脚本執筆中 1
いつも読んで頂いてありがとうございます。
少しづつでありますが、書きたい方向が定まってきていると思います。
まだまだ表現力等稚拙ですが、読んで頂いている方の心に何かを残せるように頑張ります。
二年C組の私の席は、縦六列ある席の一番窓側、後ろから二番目という勉強熱心とは言えない私には素晴らしい席だ。
一列に六席あるのでクラス人数は三十六人、当たり前だけど全員女子生徒だ。
教室も授業中はエアコンが動いており窓の外の灼熱地獄とはガラスを境に天国と地獄になっている。
そんな高環境の中、私は机に突っ伏してため息をついた。
教壇では御年五十四歳の伊藤先生が源氏物語の第一部を板書している。
脚本を書いている人間として、百万文字あまりの大作をあの時代に創作した紫式部には畏敬の念を持っている。
が、ごめんなさい。今は全く頭に入って来ないのです。
内藤先輩と新聞部に突入してから二日が経った。
あの新聞を今日の昼休みに再掲載するとの事を、昨日の放課後に一条さんから報告を受けた。
教室の前方、黒板の上に設置されたなんの面白みもない掛け時計は十二時丁度を指していた。
四時間目の授業は十二時十五分までであり刻一刻と再掲載の時間は差し迫っていた。
落ち着かない。なんで内藤先輩はあんな事を言ったんだろうか。
”主演の内藤彩は舞台と私生活のどちらの恋も実らせることができるのか”
この発言により私は恋愛物を書くことが確定した。
うん、それはまあ、この発言が無くても恋愛物を書いたであろう事から退路を絶たれた程度の意味合いでしかない。
それよりも”舞台と私生活のどちらの恋”、この部分だろう。
舞台の恋は分かる、劇中の恋だろう。では私生活の恋って何だろうか?
机に突っ伏したまま白紙のノートにシャープペンシルを走らせる。
内藤先輩は恋をしている、誰に?
書き終えると抱きしめられた時の事が頭の中で蘇りそうになる。
私……何だろうか? だったら嬉しい。本当に。
でも私じゃなかったらどうだろうか。
勘違いして浮かれ、ましてや先輩の恋人気分で隣にいては、先輩の想い人に失礼ではなかろうか。いや、そうであれば先輩に迷惑だろう。
新聞掲載で校内で話題になるであろう事や、先輩の事で頭がパンクしそうだ。
「……さん。渚沙耶さん!」
「は、はい!」
突然私の名前が耳に飛び込んで来たため、慌てて立ち上がる。
返事をした私を、教科書を左手に見つめる伊藤先生は、銀縁の眼鏡を右手で整え、
「聞いていましたか?紫式部は何故このような作品を書いたのですか?」
明らかに不機嫌な声色で私を問い詰める。
助かった、流石にこの程度の事は授業を聞いていなくても答えられる。
「若くして夫を失った事から創作に没頭した、でしょうか」
「……はい、そのとおり」
ふぅ、何とか難を逃れたか。
不服そうな伊藤先生を横目にスカートを直して席に座ろうとする私に、先生は追い打ちをかける。
「渚さん、あなたなら大切な人と死別した時どうしますか?」
二個目の質問は明確な答えが無い質問だった。
私なら……。大切な人、想い人なら内藤先輩だ。
内藤先輩が死んじゃって二度と会えない。仲良くしてもらって数日だけどあの笑顔がもう二度と見えないならば私はどうするのだろう。
「えーっと……」
どうするんだろうか、言葉が出ない。そんな事考えたことも無かったから。
すると教室内が微かにざわついた。
「な、渚さん」
伊藤先生の狼狽する声で私は自分の頬を涙が伝っていることに初めて気がついた。
「あ、あれ? すいません、先生」
慌てて手の甲で涙を拭う。
胸が苦しい。喉の奥がきゅうっと締められる様な感じがする。
悲恋物の映画や舞台を見たってこんな気持ちになった事は一度だって無かったのに。
「いいの、変な質問してごめんなさいね。席についていいわ」
急に優しくなった伊藤先生の言葉に従って着席した。
着席するとすぐに隣の席の相沢美優ちゃんがハンカチを差し出してくれた。可愛いくま柄のハンカチだ。
「沙耶ちゃん、大丈夫?」
まるでアニメの女の子の様な甘ったるい声で心配してくれた。
「ありがとう、ちょっと悲しくなっちゃったかな」
借りたハンカチで涙を拭いながら笑って答える。
先輩の想い人は私だろうか?
一つはっきりした事がある。
私、渚沙耶は内藤彩に心の底から恋をしているという事を。
教室の時計は十二時十五分を指し、昼休みに入ることを告げるチャイムが校内に鳴り響いていた。
読んで頂いてありがとうございます。
ただただラブラブな作品を書きたいと思っていましたが、それだと流石につまらないことを実感しています。
ラブラブであって起伏がある作品を目指して頑張りますので宜しくお願い致します。