2. 黒い犬
オリは途方に暮れてしまいました。
おばさんの家に帰りたくても、帰り方が分かりません。
お腹も空いてきてしまいました。
オリは勇気を出して、目の前の小屋の扉を叩いてみることにしました。
誰か大人がいれば、助けてくれるかもしれません。
トントン。
「こんにちは。」
呼びかけても、返事はありませんでした。
オリは思い切って、ドアノブを捻ってみました。
鍵はかかっていませんでした。
「ごめんください。」
ドアの隙間から挨拶をしても、返事はありません。
オリはそっと扉を開けて、中に入ることにしました。
「ごめんください。誰かいますか。」
オリはまた声をあげました。
やっぱり返事はありません。
オリは泣きたくなってしまいました。
小屋の中はとても狭そうでした。
壁側には一人用のソファーと暖炉、反対側には、ピアノがありました。
その向こうには机と椅子と、ベッドがありました。
部屋の中を歩きながら、誰がここに住んでいるのだろうと、オリは考えていました。
「だれだ!!」
突然、怒鳴り声と唸り声が聞こえて、オリは飛び上がりました。
扉の方を見れば、大きな黒い犬が、毛を逆立ててこちらを睨んでいました
三角に尖った耳も、地面に爪を立てる足も、尻尾の先まで真っ黒でした。
剥き出しになった鋭い牙だけは、真っ白でした。
あまりに恐ろしくて、オリは動けなくなってしまいました。
怖くて歯が噛み合わず、口の中でカチカチ音がします。
膝が震えて、オリはとうとう床に座り込んでしまいました。
「おまえは誰だ?主人の家で、一体何をしている?」
黒い犬は唸るのを止めて、オリに聞きました。
しかし、オリは怖くてわぁっと泣き出してしまいました。
「あぁ、わかったわかった。私が悪かった。泣くのを止めろ。」
黒い犬はオリに近づいて、オリの涙をぺろぺろと舐め取りました。
でもオリは、なかなか泣くのを止めることができませんでした。
逆立っていた毛はぺたりと倒れて、牙はしまわれて、犬はもう、そんなに怖そうには見えませんでした。
「私はオリ。かってにおうちに入ってごめんなさい。ハチドリを追いかけていて、迷ってしまったんです。妖精に、おうちには帰れないと言われてしまった。」
「ハチドリ?妖精?さては、いたずらっこのリーナの仕業だな?」
オリの話を聞いて、何故だか犬は不機嫌そうでした。
「私の名前はシド。オリ、私に着いておいで。妖精の母親に、相談しよう。」
黒い犬はそう言って、オリを小屋の外に案内しました。