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第六話 竜胆迷宮1



 迷宮が世界に初めて出現したとき、恐らく多くの人は絶望しただろう。

 そこから現れる魔物たちには、銃火器などの近代兵器がまるで通用しなかったのだから。


 当時の世の中はまさに絶望的だったらしい。そんな中で、ステータスという存在が知れ渡った。

 元々、そういった漫画やラノベが流行ったこともあって、誰かがふざけてステータス、と口にしたそうだ。そうしたら、本当にステータスカードが出て、魔物と戦える力となった。


 それから、人間たちは自然発生する迷宮を破壊し、スタンピードから世界を守っていった。

 それでも――守り切れないときもあった。

 そのときには、魔物を封印する力、というものも発見されていて、第一号の管理者が選定されたらしい。


 人々は、そういった犠牲者から目を背け、日々を生きてきた。

 管理者がいる迷宮から魔物があふれ出てくることはないため、攻略優先度もかなり低い。

 

 それでも、時々無謀にも迷宮を攻略しようとした人がいたのは、きっと名声とかが欲しかったからじゃないと思う。

 きっと、そんな人たちも――管理者の霊体が見えていたのかもしれない。


 俺は息を吐いて、『竜胆迷宮』の入口に来ていた。

 竜胆実紅が封印した迷宮だから、竜胆迷宮。


 その入口は他の自然発生した迷宮と変わらない。

 小山のような入口から奥に階段が伸びている。


「さて、行くとするか」


 装備品の準備はできている。以前、迷宮に潜ったときに偶然見つけたアイテムボックスに、色々と必要と思われるものは入れておいた。

 見た目は袋のようなもので、腰からだらりと下げている。


 本来、アイテムボックスはF級冒険者が持っているような代物じゃない。

 アイテムボックスの規模にもよるが、最低でも百万円から取引されるようなものだが……俺は手放すつもりはなかった。

 

 少なくとも、冒険者としてやっている間はな。逆に言えば、俺の持っているアイテムボックスを売却すれば、家族が今までにしてくれた仕送り分くらいは返せると思う。


 改めてぐっと奥歯をかんで、気合を込める。

 まるで地獄にでも繋がっているような迷宮の入口を見て、少し身震いする。

 

 竜胆迷宮はS級に指定される高難易度の迷宮だ。

 けど、この最奥に到達しないと、実紅は救えない。


 俺は腰にさげている剣を確認してから、息を吐く。

 昔は銃刀法違反等で禁止されていたが、特例がいくつか認められるようになった。


 今俺は冒険者を示すバッジを左胸に着けている。

 見える場所にバッジをつけておけば、外での武器の所持も問題ないというわけだ。

 もちろん、スタンピード等の緊急時以外での使用は許されていない。

 素振りを見せるだけで、逮捕されても文句が言えなくなる。そのあたりはやはり、厳しいのだ。


 あと冒険者でもっとも重要なのは……迷宮内は自己責任ということか。

 すべての人は迷宮内で起きたことに関してはどうしようもないということだ。


 ……簡単にいえば、迷宮内で犯罪が起きても国は一部の例外を除いて関与しないというわけだ。


 もちろん、その事実を証拠とともに提示できれば、国も対応できる。実際の場面でも録画して提出すれば、一発だ。

 だが、金、武器を奪われたと叫んだところで、国では対応しないというわけだ。


 まあ、それらの犯罪専門の冒険者がいる。万引きGメンのように、一般冒険者を装って迷宮内の治安を守る人たちもいる。まったく何もしないというわけではない。


 とにかく、一人で迷宮に入るのだけは危険だからやめたほうがいい、というのはよく聞く話である。

 単純に魔物相手に一人ってのは危険だしね。


「……人、いないな」


 通常迷宮というのは賑わっているものだ。

 だが、竜胆迷宮周辺には人がいない。

 ただぽつんと、竜胆実紅と書かれたお墓だけがあった。


「そうね。だって、うまみないもの。メッチャ強いゴブリンが一階層から出るのよ? 無茶して攻略していったって意味ないじゃない」

「そっか。それじゃ俺一人で攻略していくしかないか」

「基本的にはそうなると思うわ。例えば、協力してくれる冒険者仲間を誘ったり、あとはレアドロップに期待するとかじゃないかしら?」


 冒険者仲間、か。あんまりいないんだよな……力こそすべての部分があるため、弱い人はそれだけで立場も悪い。


 知り合いたちも竜胆迷宮を攻略するといっても協力してくれないだろう。

 みんなだって自分のステータスをあげるために毎日迷宮に潜っているんだからな。

 そうなると……


「レアドロップか」

「そういうのに憧れたことはないのかしら? ほら、例えば人を召喚できるドロップアイテムとか」

「……あー、そんなのあったなぁ。まったく憧れなかったっていうと嘘になるな」


 魔物が落としたドロップアイテムから人を召喚できることもあるとか。

 サーヴァント系に属する超レアアイテム。そこには異世界ファンタジーにしかいないようなエルフや獣人といった子もいたそうで、それはもう冒険者たちの中にはそれだけを狙って潜り続けている人もいるとか。


 実際、テレビで見たことあるが当たりは絶世の美女ということもあった。もちろん、男のこともあったが、それはそれで女性からの受けがよかった。

 若干ランクは劣るが、かっこいいドラゴンとかも当たりだろう。人によっては、人型よりもむしろ当たりか?


 ハズレは弱いし、見た目も気持ち悪い奴とかだ。例えば、ゾンビとか。

 ただ、サーヴァントカードはすべて一律同じような高額で売買が行われている。


 その理由は簡単で、サーヴァントカードの中身は分からない。

 そして、一番最初に召喚した人をマスターと認め、それ以外の人に付き従わない。

 高値で売るか、自分の夢のために使うか。そのどちらかとなる。まさしく、ガチャのようなものだ。


「やっぱりそうなのね。昔もいたわよ? それで実際叶えた人もいたわ」


 それは羨ましい人たちだね。


「けどまあ、今は実紅がいるからいいかな」

「……」

 

 実紅の真っ赤な顔を見て、結構恥ずかしいことを言ったのだと気づいた。

 とはいえ、素直な気持ちである。恥ずかしいが、わざわざ訂正する必要もあるまい。


 今はそんなレアドロップは別にいいんだ。

 もちろんあれば仲間を増やせるが、レアドロップなんて一生で一度手に入るかどうかだ。


 ……とにかく一体、ゴブリンを狩るのが目標だ。

 強化された俺のスキルなら、うまく行けば大幅なステータスアップが期待できる。


「それじゃあ、行くとするか」

「そうね。そう、緊張しなくても大丈夫よ」


 すっと彼女が俺の手をそっと握ってくれた。余計緊張したのは秘密だ。

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