勇者の機嫌をそこねました……
僕は浮足になっていた。交換日記の住人と……リノンとの会話が楽しくて。
今日も僕は交換日記の返信を待っていた。……逆鱗に触れているとは知らずに……。
待っていると、交換日記がほのかに光った。
僕は急いで、交換日記を手にする。
ダンジョンはどうなったか……僕はそれが気になっていた。
けど……交換日記のタイトルを見て、ぞっとする。
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……そんなにシルビィのことが気になるわけ!?
こんにちわ~☆
ユウスケは「ジンベイザメ」って言うのが好きなのね?
こっちには居ない魚だな……。
やっぱりこっちとそっちでは違うみたいね。
ユウスケはその魚、どうやって食べるのが好きなの?
……なんか、シルビィのことばかり書いてる……。
そんなにシルビィが気になるの?
……まぁ……シルビィ可愛いけどさ……。
……レベル低くて気になるのもわかるけどさ……。
……今日のダンジョン、楽しいこといっぱいあったけど、教えてあげない!!
ベ~~~~だ!!!!
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僕は、交換日記の内容を、反芻して読み返す。
「……これ、書いてるうちに、腹が立ったパターンだ……」
前半は普通だけど、後半は……なんか怒ってる……。僕にはどうして怒っているのか、さっぱりわからなかった。
「シルビィの事、書きすぎたから?」
いやいや、だからと言って、それは……。
僕はひたすら、頭の中で考える。どうやってご機嫌を治すか……。
……てか、なんで怒られてるんだろうか? よくわからないけど、これが嫉妬? もし……この交換日記が本当にゲームならば、大したものだ。
……いや……なんとなく……。なんとなくだけど、本当に「リノン」という女の子と交換日記をしているんだろう……。今までのやり取りを思い返して、現実味を帯びていく。
いや……僕は本当は受け入れなければならない事実を、まだ見ないことにしているのかもしれない。
「どうしたものか……」
僕はぼんやりと、明日に書く交換日記の内容を考えながら、眠りについた。
・・・・・・
確かに……なんとなくは思っていたけど……。僕が交換日記しているのは、ゲームなんかじゃなく、一人の……本当の女の子なのだろうか?
僕はその事実から、目を背けていた。
じゃあ、今までの交換日記のやり取りは……。僕は失礼なことをしていたのだろうか? いや、もうゲームの感覚は捨てよう。これからは、一人の女の子と向き合う……そうして考えよう。
僕は、謝罪を込めて、書き綴る。
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本当ごめん……。
こんにちは。
……なんか、怒らせちゃったみたいだね……。
本当にごめん……。
リノンがレベル上だし、勇者だからつい気になっちゃって……。
本当にごめん……。
ダンジョンのこと、教えてくれると嬉しいな……。
何があったんだろう?
魔法覚えたのかな?
レベルは上がった?
そういえば、リノンの装備ってナイフしか聞いてないけど、もっといい装備に変えた? ダンジョンって、宝箱とかあるのかな?
本当、ごめん……。
返事、待ってます。
追伸。
ジンベイザメは食べません。
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まだ、僕の中では、現実味を帯びていない。とりあえず、最後にジンベイザメを食べたいかと聞かれれば、食べないので、そう記す。
なんで怒ったのかは、わからないけど……。交換日記の住人……いや、リノンに謝罪する。
そして、ダンジョンの内容も聞きたかったので、交換日記にその内容も添える。次に返ってくるときには、その内容も知りたいから。
ご機嫌直して、返事をもらえるように祈りながら、僕は交換日記を閉じた。
交換日記は光り、リノンに届いたことを示す。




