12. 初めての乗馬と、二人の小屋
もうすぐ日が暮れるからと、オリたちはジャズの家に案内されました。
辿り着くまでの残りの道のりを、オリはジャズと一緒にトーファーに乗って進みます。
シドは地面の匂いを嗅ぎながら、トーファーの前と後ろを行ったり来たり。
ディーンはちゃっかりと、トーファーの頭の上に寝そべっていました。
ほんの小さな身体のディーンに、トーファーは全く気にしていない様子でした。
トーファーの背の上、ジャズの前にオリは座って、身体を硬くしています。
後ろから手綱を持つジャズの腕に囲まれてはいますが、馬に乗った事の無いオリは、一歩進むたびにゆらゆら揺れる背中が心許なくてたまりません。
座っている鞍のへりを、両手でしっかりと掴んでいます。
「もっと力をお抜きよ、小さいお嬢さん。」
歩きながら、トーファーが低い声で優しくオリに語りかけました。
トーファーは、どうやら年配の雄のようです。
「急に高いところに来て怖いのは分かるけど、それでは私が落としてしまいそうでヒヤヒヤするよ。ジャズのように、身体の力を抜いてごらん。私の背中と一緒に、ゆらゆら揺れるのさ。その方が、安定するよ。」
オリは言われた通りにしようとしましたが、ついつい力が入ってしまってなかなか上手くいきません。
「初めて馬に乗るなら仕方がないわ。私がしっかり支えるから、大丈夫よ。」
オリの頭の上で、ジャズが言いました。
「やれやれ、慣れるまでは仕方がないね。こっちまで肩が凝りそうだ。ほら、ご覧。私たちの家が見えて来たよ。」
ジャズとトーファーの家は、森が開けた、土のむき出しになった場所にありました。
緑色の屋根の小屋で、やはり大きな木の下に作られています。
家に辿り着くと、先に降りたジャズが、オリを抱いて降ろしてくれました。
背の高いトーファーには、オリは一人では登る事も降りる事も出来なそうです。
「さあどうぞ。狭いけど、お茶ぐらいは出そう。詳しい話を聞かせておくれ。」
ジャズの小屋は、中に入るととても狭くて、ティータの庭にあった、シドの小屋によく似ていました。
小さなテーブルに、革張りの椅子、それからベッド。
ピアノが無い代わりに、小さなキッチンがあるところが、シドの小屋との違いでした。
「オリはここにどうぞ。椅子はひとつしかないから、ごめんね。」
そう言って、ジャズはオリをベッドに座らせてくれました。
「さて、それじゃあ詳しい話を聞かせておくれ。」
トーファーの鞍をはずしてブラッシングを終えたジャズがお茶を淹れる横で、大きな窓から顔を出したトーファーが言いました。
隣の納屋とこの小屋は、窓で繋がっているのです。
「実は–––」
シドがお決まりの説明をしている間、疲れ切ったオリはあくびを止める事が出来ませんでした。
オリはぱたりとベッドに横になって、そのままお茶も飲まず、ご飯も食べないままに、眠りについてしまったのでした。