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結局、仕事場に戻り
急いで仕事着から少しマシな私服に着替えた。
髪は下ろしてブラシで軽くとかし
メイクも恥ずかしくない程度には直して慌てて家を出た。
朝に服や鞄を用意しておいたことが幸いだ。
電車に乗り込み、会場である居酒屋へと向かう。
会場には1時間と少し遅れて到着し、中を覗くと
懐かしい顔ぶれはみな、程よくお酒がまわった顔をしていた。
「あーさくらちゃんこっちだよー」
幹事が私、小野寺さくらに気づき手招きした。数人の視線がこちらへ向き、"ああ、あの人ね"なんて顔をしてまた会話に戻る。
「さくら!待ってたよ」
学生時代からの友人、真央が私に手を振り、荷物を置いていた場所を開けてくれる。
「あー小野寺?なんか雰囲気かわった?」
えーっと、どちら様でしたっけ?
と返そうと思ったが雰囲気をぶち壊すわけにもいかずにアハハと愛想笑いをして席につく。
「わるいーかなり遅れた」
私が荷物を下ろしたタイミングで声がして振り返れば
同じように遅れてこマシな格好を慌ててしてきた私とは違い、
お洒落な服に身を包む男性が顔の前に手を合わせて幹事に謝っている。
「もー柊太来ないかと思ったよう」
私の時とは違い、幹事に嬉しそうに対応させるのは
柊太こと西村柊太だ。
「あー!柊太!」
色んなところから名前を呼ばれる彼は、昔から変わらずみんなの人気者みたいだ。
「柊太、ここ来いよ」
私の前に座っていた男性たちが西村くんを呼び、その声に
「おお」
と返事をしてこちらへ向かってくる。
ああ、この心拍数の上がり方はなんなんだ。
もう何年も会っていなかったのに
未だに私の体はこんな反応をするというのか。
自身の反応に驚きつつ、平然を装い
きっと私の前に座ったであろう西村くんに視線を向ける。
「あ、小野寺、久しぶり」
バチっと目が合い、彼はなんともなさそうに私に笑いかける。
それが当たり前なのだ。彼と私に何かあったわけでは決してないのだから彼の笑顔に普通に応えるのが正しい行動だ。
「久しぶりだね」
よし、上手くいった。あとはどうせ西村くんの周りには
今こちらに視線を向けてる女性達が群がるのだからテキトーに場所を移動すれば問題ない。