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124.鉄蜘蛛族の集落で 五日目





 1日目から5日目までの推移を見ると、確実に魔獣の襲撃回数は減ってきている。

 有難いことだ。


 昼夜問わず襲い来る魔獣の数は、毎日20体前後だった。

 そして昨日、今日と、15体を下回った。


 少しずつ襲撃回数が減ってきている。

 5日間で80体は確実に狩っているので、さすがに森にいる魔獣自体の数が、少なくとも集落周辺に縄張りを持っていた個体が減ってきたのだと思う。


 集まった戦士の腕が良いおかげで、魔獣被害はほとんど出ていない。

 戦士たちも、細かい傷は負っても大怪我をする者はいない。


 特筆すべきは二つ。


 まず、意外な働きを見せているキノコの人、シキララの存在だ。


 なんでも、彼女は採取専門の戦士だという。

 もちろん集落の外に出るので、戦えばそれなりに強いが、戦士としてはあまり強くないのだとか。


 しかし、自分の役割を認識している彼女は、毎回囮役を務めるそうだ。


 シキララが前に出て魔獣の気を引き、その隙に戦士たちが攻め込む。

 このパターンが確立した現状、単体襲撃の魔獣は呆気ないほど簡単に狩猟できるらしい。


 しかもそれぞれの動き自体は特別なことはない。

 だから、よその部族でもすぐに同じように合わせることができる。


 カラカロの話では、男の戦士はこういう戦い方はほとんどしないとか。

 単純な身体能力で劣る、女性戦士だからこその動きなのだろう。


 戦士にも役割があり、戦い方がある。

 そういうことなのだろう。


 特筆すべきもう一つの点は、黒龍族のトートンリート。


 彼女は強い。

 戦自慢の戦牛族の戦士も来ているが、それを凌ぐ強さを持っており、現在この集落では最強だと目されている。


 私は戦場に立たないので実感はないが、戦士が証言するのだから間違いはないのだろう。


 代替わりはまだ完了していない。

 強い者がいるという安心と頼もしさは、今はとても有難い。



 病人は順調に増えている。

 増えるのも予想できたことなので、これで順調なのである。

 

 聞いていた流行り病も出てきたので、数名が隔離された。

 彼らは代替わりが完了して病を退けるまで、外出禁止で面会も謝絶である。


 親に会いたがる子供もいるので、できるだけ寄り添いたいと思う。



5日目

 黒猪  4頭

 守斬虫 2匹

 爆頭虫 1頭   

 霧烏  2羽

 甘鋼樹 1体

 痺花  2輪

 


病にて隔離した者

 男  5人

 女  8人

 子  13人

 幼  8人


流行り病にて隔離

 男  0人

 女  1人

 子  3人

 幼  1人


※子は5歳以上12歳未満 幼は0歳以上5歳未満








「……ふう」


 眠い。

 今日もよく働いた。


 一日目こそ気負って肩肘張っていたが、慣れてしまうと日常と変わらない。


 もう夜だって眠れるし、襲撃の音や近くで吠える魔獣の声で起きても、すぐに寝直せるようになった。


 襲撃を受けても、魔獣が近くても、戦士たちが必ずどうにかする。

 それを信じようと決めてから、あまり動じなくなった。


 まあ、多少は度胸がついたのかもしれない。

 私も今や立派な白蛇(エ・ラジャ)族の一人だ。しかも族長の婿である。多少のことで動じていてはやっていけない。


 五日目の記録も終わったので、さっさと敷物の上に横になる。

 近くで狂ったように吠える魔獣の声を聞きながら、すぐに眠りの世界に落ちていった。





 早朝、夜の番をこなしたカラカロと入れ替わるようにして起床し、また一日が始まる。

 身だしなみを整えて家を出て、木漏れ日が美しい集落を眺め、動き出す。


 顔を洗って歯を磨いて、病人たちの診察に回る。

 流行り病が出てきたので、隔離施設は二つになった。


 どちらも回り、様子を見る。

 悪化は……誰もしていない気がする。

 微熱が続いているが、小康状態を保っているように見える……けど、油断は禁物だな。今は治ることはないらしいから。


 診察を済ませ、族長ハールの家で朝食を食べる。


「よっ」


 ここ二日ほど、朝は黒龍(ファ・ルー)族のトートンリートが一緒になっている。

 彼女は朝から夜までが担当なので、生活リズムがほぼ同じなのだ。


 理由は「いろんなとこで食ってきたけど、この集落ではリージの飯が一番うまいね」とのことだ。


 ――なお、ハールも白蛇(エ・ラジャ)族と青猫(カレ・ネ)族同様に夜の担当なので、今は寝ているはずである。


「病気の方はどう?」


「今すぐ危ないって人はいないよ。そちらは?」


「この辺の魔獣はあんま強くないね。でもうまいよね。虫も結構イケる」


 さすが最強。色々と逞しいな。


 ――トートンリートは一人旅をしていて、西では「東の極地」とまで呼ばれているというこの辺までのんびりやってきたらしい。まあ、元々旅はしていたようだが。


 この辺に来た目的は、戦牛(イルハ・ギリ)族の前族長キガルスに会うため。

 それに合わせて、いろんな部族の強いとされる戦士を訪ねて力比べをするのも、目的に入っているそうだ。


 ちなみに、今集落に来ている戦士たちとは、もう力比べをしたそうだ。

 カラカロが「あれは強いぞ」と言っていたのは、それを経てのことだろう。


 話もそこそこに朝食を済ませると、こっちに来てからは完全に別行動になったケイラたちに会いに行く。


 一緒にケイラ含む白蛇(エ・ラジャ)族の女性たちは、よその部族の女性たちとともに、病で倒れた者の代わりに、女性の仕事をしている。

 私は医者の真似事に専念するよう言われたので、別行動になってしまった。


「問題ないか?」


「はい。今のところは」


 今のところは。

 毎日のように病で動けなくなる者が増えているので、いずれ手伝いの手が足りなくなることを予期しての返事だ。


 でも、それに関しては対策はないからな。

 耐え忍び、凌ぐしかないと思う。


 ……早く代替わりが終わってくれるといいんだが。まだ五日が過ぎただけなんだよな。


 二週間から一ヵ月って話だったよな。

 このまま安定してくれるといいんだが。





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― 新着の感想 ―
[一言] シリアス展開続きますねえ。 ドキドキハラハラします。 たまにはこういうのもとっても楽しいです。
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