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異世界管理局員活動報告 【世渡り上手は世捨て人の必須能力です】 特例課主任、神谷幸一郎の場合

作者: 久山春北

初投稿です。お目に留まれば幸いです。

  神類が増えすぎた箱庭を持て余すようになって数世紀余、広大な空間の片隅に追いやられていた箱庭から氾濫が起こった。


  箱庭が増えたきっかけは、ある一柱の些細な自慢だった。

 その後、静水面に生まれた波紋がどこまでも広がるように、我も我もと続く神類によって、数多の箱庭が濫立されていった。

  箱庭の濫立は神類の意識に負を生じさせ、疎まれた箱庭は隅に追われ、何時しか忘れられ、暗き処へと沈んでいった。

  しかし、沈んでいった箱庭は滅びてはいなかった。

 暗き所で吹き溜まった箱庭の、その内に僅かに揺らめく残り火は、互いに貪りあい、とけ合いながら大きな焔となり、自身を追いやった神類への恩讐を迸らせながら、光り射す場所を目指して猛進し、それを飲み込もうとした。

  神類は恐れた。その恩讐を。神類は涙した。その恩讐に。

  幾ばくかの後、その恩讐を打ち払った神類は自らの行いを恥じ戒め、同じ過ちを繰り返さぬよう箱庭を管理する場所をおき、管理する者達をおき、その任に就いてもらう事とした。




「そんな訳で、お主にも局員として管理の手伝いをお願いしたいのじゃよ」

 好々爺然とした一柱が、後光を揺らめかせながら屈託のない笑顔で告げてくる。

「説明雑!ってか、勘弁してください。穴に落ちてからこっち、あれやこれや乗り越えてやっと元の世界に戻れる目途が立ったんですよ!嫌ですよ。」

 そう返すのは、時空の裂け目から異世界に迷い込み、艱難辛苦を乗り越え自力で元の世界に戻る事が出来るまでに力を得た人[神谷幸一郎]

「ふぉふぉふぉ、そうじゃのう気持ちは解るがのう。」

 左手で顎をなぞりながら目を閉じ思案気なふりをする好々爺。

「でしょう!私は日本に帰りたいんです。」

 神谷は、好々爺の顔を見据え毅然とした態度でそう返す。

「じゃが、お主等の時間であれから30数年は経っとるし、お主も既に死んだことになっておるでのう。」

 思案気なふりを崩さず目を開け神谷を見つめる好々爺。

「あー…まぁそれは薄々思っては…、いや、しかしそれでも…」

 自らが思っていた懸念を指摘され俯く神谷。

「それにじゃ、お主が今のまま渡るとなると、大分面倒な事になるのじゃ。」

 トーンを一段落とし、真実味を込めて更なる懸念を告げてくる好々爺。

「俺が転移すると?何故です?」

 神谷は目線を戻しながら訪ねる。

「例えばじゃが、お主達実体の有る者等が形成しておる社会の中では、屋敷の中から外へ出る或いは外から屋敷の中へ入る場合、扉を開けて進み通過後は扉を閉めるのが手順であろ?」

「そうですね」

「その際に、外と中の…まぁこの場合〈空気〉とするのが分かり易いかの、そういったモノが混じり合い、両方に影響が出る。」

「それで?」

「扉の開け閉めが正常ならば、自浄作用も正常に働き影響は瞬く間に修復され問題は無いのじゃが…、」

「ふんふん」

「扉を閉め忘れたとなれば問題じゃ。影響力に自浄作用が追い付かぬため、外もじゃが主に中での変動が大きくなる。ここ迄はよいかの?」

「はい…」

「この変動じゃが、箱庭規模で起きると箱庭の住人にとっては例外なく天変地異になってしまう。」

「な、なるほど…」

「今のお主をこの例えに当てはめた場合、扉を開け閉めする事は出来んが、移動は出来てしまう。と云う矛盾した存在なわけじゃ。そんなお主の起こす事象を可能にするには、扉の破壊と云う結果が必要になる。」

「そんな……」

 神谷は、想定していなかった事態が起こり得る事を告げられ言葉に詰まる。

「扉の破壊は双方に変動を及ぼす。こちらの世界にもあちらの世界にもの。お主も、双方をそんな有様にはしたくはあるまい?」

「当たり前です!ですがそうならない可能性だっ・」

「残念ながら無い。今のまま強行するならば確定事項じゃ。」

「ぐぬぬぬ」

「悔しかろう。分るぞぃ。それ故にお主を此処に招いたのじゃ。」

「と言いますと?」

「うむ、話が早くて助かる。要は今のまま渡る事が問題なのじゃ。」

「なるほど、渡るのは良いと。矛盾無く渡る事が出来ればOKと云うことですね。」

「うむ、その通りじゃ!」

「で、そのための裏技が在ると?」

「無い!」

「えぇぇぇぇぇ!じゃあ何のために俺を此処に呼んだんですか!」

「お主に、その力を極めてもらうためじゃ。」

「ちょっ、まっ、そんな時間…」

「心配無用!此処は実に都合のいい処での、どれ程時を費やそうとも元に戻れば一瞬の間じゃ。使えるであろ(ニヤッ)」

「マジか~~~~~」

「マジじゃ。」

「拒否権は?」

「無い」

「ですよね~…、で最初の手伝いの話しに繋がると。」

「お主はまことに優秀じゃの。」

「はぁ~~嬉しくねぇ~~」

「何を言う、これもひとえにお主が稀に見る優良物件だからこそじゃ。」

「優良物件って、人を物みたいに」

「ふぉふぉふぉ、お主はもう片足がこちら側じゃからの。中途半端は害悪にしかならんのじゃ。仕方ないの(ニヤッ)」

「ぐぬぬぬ!いつかギャフンと言わしちゃる!」

「その意気じゃ。ではの。」

 人を食ったような笑顔を残し、フワリと消える好々爺を見送った神谷は呟く。

「クソじじい」

 異空間に一人残された神谷は呟く。そして突き付けられた課題の困難さを理解した。あの域に達しなければこの空間から出ることが出来ないという事を。

「やるしかないか。全く…、」




  空間が揺らめいた。揺らめきは近くに有った箱庭に触れて消えた。

 揺らめきが触れた箱庭の傍には三つの気配。一つは揺れの収まりと共に消え、二つはコソコソと逃げるように離れていく。


「ふむ、ちと面倒な…、あと逃げるのは感心せんの。」

 大きな気配は、二つの気配を摘み上げ拘束する。

「このモノらにはたっぷり説教するとして、そろそろあの者にも働いてもらおうかの。」

 良い暇つぶしが出来そうだとほくそ笑みながら、大きな気配は彼へのチャンネルを開く。寝起きの夢と云う細やかな贈り物をその波にのせつつ。



  地球と呼ばれる世界の中の日本という枠で囲まれたエリアの中部地方のとある山間部、廃村同然の一角で木工細工に打ち込んでいる男が一人。

  異世界に迷い込んだ後、必ず帰ると云う強固な一念のもと苦難に打ち勝ち、神の試練を乗り越え、帰還を果たした人?[神谷幸一郎]

  だが彼は、身を焦がすほどに切望した帰還を果たした後、何故か家族と再会することもせず、人の集まりから身を引いて此処で世捨て人同然な暮らしをしている。

  今の神谷にとって、この暮らしは何ら問題がない。何故なら、異世界やあの空間で得た力がそのまま使えるからだ。寧ろ人目につかないので都合が好い。一抹の寂しさは有るが…

  30数年という時間は人にはそれなりに長いものだ。行方不明のままであればまだ一縷の望みにかけて待っていたかもしれない。しかし遺留品の存在が前へ進むことを後押ししていた。形見として。神谷の遺族は、夫の、父親の死を乗り越え強く生活していた。

  その強さを見た神谷は、自身の中に寂しくも嬉しい気持ちを抱いた事を受け止め、名乗り出ることを辞め自身も同じく前に進む決断をしたのだ。


  神谷は、ふと疲れを感じ手を止めた。立ち上がり体を解すように伸びをしながら周りを見渡せば今までに作ったものが無造作に置かれている。

(ふぅ、けっこう溜まったな…)

 外に目をやればすっかり日は暮れていた。

「今日はもうやめとくか。」

 使っていた道具を箱に収めると、徐に魔力を纏い釜土を形成し、気流を操り木屑を集め、それを釜土に放り込み火を点ける。

「獅子鍋でいいか…」

 空中から鍋を出現させ釜土に置くと、またまた空中から出現した水と切り揃えられた食材を鍋に無造作に入れ煮ていく。

「灰汁は分離して…、味噌溶いてと……こんなもんか。」

 傍から見れば目が点になる光景の中、鍋を平らげた神谷は綺麗に後始末をした後、眠りについた。


【そんな訳で…、  嫌ですよ。  矛盾した存在…  ぐぬぬぬ…

 無い!  ええええええ!   使えるであろ(ニヤッ)

 嬉しくねぇ~~  仕方ないのぅ(ニヤッ)  ぐぬぬぬ…   

 ではの   クソじじい…】


【何であんなやり取りを今頃……って此処は!?】

 意識が覚醒してくるにつれて此処が何処であるかを理解する。

「勝手に呼ぶなやクソじじい!」

「呼んだかの?」

「貴方が呼んだんでしょうが!」

「ふぉふぉふぉ、そうじゃったそうじゃった。」

「ベタなボケを…、で?要件は何ですか?」

「久しぶりじゃというのにつれないのぅ、寂しいのぅ。」

「寝起きは感情が勝るんです。」

「そうじゃったか、ではまた時を改めて…、」

「いや、そーいうのいいから早く要件を言って下さい。」

「ふむ、物足りんがまぁ良かろう。早速じゃがお主に使いを頼みたいんじゃ。」

「頼みたいって…、拒否権は無いんでしょ?」

「ふぉふぉふぉ、その通りじゃ。」

「はいはい分ってましたよっと。で、どうすればいいんです?」

「うむ、実はある箱庭に此処の者が落ちてしまっての。」

「えっ!気付かなかった…」

「うむ、お主ぶったるんでおったからの。仕方ないの(ニヤッ)」

「ぐぬぬぬ、」

「ふぉふぉふぉ、そして使いの内容じゃが…、」

 好々爺は、仕掛けた悪戯が成功する期待を隠し切れない子供の様な笑顔を満面にたたえて告げてきた。

「管理局の方に資料を用意しておいたでな、そちらで目を通してくれ。」

「なっ!だったら最初からそっちに呼んで下さいや!」

「ふぉふぉふぉ、お主とも久しぶりじゃし、此処も懐かしかろうと思うてな、サプライズというやつじゃ。」

 と言い放ちドヤ顔でサムズアップをかましてくる好々爺

「いらねぇ~~~~~!」

「ではの、使いの件頼んだぞい」

 と言い残しスッと消える好々爺。

「チッ…  『世渡り』」

 後を追うように神谷もフワリとその空間を後にする。舌打ちを残して。




  『異世界管理局』神類が自らの戒めに準じて設置した、異世界(箱庭)の管理補佐を担っている機関。

 箱庭を異世界と呼ぶ理由は、単純にその方が管理補佐を担ってもらっている者達にとって馴染み安いからで、神類からするとどちらでも良いらしい。

  『異世界管理局』は、異世界管理に携わっていない神類と、神類にスカウトされた異世界人達によって営まれているが、広大な空間に数多存在する異世界を管理するためには、管理局も一つでは到底目が行き届かないため、局毎に担当する区域を割り振り複数設置されている。今現在その数108局。

  異世界は創造した神類が管理者となって管理しており、管理方針も管理者に全権があるため、管理されている異世界に管理局が関わる事は基本的には無い。

  しかし、異世界は管理者の管理から外れると『逸れ』となって漂流を始め、これを放置すると他異世界への接近干渉が起きたり、衝突して双方が崩壊したりと大小様々な問題が発生する。最悪は過去の氾濫の再発に繋がる事にもなりかねない。

  これらを防ぐのが管理局の役割であり、『逸れ』の発見と保護、及び元管理者への送還を主な仕事として担っている。管理者不明な『逸れ』については、異世界を所有していない神類が常駐している事もあって関わる事が認められている。というのは建前で、手が空いている神類に『逸れ』を押し付けるためであるのは、言わなくても分るだろう。

  他には特例と言われている類。管理者から依頼を受けて、管理者が手を出すと過干渉になってしまう問題の処理に当たっている。例えば、何らかの外干渉による影響調査とか、内部イレギュラーの早期処理とか、まぁ平たく言えば雑用だ。



 〈テレポーター 1メイデス〉

 機械的な音声アナウンスに続いて、転移ルームに1人の男が現れる。

「やあアストレイ、クソじ…総局長の依頼で来たんだが何処へ行けば良いかな?」

 〈Mr.カミヤ ミッションガロードサレテイマス No1ブリーフィングルームへドウゾ〉

「了解、ありがとう」

 第54管区異世界管理局、通称『エンタープライズ』此処の局長の嗜好に基づき、スペースファンタジー色が全開で施されている。

 部屋の前に着く。(プシュー) 当然扉は自動で開く。

(古いんだか新しいんだか…「神谷、到着しました」

「よう神谷!久しぶり。」

 書類に目を通しながらフランクな返しをしてきたのは此処の局長。今はどうやら気さくな上官がマイブームらしい。

(以前来た時の環境設定はもっと先の未来感だったんだが…)

 神谷が管理局に来るのは初めてではない。転移試験合格後の顔合わせの他、これまでに3件の特例案件に携わり終了している。

「書類とはまた此処の世界観に合わないレトロ趣味ですね。」

「うるさいわ、こういうワビサビが好きなんだよ。」

(あぁ~~、飽きたんだな…「いや、全然違いますけど。」

「俺は時代を先取りする男なんだよ!」

 はぁ…、小一時間ほどワビサビについて語りたい気持ちをため息に乗せて流し、神谷は話を進める。

「で、それが指令書ですか?」

(ちっ!乗ってこないか…「おう!読んでみな。」

 乗ってこないことへの不満感を出しつつ、局長は手に持っていた書類をデスクに置く。

「失礼します」

 神谷はデスクに近づき、その書類を手に取り読む。

「へぇー、くそジジイが直に言ってきた割には無難な…なぁぁぁ!?」

「はっはっは、あの爺様がすぐ終わる話なんか持ってくるわけないだろ。」

「くっそ…、」

 発見して保護して帰還する。最悪に面倒な状況だったとしても1年もあれば、と思っていた神谷の腹積もりはあっさりと凌駕された。

「調査育成勧誘込みだな。まあ、お前なら10年有れば十分だろ。それから、カーゴ3使ってくれよー」

「ん?何故に?」

「必要無いのは分かってるがな、その世界の諸々の情報記録と更新用だそうだ。便利道具は有っても困らないだろ。(ニヤッ」

「あー…(流したいが乗っておくか…

「お気遣い恐れ入ります。神谷調査員、これより任務地に向かいます。」

 どこかで見た映画のワンシーンを思い浮かべて、型通りの敬礼をする神谷

「おー!それそれ!」

 我が意を得たりとご満悦の局長、締めはやはり

「貴君の健闘を期待する」

 というセリフと堂に入った敬礼だった。



 【カーゴ】とは、局と任務地間の移動及び任務地で調査官のサポートを担う事を役割として創られた、広大な空間に点在する箱庭?異世界?星?に素早く赴くための船?のようなそんな感じの存在。そしてカーゴ3は3番目に創造された存在という意味になる。まぁ局長の嗜好がガッツリ入っているため、宇宙船を模しているのは間違いないのだが何故か見た目はまんまラグビーボールだ…。

 神谷自身もカーゴと同じことが出来るので必要無いと言えばそうなのだが、使えるのなら、求めれば余暇の話し相手になってくれるためありがたい存在とも言える。


 神谷は今、カーゴ3が係留されているエンタープライズのカーゴドックに来ている。

「初めまして、カーゴ3。今回共に任務に就く神谷です。よろしく頼みます。」

「初めましてMr.神谷、任務は把握しています。これより貴官の指揮下に入ります。敬語は不要です。」

 まるで対面にいる人と話しているかの様に音声が聞こえてくる。

「ありがたい。一人が長いせいで敬語は慣れてなくてね。助かるよ。」

「どういたしまして。ブリーフィング準備が整っています。早速ですがブリッジまでお越しください。転送は必要ですか?」

「よろしく!」

「ではそのまま動かずに」

 音声が切れると同時に神谷の身体を真珠色の光が包み、次の瞬間にはスゥーっと消える。

 瞬き程の間で神谷はカーゴ3のブリッジ中央に立っていた。

「おー凄い!これが転送か!」

 瞬時に視界に映る景色が変わったことに感嘆の声を上げ、自身や周りを見る神谷

「ありがとうございます。ですが、Mr.神谷も出来ると聞き及んでいますよ?」

「そうなんだけど、俺の場合扉を開け閉めするイメージで構成してるから、今みたいに瞬時に景色が変わるのは新鮮なんだ。」

「そうでしたか。お気に召していただけたのなら幸いです。」

「大満足です!」とサムズアップで返す神谷だった。


 ブリッジ空間は直径10m程の半球状で濃紺の床。光源は確認できないが周りを認識できる十分な光量で満たされており、いつの間にかすぐ後ろになぜか浮いている豪華なリクライニングチェアが一つ有るだけのシンプルな構成だ。

「Mr.神谷、座席にお掛けになってください。ブリーフィングを始めます。」

「了解」

 神谷が着席すると前方に今回の任務地と保護対象者のデータが表示される。

 任務地については、先の資料から創造されたばかりの若い世界という情報は得ていたが、このデータを見ると中々に混沌とした印象が膨らむ。

「虫と獣と恐竜?と…海も在るから水生生物も居るか…何か結構整ってるっぽいなぁ…」

「ご推察の通りです。そして付け加えるならばこの世界には知的生命体は存在していません。」

 神谷の呟きを拾ったカーゴ3が答える。

「へぇー、ではこの世界の循環的なというか連鎖的なというかそんなものは?」

 カーゴ3が答えてくれたので更に疑問を問う神谷。

「はい、この世界は現在の状態でほぼ連鎖環境が完成しています。」

「なるほど。後は経過を観察するだけだった訳ね。とするとこの世界に変な影響を与えることは出来ないな。はぁ~」

「はい、任務内容にもこの世界に与える影響は最小限に抑えることが条件として組み込まれています。」

「最小限ねぇ…はぁ~…、で保護対象者君の方は?」

 溜息とボヤキともとれる呟きを吐きながら少年のデータに目を移すと、カーゴ3が神谷の黙読に合わせて読み上げてくれ疑問を投げかけてきた。

「地球人12歳男性 安藤優馬 地球国籍日本。Mr.神谷と同じ世界の方の様ですがお知合いですか?」

「いや面識は無いよ。俺が割り振られたのは少年と同じ世界だからってだけさ。それと、あの子の中にあの爺様の琴線に触れる芽が有るらしくてね、面白そうだからその芽を伸ばしてみようと思ったんだと。異世界に落ちるだけじゃなくクソじじいにも目を付けられた少年に俺は同情を禁じ得ないよ。主に後者の理由でね。」

「そうでしたか。  では次にこれからの行動ですが、腹案は有りますか?」

「何やら気になる間があったが…、まぁいいや、案は特に無いなぁ、少年の捕捉は?」

「ここからでは不可能です。任務地上空にてスキャン発見保護が最も効率的です。」

「OK!じゃ早速出発しよう。」

「承知しました。カーゴ3出発します。衝撃に備えてください。」

「えっ!?」

 神谷の疑問を置き去りに、神谷を乗せたカーゴ3は任務地に向けて射出されたのだった。



 程なくして神谷を乗せたカーゴ3は、任務地の全容を眺められる位置に到着した。中に乗っていた神谷は、余りの加速Gと減速Gに翻弄され酷い二日酔い状態になっている。…どんな状態?

「すぅううう~、はぁあああ~、すぅううう~、はぁあああ~、すぅううう~、はぁあああ~」

 深呼吸を繰り返し身体を正常な状態に戻した神谷

「目的地に到着しましたMr.神谷。お加減は如何ですか?」

 カーゴ3が事も無げに聞いてくる

「ヒデーよ!カゴさん。こう成るなら成るで先に言ってよ~。どえらかったわ。」

「申し訳ありません。Mr.神谷のパーソナルデータを拝見するうちに、本当に実体を持つ存在なのかという疑念が拭い去れずつい…」

「つい…って、まーいーけどさ。で、合格って事で良いのかな?」

「恐縮です。以後は全力でサポートする事をお約束いたします。ところでカゴさんとはいったい何でしょう?」

「あー!そうそうそれそれ、今後行動するにあたって、ずっとカーゴ3や任務地って言うのは何かこぅ…リズムが合わないなーと思ったんで、今任務中はカーゴ3のことをカゴさん、此処のことをジュラと呼ぶ事にしたよ。良いだろ?」

「成程、承知致しました。これよりその認識に改めます。」

「ありがとう。じゃあ早速、カゴさんスキャンよろしく」

「YES Mr.神谷、スキャンを開始します。」

 カーゴ3のスキャンに合わせて神谷も自身の能力を発動しジュラ全体をサーチしていくと山間部の渓流の程近くに少年のものと思わしき生体反応を感じた。

「Mr.神谷、対象を発見しました。データを投影します。」

「了解、俺も見つけた。答え合わせをしよう。」

 神谷はカーゴ3が投影したスキャンデータと自身のサーチで得た情報を重ね合わせると二つは見事に合致した。

「OK!少年に間違いない。カゴさん、あ、えーと、静止軌道って解る?」

「問題ありません」

「良かった。じゃあ少年の真上の静止軌道上に・」

「YES Mr.神谷、移動します。到着しました。」

「早っ」

「生体情報更新、対象本人であることを再確認。身体欠損無し、左上腕部に打撲痕、右足下肢に擦過傷、空腹及び軽微な精神疲労状態。睡眠中。対象を中心に半径10mを保護エリアに設定しました。保護フィールドを展開します。対象の周り半径1000m以内に脅威となる生命反応は在りません。安全に転送可能です。転送しますか?」

「早!! よ、よろしく」

 怒涛の展開に気圧され思わず了承してしまった神谷が、瞬いた次の瞬間に視界に収めたのは木の洞の中で膝を抱えて眠る少年の姿だった。


「さてと、じゃあ先ずパスを繋げようかね。」

呟きながら少年に近づき、膝を曲げて右手を少年の腰に置き

「起こさないように静かにそぉーっと、てね。」


神谷は自身の魔力を置いた掌から少年の体の中へとゆっくりと浸透させていく。小一時間程掛けて少年の全身に魔力を染み渡らせ、詳細に少年の状態を観ていく。

「中は異常なしと、さすがだな。…うんパスも上手く繋がった様だし、じゃあチャチャッと治癒力上げて目覚めたらスッキリ作戦開始だ。全治三日ってとこだから、8時間寝るとして10倍でいいか。ほーいっと。」


 雑か!という突っ込みが聞こえてきそうな掛け声とともに、神谷は染み渡らせた魔力を少年の心臓の鼓動とシンクロさせ生命波動に変えていく。その波動は少年の体の細胞一つ一つを活性化させ新陳代謝活動が増大して患部の修復速度が上がっていく。

 そして、生命波動が少年の身体全てから発せられるようになったと同時に、繋がったパスを通じて管理者がホログラム姿で顕現した。


「初めまして管理者様。私達は管理局より派遣された神谷とカーゴ3と申します。今この状態は問題ありませんか?」

「問題ありません。次元裂傷を直しこの者を保護するのが精一杯でしたので助かりました。感謝します局の方々。」

「ありがとうございます。今後の対応については上の方から要請が出ておりまして、内容はカーゴ3が把握しています。そちらで確認していただきたいのですが、よろしいですか?」

「上の方から…分かりました。」

「カゴさん、説明お願い。」

「YES Mr.神谷」


 管理者のホログラム姿が希薄になった。カーゴ3の方へ移動したのだろう。神谷は再び少年の観察をする。

「呼吸、意識、乱れ無しと。よしよし」

 少年に問題ない事を確認した時、管理者のホログラム姿が濃くなりカーゴ3から連絡が入る。

「Mr.神谷 説明が終わりました。」

「総主様からでしたか。」

「偶然らしいですがね。あの方の気まぐれとも言えますがよろしいですか?」

「わたくしに異論はありません。」

「承知しました。安心してお休み下さい。」

「では、後は良しなに。」

 管理者がそう告げるとホログラム姿は霧散した。

「さて、許可ももらったし、カゴさん僕もこの子が起きるまで一眠りするよ。」

 少年が目覚めればいよいよ育成プロジェクトのスタートとなる。少年はどんな選択をするのか…ぼんやりとした不安を感じつつ神谷も眠りについた。

「お休みなさい、Mr.神谷」





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