毒針勇者誕生
「なんだか嫌な予感がする……」
僕は交換日記の前で待っていた。リノンの返事が届くのを……。
「毒針……まさか……ね?」
ちなみに某RPGでは、勇者は装備できない。
……なんの余談だろう。
そんな考えもよそに、交換日記は無慈悲にも光りだす。
「ない……よね?」
僕は交換日記を広げると……。
そこには、予想を裏切らない……というか、悪い意味裏切られる内容が記されていた。
------
ユウスケ、ありがとう♪
大好きなユウスケへ☆☆☆
ユウスケ♪
ありがとうね♪
私好みの良い武器見つけたの♪
これもユウスケから貰ったアドバイスのおかげだよ☆
えっとね……その名も「毒針」♪
効果はね……なんと「毒にする」と「急所を突く」の二つの効果!!
今朝見つけて、2本買ったけど……気に入りすぎて、4本買い足しちゃった♪
またユウスケだと思って、大事に使うね☆
あと……「しとやかなドレス」っていうのも買っちゃった♪
着替えようで2着……。
あっ、私だけ買い物したんじゃないからね?(;´・ω・)
ちゃんと、シルビィの装備も整えてたから、そっちの方が高かったぐらい……。
って、言っても、シルビィは剣とか鎧とかだから……。
……変な想像はしないでよね!!(--〆)
じゃあ、またね~☆
------
「……」
もう、声にもならない……。どこからツッコもう……。
シルビィの装備がまともなのに、少し感謝する。
「……叫ぼうかな……」
僕は憂さ晴らしに、ツッコミを叫ぶ。
「なんで、毒針を6本も買う?」
「なんで、ドレスを2着にするか!!」
「そもそも、本来の使命忘れるなよ!!」
「いい加減、先に進めろ!!!」
「もう、魔王じれてるぞ!!!」
「村や街の人たち待たせて、迷惑かけるな!!!」
若干、気がまぎれた……。あ、リビングに聞こえてたかも……。
まぁ……装備変えてくれたのは嬉しいけど……けどさ?
「……攻撃力、間違いなく下がってるよね……」
僕は少し、めまいがした。
・・・・・・
僕の目の前には、モンスターと戦っている少女が居た。
白いワンピース、武器は毒針。
「とりゃぁぁ!!!」
少女は、岩のようなモンスターに躍りかかる。
その毒針の先端は、モンスターの急所を見事に打ち抜く。
そして……モンスターは形を保てなくなり、体液を飛び散らせる。
……言うまでもなく、僕はここで目が覚めた。
・・・・・・
僕は、ツッコミを入れる元気はなかった……。
リノンへの交換日記……返事を書き込む。
------
毒針とドレスを着たリノンがモンスターに襲い掛かる姿が思い描けるよ……。
大好きなリノンへ。
アドバイス聞いてもらえてうれしいな。
良いもの見つけれて、良かったね!
えっと……「毒針」に「しとやかなドレス」……。
……うん、なんか合いそうだね?
目を閉じると、ドレス着て毒針で経験値の高いモンスターに、襲い掛かっていく姿が見えるよ……。
……うん……意外と鮮やかに思い描けるよ……。
そういえば、今ってどんなクエスト受けてるの?
そろそろ次の町とかに行かなくて大丈夫?
港町みたいに、住民の方を待たせちゃダメだよ?
じゃあ、またね。
------
……今朝見た夢だ……。
きっと、現実にリノンはそんなことをしているんだろう……。
本当に……鮮明にイメージが出来るように、なってきた気がする……。
僕は交換日記を静かに閉じ、僕の気持ち……は、きっと届かないだろうけど、優しい光を浴びせてくれた。




