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第五話 同居2

 

 というわけで、俺は実紅とともに近くのスーパーへと向かう。

 カトーヨーカトーという店だ。

 最近では冒険者相手の道具も取り扱い始めた万能な店だ。


「好きな食べ物、か」

「ええ、これでもなんでも作れるわよ。私、昔料理の勉強して――」


 そこで彼女ははっとしたように口を閉ざした。

 どうしたんだ? なんかめっちゃ恥ずかしそうである。


「何かあるのか?」


 別にその、いかがわしいものとかが置いてあるわけではない。

 一体どうしたのだろう。少し心配だ。


「えと、そのな、なんでもないわ」

「本当にか? ……まさか、霊体だとスーパーに入れないとかそういうのじゃないよな?」


 本気で心配すると、彼女はとても申し訳なさそうにそっぽを向いた。


「違うわよ……その昔、料理を学んでたときのことを思い出しちゃって」

「……それでなんで赤面してるんだ」

「そ、その――ああ、もう! 私、お嫁さんにあこがれてたの! だから、それを思い出しちゃったの!」

「あ、ああ……そうなのか」


 恥ずかしそうにしていた彼女が可愛くて、俺は直視できなかった。

 ただ、俺は赤面して足を止めているわけにはいかない。

 周りの人に実紅は見えていないからな。


 歩き出してから、実紅は俺の隣に並ぶ。

 なんだか、こうしていると……本当に新婚夫婦みたいな気がするな。

 ……いや、世の中の新婚夫婦を見てきてはいないので、これが正しいかはわからない。

 

 まあ、他人からは一人でニヤニヤしている変態にしか見えないんだろうけどな!


「け、健吾……今日は迷宮に潜ってきたのよね?」

「ああ」

「それなら、体力のつくものを作ろうかしら。明日は土曜日だし、学校は休み?」

「そう、だな」

「それなら、豚の生姜焼きとかにしましょうか? 今からでもすぐできるしどう? 生姜とか苦手?」

「いや、苦手なものはないから大丈夫だ!」


 食べたことないものはわからないけどな。ナマコとか。

 食材を彼女が指定して、俺が買い物かごに入れていく。


「何日か分の食材で……今のでだいたい三千円くらいだけどお金大丈夫?」

「一応、冒険者として稼いでいる分もあるし」


 申し訳ないが、家族にも仕送りしてもらっていた。

 ……とりあえず、冒険者をやめるまえに、家族に応援していもらっていた分のお金だけは返さないとな。


「そう? それならよかったわ。会計に行きましょうか」


 結構色々カゴに入っている。

 豚肉はもちろん、野菜とかも色々だ。


「さっきお米の準備はしてあるし……あとはもう大丈夫、かしら? 調味料とかも一応あったし」


 ぶつぶつと実紅が呟いている。

 確かによく確認しないと、買い忘れって結構あるものだ。

 そして家に帰ってから気づき、あとでまた買いに出る必要があったりな……。


 買い物を終え、家に戻る。

 すぐに実紅がキッチンに立って料理を始める。

 俺も最低限の手伝いをして、出来上がったのは、豚の生姜焼きと野菜炒めだ。


 すげぇ……俺にはこんな料理できない。

 すべてが輝いてみえた。


「それじゃあ、食べましょうか」

「あ、ああ……っいただきます!」


 ごはんと一緒に生姜焼きを口に運び、あまりのうまさに目を見開いた。


「うまいっ。天才か実紅!」

「そ、そんなことないわよ。生姜もニンニクもチューブの加工されたものよ? 誰でも作れるわ」

「俺は作ったことないぞっ。あー、うまい……」

「あんまり食べてお腹壊さないでよ」


 実紅も食事を始めた。魔力回復のために必要だったんだか。

 食事が終わり、俺はせめてと食器を洗う。

 

「実紅、シャワーはどうする?」

「そうね……久しぶりにゆっくり入りたいし、借りてもいいかしら?」

「気にするのは順番くらいでいいんじゃないか? わざわざ言わなくても使っていいよ」

「そ、そうね」


 実紅もまだ慣れていないようだ。俺だって同じだが。

 

「タオルとかって必要か?」

「大丈夫よ。魔法で全部乾かせるし。そもそも、霊体は一定時間経てば、全部元の状態に戻るわ」

「……便利だな」


 実紅がシャワーへと向かった。食器を洗い終えた俺は、しばらく実紅の方を見ていた。

 ……いまあそこで実紅がシャワーを浴びているんだよな。


 想像してしまい、慌てて首を振る。

 いかんいかん。……いや、いかんのか?

 結婚するとまで話しているのに、いかんというのは……むしろいかん?


 やばい。頭がパニックになってきた! これ以上アホなことを考えるのはやめよう!


「いいシャワーだったわ。あら? どうしたの? 顔真っ赤じゃない」


 シャワーを浴びたあとだからか、彼女は少しだけ頬が上気していた。

 なんというか……雅な姿だ。

 俺が見とれていると、彼女がにやぁと口元を緩めて近づいてきた。


「どうしたの、もしかして……変なこと想像したのかしら?」

「し、してない!」

「したのね? いやらしいわね」

「してないっ! 俺もシャワー浴びてくる!」

「私の後だからって変な意識しなくていいわよ」


 余計なこと言いやがって! いいようにからかわれているのがわかった。

 とにかくシャワーを浴びた後、俺が部屋に戻ると、彼女はテレビを見ていた。


「あら、やっぱり男の子って早いのね」

「そういうものか? とりあえず、俺はもう寝るけど……そういえば、睡眠はどうするんだ?」

「私は眠らなくても大丈夫よ」

「けど、寝ることはできるのか?」

「そうね。休んでいると、魔力が回復できるわね」

「それなら……ベッド、使うか?」


 部屋に置かれたベッドを指さすと彼女は首を振った。


「さすがにそこまでは必要ないわよ」

「それでもなんかこう気分的になぁ……」

「……ほんと、健吾は私を人間みたいに扱うわね」

「そりゃあ俺からしたら本当に生きているし、そもそも……これから助けるんだからな」

「……それなら、一緒にねる?」


 彼女は少し頬を染め、それでも俺をからかうために全力を出したようだ。

 その彼女の姿と言葉に、俺は顔が熱くなった。そのまま気絶するかと思った。


「……い、いやそれはその色々問題が」

「結婚するのに?」

「……な、ないけど、それは――」

「さすがに、私としてはあなたを追い出してまで寝ることはできないわよ」

 

 彼女の言いたいこともわかる。彼女からすれば、体を持つ俺にゆっくり休んでほしいということだろう。

 だったら――うん。


「い、一緒に寝るか」

「え!?」

「い、嫌だったか!?」

「ち、違くて……その、そう決断されるとは思ってなかったから……」


 真っ赤になった彼女はしかし、首を振る。


「提案しておいて、否定するのは、ダメね。ええ。一緒に寝ましょうか」

「……あ、ああ」

「そんなに、顔を真っ赤にしなくてもいいわよ?」

「実紅だって……かなり赤いんだけど」

「……だって、恥ずかしいし」


 その反応が可愛くて、もうぶっ倒れるかと思った。

 俺が先にベッドに入り、その後で彼女が入ってきた。

 お互いに背中を向けあっていたが、もともと一人用だ。少し狭い。

 少し動くだけで背中が当たる。


「そ、その……おやすみ」

「ええ……おやすみなさい」


 俺は目を閉じた。しかし、ばくばくと心臓が鳴り続けていた。

 いつもはすぐに眠れたのだが、今日ばかりはさすがに寝付くまで時間がかかった。 


 明日はいよいよ、迷宮攻略だ。ちゃんと休まないと。

 学校終わってからずっと迷宮に入っていたのもあって、体に眠気が襲ってきたのだった。



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