気恥ずかしいけど……勇気の魔法。
僕の日課が変わっていった。学校も終わり、部活もほどほどに済ませて、足早に家に帰る。
交換日記……僕の生活の一部になりつつあった。
エアコンで快適になった僕の部屋で、宿題と勉強をこなす。
時間はあっという間に過ぎてゆく。
そして、交換日記が光りだす。
さて、交換日記の住人……リノンは今日どんな返事をしてくるだろう。
僕は期待して、交換日記に手を伸ばし、ゆっくりと広げる。
新しく追加されたページに目をやる。
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ギルドで声かけれなかった……( ;∀;)
こんにちわ~☆
エアコン、ぴっ、ぴっ?
よくわからないけど、ユウスケすごいね!!
使いこなしてるんだ……。
今日はギルドに行ったけど、全然声かけられなかったの……。
なんか、先行きが不安~(-ω-;)
仲間作れるかなぁ……。
お金も必要だったから、久しぶりにスライム狩ってたの。
前は1日に4~5体が限界だったけど、
今日は軽く2桁行っちゃった♪
……と、言っても経験値もお金も少ないけどね……( ;∀;)
旅、ユウスケとなら楽しそうなんだけどなぁ……。
じゃあ、またね~☆
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「……声かけられなかったんかい!!」
僕は思わず、一人声を上げる。
でも……交換日記の住人、リノンは着実に成長しているみたい。序盤ではスライムもそれほど多く、狩れなかっただろうけど、今は2桁を超えている。
それにしても……モンスターって、どうやって湧いてくる仕組みになっているんだろう? 交換日記の住人リノンの中では、それが日常なのだろうけど。
僕はそっと交換日記を閉じ、明日書く内容を考えながら、眠る。
・・・・・・
次の日も、足早に家に帰る。
今度は僕の番。交換日記の住人、リノンに返事を書きたい。
そういえば、僕も宿に泊まることを決めたんだっけ。交換日記に勇気づけられて、僕も行動に移す。ホテルに予約を入れてから、交換日記を書き綴る。
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勇気の魔法、リノンに届け~!!!
こんにちは!
ん……あまりすごくないような気がするけど、まぁいいや。
そういえば宿の件だけど、来週に水族館そばのホテルに
泊まることにしたよ。
リノンを見習って、一人で。
僕は魚が好きだから、ここにしようって決めたんだ。
ギルドの方、なかなかてこずってるみたいだね…。
もう少し、勇気を出して?
勇気の魔法、リノンに届け~!!!
……な~んてね(笑)
スライム、たくさん倒してるみたいだね……。
前はべたべたって言ってたけど、いまはそうでもないの?
じゃあ、また!
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そう、僕は水族館が好きで、よく一人で行く。今度は行きたかった水族館にホテルの予約を取って、一人旅……とまではいかないけど、行動をしてみることにした。
水族館は僕にとっては、とても好きな場所。魚が優雅に泳ぐ姿が好きだ。
この交換日記で、僕は勇気をもらったから、交換日記の住人……リノンと同じことをしてみたいと思った。
「に、しても……」
ちょっと、気恥ずかしいことを書いたかな? 勇気の魔法なんて……。そんなの存在するわけもないし、ノリで書いてしまった。
でも、僕にも勇気をくれたんだから、その勇気を分け与えてあげたい。
「素直な気持ちなのかな?」
いずれにしても、交換日記の住人、リノンに勇気が届いてほしいと願ったのは、嘘ではない。
僕は、交換日記をそっと閉じ、ベッドで横になる。
交換日記はほのかに光り、僕の気持ちが届いた事を知らせる。