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私や彼が来てからも随分と時間は経ち、
もうそろそろお開きモードになってきた頃に
「そういや希美と柊太って昔いい感じだったよな?
結局付き合ってなかったの?」
お酒で見事に仕上がった顔の赤い男が
西村くんの肩に腕をまわしてニヤついた表情で二人に問う。
この場で堂々と聞くのはどうかと思うが
私もそれについては気になっていた。
私が鮮明に思い出すのは、高校3年生の学園祭のことだ。
あの時、絶対に彼の視線の先にいたのは希美ちゃんだった。
「内緒だよ。ねぇ、柊太」
可愛い声を出しながら指先まで綺麗に飾られたその手を西村くんの膝の上にのせて微笑む姿は艶っぽくて
周りの男たちは唾を飲む。
「おい意味深な言い方すんなよ」
西村くんが彼女の頭を軽く小突くと
「おい、結局どうなんだよぉ」
なんて酔っ払いたちの興味は膨らむ一方。
いや、はぐらかす時点で関係があるに違いないでしょう。
なんてツッコミは空気を悪くする前に心の中で吐き出しておこう。
「同窓会ラブとかあったりして」
ヒートアップしていく勝手な想像と
満更でもなさそうな雰囲気ととれなくもない西村くん。
しかし、それをピシャリと断ち切ったのは
他でもない希美ちゃんだった。
「私最近
彼氏にプロポーズされたところだもん」
そう言って、右手の薬指にあった指輪を見せびらかす。
なぜ右なのかと言うと、彼氏が結婚指輪しか左にはめてほしくないと言ったからだと
誰も聞いてないのに丁寧に説明までしてくれた。
「んだよ、残念だったな、柊太」
声を出してケラケラ笑う友だちに合わせて
笑う彼は、目の奥が全然笑ってなくて
その姿を見て胸がキュウと苦しくなった。