第二話 出会い2
魔物が突然発生するスタンピード。
それは街だろうが、それこそ海の中だろうが……場所は関係ない。
それらは突然発生し、一定時間、大量の魔物を生み出し続ける。
具体的な対策は現状見つかっておらず、発生する魔物を倒すという力技的な解決方法しかなかった。
――あれから一時間が経ったところで、スタンピードは終わり、ひとまずの平和が戻った。
俺もまた普通の生活に戻ってもいいのだが……今俺は、一人の女性と歩いていた。
俺は顔を真っ赤にして、彼女もまた、顔を真っ赤にしてちらちらとこちらを見てきていた。
「とりあえず、スタンピードも治まったわね」
「ああ、なんとか、だな」
先ほど助けた――いや、助けてくれた女性の名前は、竜胆実紅だ。彼女にぴったりの可愛らしい名前だと思う。
自己紹介だけはしたが、それ以上の会話はしていない。もっといえば、先ほどの俺の無謀な告白も、聞こえなかったかのように触れていない。
「まったく……鏑木くん。あなた、ロクなステータスもないのに冒険者なのね」
「いやいや。ステータスカード持って生まれただけで才能あるんだからな」
鏑木健吾。それが俺の名前だ。
今の時代、ステータスカードを持って生まれるかどうかは一つの才能だ。
持っているだけで、問答無用で冒険者育成学園に入れる。
才能が開花すれば、そのまま冒険者として仕事できる。将来が約束されたようなものだ。
「ステータス、どのくらいなの?」
彼女の言葉に俺は頬が引きつってしまう。
俺のステータスは本当に微妙だ。本当に冒険者なのと思われるくらいだ。
「……見るか?」
「ええ。他の人のステータスを見る機会ってあまりなかったから」
俺は恥ずかしかったが、ステータスカードを取りだした。
鏑木健吾 『未契約』
レベル0
物攻E(47)物防F(39)魔攻G(28 )魔防F(37)敏捷E(40)技術D(51)
スキル
『吸収:ランクG』(魔物の魔石、素材を吸収したとき、5秒間のみステータスを向上させる)
俺のステータスを見て、竜胆さんは言いづらそうに頬を引きつらせていた。
「……確かに、このステータスは、低いわね」
「う、うるさい!」
「それに、レベル0なのね? レベルってすぐに1から2まではあがっていたはずだけど……」
「俺はなぜかまったくあがらないんだよ!」
このレベルはゲームのレベルとは少し違う。
現在地球で最高と言われているのがレベル6ということからもなんとなくわかるだろう。
一つの壁を乗り越えたとき、レベルアップするといわれている。
レベルアップした際にすべてのステータスは一度下がってしまうが、レベル0とレベル1が同じステータスで戦ったらレベル1が負けることはないらしい。
俺はいい加減ステータスの話をしたくなかったので、ヤケクソ気味に叫んだ。
「どんなにステータス低くても冒険者やっててよかったよ! 竜胆さんと会えたんだからな!」
「ま、まったく……」
竜胆さんは頬を少し染めて、そっぽを向いた。
……本当に綺麗でカワイイ人だ。
けど、告白に関してあれから一切触れてこない。お、俺も恥ずかしくて触れられなかった。
……くそ、こういうときモテる人なら、もっと踏み込んでいけるのだろうか? 人を好きになったことがないからどうすりゃいいかわからん!
「そういえば、竜胆さんは冒険者……なのか? それもかなり強い冒険者だよな? S級冒険者とか?」
「そうだったわね」
「え!? マジで!?」
半分冗談、のつもりだったんだけど……。
冒険者にはその活躍にあわせて階級が授けられる。
S、A、B、C、D、E、F、Gという八つの階級があり、俺はF級冒険者だ。
ちなみにG級というのは迷宮に入ることさえ許されていない最弱の階級だ。ステータスカードを持っているだけの人に贈られる階級である。
つまり、迷宮に入れる冒険者の中でいえば、俺は最弱というわけだ。……泣きたくなってきた。
共に歩いていると、俺の家近くまできた。
って、普段通り家に帰っていたけど、普通俺が彼女を家まで送っていかないとだよな! 確かに彼女のほうが強いからその必要はないんだろうけどそこは、それ。
「竜胆さんの家はどのあたりなんだ? 近くまで送っていくよ」
家まで送っていくなんて言ったら、下心があるのでは? とか警戒されてしまうと思った。
俺の言葉に、彼女は笑顔とともに首を振った。
「私、家はないの」
「……どういうこと?」
「そうね……それも含めて、さっきのことにも答えておかないと、かしらね」
さっきのこと?
そういった竜胆さんの表情は恥ずかしそうであった。
「こ、告白……ありがとね。あなたの気持ちに何も答えないのもずるいわね」
「お、おう」
片手で口元を隠しているが、たぶん笑ってくれている。
「とっても嬉しかったわ。……あんなこと言われたの、初めてだったから」
告白を思い出した俺は思わず首を振ってしまう。
「べ、別にその……口をついてでた言葉だから!」
「ってことは本当に素直にそう思ってくれたってことかしら?」
からかうような上目遣いとともに、竜胆さんがのぞき込んでくる。
……やばい、可愛くて意識が吹き飛びそうになる。
「うっ! あ、いやその……」
「ふふ、カワイイわね、あなた」
「カワイイのは……竜胆さんのほうだって……」
「そ、そんなことないわ……」
そう、いたずらっぽく微笑む姿に俺がくらりときていると、向こうも頬まで真っ赤にしていた。
いった俺のほうが恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
「……凄い、嬉しかったわ。あのとき、自分の命も気にしないで私を助けてくれようとしてくれた。そういうこと、できる人ってそういないと思うわ」
「……ただのバカなだけだ」
「そんなことないわ。緊急のときこそ、その人の本性が出るものよ。……だから、あなたは、凄いと思うわ」
その好印象の反応に俺は思わず彼女を見る。
だが彼女の表情からすっと赤色が消えた。
竜胆さんはどこか悲し気に目を伏せた。
「けれど、私の返事はごめんなさいとしか言えないわ」
「……え? そ、そうか。そりゃ、そうだよな。け、けど友達から、とかは……?」
「それも、無理だわ。あなたを無駄に悲しませるだけだわ」
「……そんなことは――」
つまり、これは拒否されているということだろうか?
……そりゃ、そうだよな。これ以上迫るのは、ストーカー野郎と思われかねない。
「そんなに落ち込まないで、私は別にあなたが嫌いだからこういっているわけではないわ。むしろ……私も……その、ちょっと意識しちゃってるわ」
「……そ、そうなのか?」
「ええ。けど、絶対に私はあなたと結ばれてはいけないの。いえ、結ばれるはずがないの」
そういったときの竜胆さんの表情から笑顔が消えた。
「私、霊体よ?」
そういった次の瞬間だった。
俺の左手から感触は消える。慌てて手を伸ばすと、彼女の体を俺の手が通過した。
そのまま消えていきそうな彼女に俺は慌てて手を伸ばした。