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第七話 竜胆迷宮2


 実紅の手にまだ心はどきどきとしていた。

 それでも、同時に勇気が湧いてくる。

 嬉しくなってくる。絶対助けだしてみせるって思えた。


「実紅……それじゃあいくよ」

「ええ、そうね」


 小山の中に入り、階段を下りていく。

 ……冒険者育成学園の迷宮と違い、整備されていないから明かりが少ない。

 壁に埋め込まれた魔石が光っているので、まったく見えないわけではないが。


 迷宮の構造は不可思議だ。

 階段をおりて、とにかく地下へと下っていくのだが、例えば外で小山の下をドリルで掘ってみるとしよう。

 どれだけ掘っても、普通の土しか見えない。


 迷宮周辺を掘れば、迷宮を除去できるのではと昔そんな実験が行われたが、結果はただただ、小山の入口が浮かぶという不可思議な状況が出来上がっただけだ。


 ゲーム的にいうと、破壊不能オブジェクトみたいなものだ。

 そんなことを考えていると、まもなく第一階層に到達する。


「私の知識では、第一から第十は、草原エリアよ。腰ほどまでに伸びた雑草の塊、木々、岩に身を隠すゴブリンがいるわね」

「……おまけに、そこらから出現するよな」


 迷宮の魔物は一定時間で自然に現れる。

 一応、迷宮内で制限があるようで、それを超えて出現することはない。


 ただし、自然発生した迷宮――自然迷宮と呼ばれる場所は、限界を超えた魔物は外に溢れてきてしまう。だから、こうした人工迷宮と比べて、攻略の優先度が高い。


 冒険者には、スタンピード専用、あるいは迷宮専用にステータスカードと契約を結ぶ人もいるほどだ。とはいえ、いくら迷宮専用といっても、俺のように特定の個人迷宮専用にまで特化する人はまずいない。実紅も言っていたが、その迷宮攻略が終わったあとの将来どうすんの? って話があるからね。


「とにかく、一体で行動しているゴブリンを探しましょう。そうでないと……厳しいわ」


 一回目の戦闘は俺が持ち込んできた冒険者道具を駆使しながら、実紅の魔法で仕留めるという方針だ。

 そして、手に入れた素材でステータスを強化……順調にいけば、あとは俺と実紅で戦えるようになるはずだ。


 今回持ち込んだアイテムは、緊急時に使えるように買っておいたものだ。

 ……さすがに全部使ったら財布がまずい。これだけで、恐らく十万は超えるからな。


 慎重に身を隠して移動する。

 ……迷宮の歩き方は散々学んできたからね。なんとかなるだろう。


 ゴブリンを探して歩き、周囲の魔物の状況も把握していく。

 そうして一時間ほど歩き――やっと一体で行動しているゴブリンを見つけた。

 

 俺は剣を構え、実紅を見る。


「あれを倒そうか」

「そうね。私の準備はできているわ。いつでもいいわよ」

「……ああ。それじゃあ、行くぞッ」


 俺は一息ついてから、駆け出す。

 実紅の魔法は準備できているが、確実に当てる必要がある。


 そのために、俺が注意を引き付けるッ!

 ゴブリンの動きは早かった。……もともと、俺の存在にはうっすらと気づいている様子だったからな。


「ガァ!」


 ゴブリンがばっと振り返った。醜悪な顔と向き合う。

 一瞬でこちらに気づいたゴブリンは、次には動き出していた。

 速い。魔物の反応速度が俺の考えていたものとは比べ物にならない。


 ……昨日の放課後倒したゴブリンとはレベルが違う。実紅が言っていたから、警戒はしていたが、それでも俺の中に所詮はゴブリン、という認識がまったくなかったわけではない。


 ゴブリンが手に持っていた棍棒を軽く持ち上げる。片手で扱えるハンマーのような形状。

 それを振り下ろしてきた。ぶん、と空気が振動する。このまま突っ込めばやられる、それだけはわかった。 

 突っ込んでいた体を止め、後退する。


 ゴブリンの棍棒が地面を殴りつけた瞬間、その場の地面がめくれ上がった。

 土が飛び散り、顔に当たるのだけは防ぐ。


 ……あのまま突っ込んでいたら、俺がこの土のようにぐちゃぐちゃになっていたな。

 見た目は子どものようなのに、ゴブリンの持つ力は俺の想像を超えている。


 俺はアイテムボックスからアイテムを取り出し、ゴブリンに投擲する。

 ゴブリンはそれを叩いて破壊する。瞬間、閃光が溢れた。


「がぁ!?」


 強い光がゴブリンを襲い、その目を潰した。


 俺は目をかばっていたので問題ない。

 閃光魔法石だ。


 強い光を生み出す魔法が込められた魔道具で、簡単に魔物の視力を一時的に奪うことができるので冒険者たちに大人気だ。

 実紅の魔法だけで仕留めきれるとも限らない。俺は持っていた剣を振りおろした。


 一撃がゴブリンの腕を斬りつける。……硬い。

 剣では皮膚の表面までしか来れなかった。武器が悪いのもあるが、俺の腕も関係しているはずだ。

 やはり、ステータスが低いのが問題か。


 俺の攻撃に合わせてか、ゴブリンは棍棒を振り抜いてきた。

 目を潰しているのに、ほとんど俺のいた場所を捕らえての一撃。


 見れば、ゴブリンの鼻がひくついていた。

 臭いで俺を判断し、また攻撃してくる。

 後退したところで、実紅の魔法がゴブリンの体を捉えた。


「ガァ!」


 火の魔法がゴブリンの体を焼く。

 だが、ゴブリンは体をふってそれを払う。


「もう一発、頼めるか!」

「ええ、任せて」


 ゴブリンの視力も回復してしまったようだ。目を擦った後、こちらを睨みつけてくる。

 なんというギリギリの戦いだ。


 正直言って吐きそうだ。

 口が乾いていく。ぴりぴりと肌をつつく緊張感。


 これが、本物の冒険者、か。

 普通にしていれば、俺のようなF級冒険者では恐らくゴブリンを倒すことはできないだろう。


 だからこそ、アイテムに頼るしかない。

 俺はアイテムボックスから取り出した魔石をゴブリンに投げつける。

 

 ゴブリンは……学習能力まであるようだ。顔を覆いながらこん棒で魔石を殴りつける。

 ……今回は、助かったな。殴った瞬間、魔石が爆発した。俺が投げたのは、さっきとは違う魔法石だ。


 ……爆弾魔法石だ。

 魔力を込めることで発動する爆発魔法がこめられた魔石。購入の際には身分証明書の提示と用途理由を聞かれるほどの威力を持つ。


 それに弾かれたゴブリンは――それでもまだ立ちあがる。

 おいおい。その爆弾二万したんだからな……! 俺泣きそうだ!


 そこらの魔物なら一撃で倒せるだけの威力を持った一撃。緊急時のために一つだけ持っていた道具を失ってしまった。


 ゴブリンは再び棍棒とともに飛びかかってくる。

 剣で受ける。しかし、一撃が重たい。受けるたび、体が流されそうになるほどの威力。


 呼吸が乱れる。……これでも、冒険者として長く活動してきたから、それなりに体力には自信があるほうだったんだけどね。


 それでも、ゴブリンの動きははじめに比べて鈍い。実紅の魔法がかなり効いていたようだ。

 これなら、なんとか捌ける。

 

 時間を稼いでいると、強い魔力が溢れた。見れば、実紅の準備が整っていた。

 俺は魔石をとりだす。閃光があふれ、ゴブリンが顔を覆った。


 ……最初ほど効果はないみたいだ。それでも、一瞬でも時間を稼げれば十分だ。

 実紅の放った魔法はまるで火の竜だ。火の竜がまっすぐにゴブリンへと飛び、その体に噛み付いた。


 噛んだ場所を含め、火の竜が絡みついた部分すべてを焼き尽くす。

 すげぇ、あんな魔法が打てるのかよ……。

 軽く嫉妬するレベルの威力だ。ゴブリンの体が崩れ落ちる。


 死体が消滅した。魔石とゴブリンの牙がドロップアイテムとして残る。

 俺はそれを回収して、一息を突く。


「……一度、離れてから吸収は使おうか」

「そうね。さっきの戦闘でゴブリンたちが集まると思うわ」


 というわけで、俺は素材たちをアイテムボックスにしまい、その場を離れた。

 ……今すぐに吸収は使いたかったが、ステータスカードを見ながら、落ち着いて使用したい。


 どれほど強化されるのかで、今後の方針が変わるからね。

 それでも、ワクワクで口元が緩むのは抑えられなかった。

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