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それから二人は一緒に(もちろん、可能なかぎり、林檎の格好を綺麗にしてから)ファミリーレストランの中に入っていった。
それが今から一時間前くらいの、夜の八時ごろの出来事だった。
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
お勘定をレジで払ったあとで、二人は夜のファミリーレストランをあとにした。
「ごちそうさまでした」
お店の出入り口のところで、林檎はもう一度そう言って、輪廻に深々と頭を下げた。
林檎は相変わらずフードを深くかぶったまま、両手をジャージのポケットに突っ込んだ姿勢のままで、頭をあげてにっこりと輪廻に向かって白い歯を見せて、本当に幸せそうな顔で笑った。
「ううん。別に大したことじゃないよ」
同じように、にっこりと笑って輪廻は言った。
「いえいえ。本当にありがとうございました。このお礼は必ずします。もしなにかあったら、近くにある公園にきてください。たぶん、私はそこにいると思います」
林檎は言って、ビルとビルの間の闇を指差した。
「うん。わかった」
輪廻は言った。
二人はそこでまた少しだけ無言になった。
「……えっと、じゃあそういうことで」
そう言って、林檎は片手をポケットから出して輪廻にさよならをしてから、その場を歩き出して、ビルとビルの間にある、真っ暗な闇の中に消えていこうとした。
「……あの、ちょっと待って!」
と、その小さな後ろ姿に輪廻は言った。
「……? なんですか?」
後ろを振り返って、林檎は言った。