大晦日
早いもので、もう年の暮れ。
大掃除をしながら、ぼんやりと交換日記の内容を思い出す。
「……」
掃除も終わり、僕は交換日記を手にしていた。
お盆に始まった交換日記……1ページ1ページを読み返す。
そして……。
「リノンはずっと僕の事、信じていたんだね……」
今更ながら。
……今更ながら。
確かに、この交換日記はリノンの世界のものだ。だから、最初からリノンは信じていてもおかしくない。
でも……僕は……。
「リノン……ゴメン……」
最初の僕の対応に、心を痛める。本当、軽いノリで書いてしまったんだから……。
「雄介、ご飯よ~!」
もう時間は夕方。
僕は母さんに呼ばれて、リビングに向かった。
「父さん、母さん」
僕は食卓で、話を切り出す。
「僕、もう一度、水族館に行って泊まりに行きたいんだけど、良い?」
「いいけど……。雄介、変わったな?」
「え?」
僕は父さんの一言で、戸惑う。
「何が……変わったの?」
「夏にも泊まりに行っただろ? そういうところよ」
今度は母さん。
そう……なのかな……。
「一人で行動できるって、凄いことよ?」
僕の決めたことって、そういうことなのかな……。
一人で行動している自覚は無い。
「父さんもな、雄介の歳の頃はそんなこと考えなかったぞ?」
今度は父さん。
そう言うもの……なのかなぁ……。
「成長したわね……雄介……」
母さんが、目を潤ませる。いや……泣かなくたって……。
僕も成長しているのかな?
そう思いながら、夕食と風呂を終えて、部屋に戻った。
僕が部屋に帰ると同時に、交換日記が光った。
そっと僕は手に取る。
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水族館、覚えたよ!
大好きなユウスケへ☆
うん♪ 料理期待してるね~☆
ユウスケのお店にも行ってみたいな。
水族館ね……うん、大丈夫よ?
ちゃんと、水族館の事、覚えたんだから♪
ぜひ、聞かせてほしいなぁ……。
ユウスケが思ったことや、感じたこと……全部……。
冒険して、成長したって、私も感じたいの。
魔王城はね、もう少し先のところにあるの。
私、頑張るからね!!
このあたりは多いのかしら?
ずーっと、トラのモンスターと戦ってる気がする……。
なんか、色や強さが違うような気もするけど……。
今日も、血まみれ娘のリノンちゃんでした~(^_-)-☆
じゃあ、またね~☆
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リノンは強いなぁ……。僕が勇者なら、リノンみたいに強くいられる自信はない。
毎日、血まみれの戦闘を繰り返して……リノンは着実に成長している。
僕はこの交換日記が始まってから、成長できただろうか?
いや……きっと、僕もリノンから勇気をもらっている。
僕はそっと日記を閉じ、年越しを迎えるためにリビングに向かった。
母さんは年越しそばの準備をしていて、父さんは国営放送を観ていた。
僕は父さんの隣に座り、一緒にテレビを見る。
「なぁ、雄介」
「なに?」
「将来の夢って、何か決まったか?」
「今のところはまだ……」
「そうか……」
細切れに、父さんが会話をしてくる。
そう言えば、僕も将来を考えなければいけない、歳になってきた……。僕の成績であれば、行きたいところにも行けると思うけど……まだ、進学先も決めてない。
来年……2年生には受験対策になるはずだから……早く決めないと……。
「焦らなくても良いぞ? ゆっくり考えてみろ。父さんの勧めなら、魚介関係も向いてると思うぞ?」
「そうかな……でも、漁師は体力的に……」
「いや、そういうのばかりでもないからな。研究者って言うのもいいさ」
優しく父さんは語り掛けてくる。
魚介類の学者……かぁ……。そういうのもありかもしれない。
そう会話をしていると、あっという間に、新年のカウントダウンが始まった。
「3……2……1……」
テレビから聞こえてくる声。
「あけましておめでとう!!」
テレビは新年に盛り上がる。
そして、僕のスマホにショートメッセージが届く。
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あけおめ!
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大樹からだった。
僕もすかさず返事を返す。
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おめでとう! 今年も宜しく!
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短く。
でも、いつもこんな感じ。
いつもならこれで終わるけど……。
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こちらこそ!
そうだ、これから神社に行って初詣しないか?
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初詣のお誘い。
「父さん、これから初詣行ってきてもいい? 大樹から誘われたんだけど……」
「ああ、行っといで」
僕は父さんに会釈だけして、大樹と待ち合わせの神社に向かった。




