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告白

 僕は交換日記の相手、リノンが機嫌を直してくれることを祈っていた。もしかすると、まだ機嫌をそこねてて、返事が返ってこない不安もあった。


 「お願いだから、返事帰ってきてくれ……」


 僕は天に祈る気持ちで、交換日記の返事が返ってくるのを待った。

 いつもの時間を過ぎても、交換日記は光らない。


 「もしかして……怒らせてしまった?」


 僕は、更に不安となる。

 そして……交換日記が遅れて、光を放つ。

 僕は恐る恐る交換日記を手にする。


 「……!?」


 僕の願いは虚しく響いた。


 ------

 無題


 べーーーーだ!!!







  私のこと、好きって言うまで許してあげない!!!!

 ------


 でかでかと、「べーーーーだ!!!」の一言が、ページを埋め尽くしていた。

 そして……隅の方には小さく、一言添えてあった。


 「……」


 どうやら、すっかり機嫌を損ねてしまったらしい……。

 でも、希望はある。

 リノンの事を「好き」と言えば……。


 「……」


 ……いや、この交換日記は、きっとリノンと言う、一人の女の子につながっている。ただ僕が交換日記の続きを知りたいからと言って、偽ってはいけない。

 僕の……本当の気持ち……。


 「……」


 ……まだわからない……。やっと、一人の女の子と交換日記している自覚が、芽生え始めたところ。

 今までのやり取りを見返して、僕は本当に好きと言える存在なのか、再確認をする。


 確かに……最近は僕の生活の一部だった……。

 僕は……正直、楽しかった……。

 そして……交換日記の光るのを心待ちにしていた……。


 「……」


 まだ、わからない。

 一人の女の子を、好きと思えるか……。


 僕はずっと考え込みながら、いつの間にか寝てしまっていた。


 ・・・・・・


 ……寝不足。

 もやもやして、どうしても動けない……。

 いつも鳴っている目覚まし時計は、僕がいつの間にか止めたらしい。母さんが心配になって、僕の部屋に入ってきたようだ。


 「雄介、遅刻よ? 大丈夫?」

 「ゴメン、母さん……今日は学校休ましてもらっても良い?」

 「具合でも悪いの?」

 「うん……ちょっと……」


 ずる休み。

 ……いや、僕は確かに調子悪い。もうこのまま寝込んで、考えるのを辞めたくなった。


 「悩み事? まぁそういう日もあるわね……」

 「……」

 「今日は休みなさい。何があったか知らないけど……ゆっくり考えてみて?」


 母さんの好意に甘える。

 本当は……学校に行かなきゃいけないんだろうけど……。今日はきっと考え事で埋まってしまう。


 「ありがとう……」


 僕は、声細く母さんにお礼を言った。

 そして、昨日の睡眠不足分を補うかのように、僕は眠りについてしまった。


 ・・・・・・


 僕は、交換日記と向き合っていた。


 僕は……リノンをどう思っているんだろう……。

 僕が……好きと言えば、交換日記を続けてくれるだろう。

 でも……本当に、好きと言えるのだろうか?


 僕は悩んでいた。

 胸に手を当て……。


 じゃあ、こう考えてみよう。


 僕が、好きと言わなかったら?

 このまま、交換日記が終わってしまったら?


 「……」


 ……すごく悲しい気持ちになった。

 今まで、嬉しそうに報告してくれた、リノン。

 もう、交換日記が光らないと考えると……。


 「……?」


 自然と涙が出てきた……。


 わからない。

 でも、寂しい……悲しいと思うことは、好きであると言えるのだろうか?


 「わからない……」


 好きと言うか、このまま交換日記を辞めるか……。

 どうしても、僕には、交換日記を辞める方の選択は、出来ない。


 「……告白……するか……」


 正直、僕自身リノンの事がまだ好きかわからない。

 けど……このまま終わりは嫌だ!


 その思いで、日記に筆を走らせる。


 「……」


 なぜだろう……「好き」と、なかなか書けない……。

 書こうとしても、手が止まってしまう……震えてしまう……。


 「リノン……」


 僕は交換日記に話しかける……。


 「好きだよ……」


 交換日記に向かって、告白をする……。


 「……」


 不思議だった。

 交換日記に向かって……僕は告白しただけなのに……。

 気持ちがあふれてくる。


 「……こういうの、好きって言えるのかな……」


 僕は一人つぶやく。

 「好き」って文字にしても、なかなかかけないものだなぁ……と、僕は思った。


 けど……。

 言葉に出して、気持ちが軽く……いや、重くなったのかもしれない。

 うまく「好き」と書けなかった手は、さっきと違い動いてくれる。


 ------

 大好きなリノンへ


 こんにちは。

 前回はごめんね?

 許してほしい……。

 えっと……。


 リノンの事、好きだよ?


 ……僕、女の子に告白したの初めてだから……。

 僕の気持ち、伝わるといいな……。


 そうだ、宿の話しだけど、明日から一泊することになったよ。


 日記は持っていくから、ダンジョンの事教えてくれると嬉しいな。

 僕も水族館の話し書くから。

 水族館はね、いろんな魚が展示してあるんだよ。

 見てきた魚書いていくからね。


 だから……返事が欲しいな。

 返事が無いと、僕も寂しいから……。

 明日はちゃんと書いてくれると嬉しいな。


 大好きなリノンへ。

 ------


 ……書いてて、気持ちがあふれてきた。

 もしかしたら、からかわれてるのかもしれない。

 でも……今、僕は素直に言える。


 「大好きだよ……リノン……」


 たとえ、フラれても良いや。

 僕に芽生えた気持ち……それだけで……。


 僕はそっと交換日記を閉じた。

 交換日記は優しく光る。

 僕の気持ちをのせて……。


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