今までの約束
僕は交換日記の始まったころのことを思い浮かべながら、リノンの返事を待っていた。
リノンの冒険はもうすぐに終わり……それが僕達にとっては何を意味するのだろうか……。僕たちのハッピーエンドとなるのだろうか。
そんなことを考えていると、リノンから返事が来る。
僕は交換日記をそっと手にする。
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必殺!レベル上げ~☆
大好きなユウスケへ☆
……同じこと考えてたんだ……。
えへへ~☆
今日はね、レベル上げまた再開したの。
べとべとスライム思い出しながら……ね?(笑)
順調にレベル上がっていくの~☆
だから、こっちの話はこれから、つまらなくなっちゃうから……。
そっちの話聞かせてほしいな……。
水族館の話……途中だったと思うけど……。
ユウスケはお魚見るの好きなのね?
泳いでる姿が見られるの?
どんなもの見てきたの?
教えてほしいなぁ……。
……これは前の約束だからね♪
じゃあ、またね~☆
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「同じこと……」
リノンもまた苦しんでいるのだろうか? 僕達にハッピーエンドが来るのかどうかを……。そんな想いにさせてしまっているのであれば、僕は心苦しく感じた。
そして……何も言えなくなってしまった。
「……」
その想いを忘れて、リノンの返事をゆっくり読みとく。
「レベル上げ……かぁ……」
きっと……いや、確実にリノンはレベル99になったら魔王を倒しに行くだろう。
そして……そこで待ち受けるのは、リノンの世界でのハッピーエンドは約束されるだろう。
でも……僕たちは……。
「いや!」
リノンはリノンで苦しんでいるはず。
でも、交換日記の返事は気丈に振舞ってくれる。僕の抱いてる不安なんかを吹き飛ばすかのように……。
「リノンらしいなぁ……」
レベル上げ……リノンの日課になっているんだろう。
でも、この前の返事は……。
リノンの冒険が終わりを告げたとしても、僕はリノンとつながっていたい。そう願って……。
・・・・・・
同じ想いであることに、気付かされた僕にとっては筆を運ぶのが苦しかった。
今は……あまり触れずにリノンに委ねたい……。
そんな想いで、僕は筆を執る。
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水族館、約束だったね。
大好きなリノンへ。
……そうかぁ……。
……うん……。
……ごめん、言葉に詰まった……(笑)
レベル上げ、頑張ってね!!
目指せ! レベル99!
ところで今はレベルいくつなの?
水族館の話……そうだったね……。
僕はね、ジンベイザメの泳ぐ姿を見るのが好きで……。
1時間ほど見てたよ……。
……変な人って思われたかもしれないね(笑)
ほかにはね、「ウミガメ」って、亀なんだけどわかるかな?
ウミガメもゆっくり泳いでてね……。
時々人の近くに来たりするんだ。
そうすると、こともたちが喜んだりするんだよ。
また、水族館の話書くね。
じゃあ、またね。
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水族館の事を思い出しながら……僕は綴った。
もし……叶うことであれば、リノンと一緒に水族館に行きたい。
そのほかにも、ゲーセンやカラオケ、イルミネーション、僕の手料理……。
全部の約束を果たしたい。
「レベル……」
僕も……リノンがレベル99になるのが怖い……その想いはまだ消えない。
今リノンはレベルいくつなのだろうか?
この……レベルアップが、僕達のカウントダウンなのだろうか……。
僕はそっと交換日記を閉じる。
その想い……のせてかは分からないけど、交換日記は優しい光で僕の返事がリノンに届いたことを示す。




