にしない。シキララが「キノコ食う人ー?」と聞いているのにも無反応だ。アーレ、エキバ、カーラは「よこせ」だの「食べる」だのと返事をしているのに。


「コリコリしてる何かが入ってる。変わってるがうまい」


 正体は鳥の軟骨である。

 いつもは捨てる部位なのでアーレには馴染みがなかった。


「一つくれ!」


「駄目だ。おまえの飯はあるだろう」


 タタララは、男はともかく女にはモテるので、昼飯を持たせる者は多い。未亡人のナカやタタララと結婚すると息巻くベッサや二回未亡人のカーレン辺りは、色々と心配になるくらいタタララの世話を焼いている。


「男の飯が食いたいのだ!」


「最近晩飯を食いによく来るではないか」


「昼も感じたい! 男の気配を!」


「キノコ焼けたよー」


 一部騒がしいものの、それも含めてただの日常のワンシーンである。





 族長アーレが、婿候補と称して森の向こう(・・・・・)から男を連れてきて。

 それから十日ほどが経過した。


 最初は誰もが「うまく行くわけがない」と思っていた。

 

 白蛇(エ・ラジャ)族ではないことは、まだいい。

 だが森の向こう(・・・・・)の別世界から連れてきた男が、こちらの世界(・・・・・・)に馴染めるなんて、誰も思わなかった。


 数年に一回かそこらという珍しい頻度だが、奇跡的に森を抜けてやってくる者がいる。

 追放されただの、誰かに追われてだの、あるいは死に場所を求めてだのと、いろんな理由で向こう側(・・・・)にいられなくなった者が、一か八かで森を抜けることを決めるのだ。


 だが、森を抜けたところで、大抵がこちらの世界(・・・・・・)に馴染めずさっさと死んでしまう。

 どうにも、こちらの生活は向こうに比べて、過酷らしい。


 それが、こちら側の者(・・・・・・)の共通認識だ。


 ――しかし、アーレが連れてきたレインティエという男は、少々違っていた。


「う……」


 キノコを口に運んだアーレは、顔を歪めた。


「……我の分は少し塩を控えろと言ったではないか」


 白蛇(エ・ラジャ)族の男には考えられないことだが、アーレの連れてきた婿候補は、女の仕事をこなしている。

 それも、嫌々やっているのではなく、進んでやっている。


 ――まさに妻が夫を支えるかのように、アーレを支えようとしている。


「え? 族長のキノコはだいぶ塩少ないはずだけどー……」


 最近よく「塩を少なくしろ」と言っているので、シキララはちゃんと振る塩の量に気を付けていた。

 実際、自分たちの分の半分も掛けていない。


「ん、そうか……本当に戻った(・・・)のか」


 アーレは、レインティエに言われた「しばらくすれば味覚が戻るから、それまでは薄味で我慢しろ」という言葉を思い出していた。


 あまり自覚はなかったが、塩を感じない……いや、鈍っていた味覚が正常に戻ったのだろう。


 確かに塩辛い。

 レインティエとナナカナが揃って「塩が多い」と言っていた意味がよくわかった。


「……うまい」


 うまい以外あまり考えずに食べていた肉の団子をかじり、探るように咀嚼すると、いろんな味を感じることに少し驚く。


 肉を固めただけではない。

 野菜も入っているし、牛じゃなくて鳥の味もする。香辛料も三つも四つも感じられる。冷めてもおいしく食べられるよう工夫がなされている。


 きっと、思ったより手間が掛かっている。

「食えればいい」とばかりに貪り食っていたことが申し訳なく思えるくらい、これにはたくさんの手間暇がかかっている。

 朝も早くから起きて、ほぼ毎朝、朝飯と一緒に作ってくれる、これ。


「……フフッ」


 なんというか。

 心の奥がくすぐったくて、笑ってしまう。


 レインティエの気遣いが、己を大切にされている心が、結晶となってここにある。


 ――白蛇(エ・ラジャ)族の夫婦などあまりよいものには見えなかったが。


 ――やはり問題は、相手が誰かに寄るのだろう。


「おまえたち、よく聞け」


 ガツガツとキノコだの木の実だの野菜だのを貪り食っていた女たちに、急に上機嫌になったアーレが言った。


「塩の取り過ぎは、命を縮める可能性があるそうだ」


 ピタリ、と。

 ひたすら口に食い物を運ぶ手が止まった。


「我は夫と娘の言うことを信じようと思う。塩の消費量も馬鹿にならんしな」




 

 レインティエが白蛇(エ・ラジャ)族にやってきて、十日目。

 指先王子はそこそこに、蛮族の生活に馴染んて来ていた。





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