一人宿
今日はバイトおさめの日。明日は学校が始まるからだ。
「よう、雄介! 今日までありがとうな!」
「いえ、店長。今日は始まったばかりですよ? 気が早いです」
「おお、そうだったな。今日も宜しくな!」
そう言うと、店長はいつもの仕事につく。
僕も接客に集中する。
でも、やっぱり交換日記が気になって、仕方がない。僕はそのような邪念を振り払い、バイトに専念した。
「今日はお疲れ様。そして今日までありがとう!」
「いえ、よろしければ、またバイトに来たいです」
「おう! 雄介ならいつでも歓迎するぞ! いっそ従業員にならないか?」
「それはちょっと……」
「まぁ、冗談だ! これがバイト代だよ」
僕は名残惜しい気持ちもありながら、店長に挨拶をする。
また働きたいと思える、そんなバイトだった。
僕は家に帰って、宿題を終わらす。
そして……それを知ってたかのように、交換日記は光りだす。
僕は交換日記を手にして、また新しく追加されたページに目をやる。
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ナイフのことは気にしないで!
こんにちわ~☆
宿はなかなか快適だよ~。
疲れも取れるからね~。
村での暮らしはそこそこって感じだけど、今はプチデビル狩るのにハマってるからかな?
村には宿に入るくらいだよ~。
ナイフのことは気にしないで~☆
この村にもう少し居るつもりだし、ここには私の使えそうな武器なかったから、大丈夫!
心配しなくていいよ~☆
そうなの! 血まみれでいつも村に帰ってるよ~。
村の人は何も言わないよ?
1日狩ってると、下着まで血に染まってたりするの…(´Д⊂ヽ
じゃあ、またね~☆
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「……武器、銅の剣は買わないのか……」
相変わらずツッコミどころ満載の日記に、僕は独りつぶやく。血まみれで帰ってるって……ワイルドだなぁ……。下着まで染まるって、どんだけ血みどろになってるのさ……。
村の人たち、本当に何も言わないのかな……。
僕はほくそ笑みながら、交換日記の余韻を残して、眠りについた。
・・・・・・
今日は夏休み明けの始業式。
僕はリビングで食事を済ませて、学校に向かう。
学校のそばまで来ると、一人こちらに大きく手を振ってくる姿が、目に入る。
僕の幼馴染の、黒田 大樹だ。
「おはよう!」
「おはよう」
「夏休み、バイトお疲れ様!」
「そっちは、部活お疲れ様」
大樹はサッカー部に入っている。
運動神経は僕と違って、抜群にいい。サッカー部でも1年生ながら、主戦力になっているぐらいだ。
「なかなか連絡くれなくて、寂しかったぞ!」
「気持ち悪いこと言うなよ……」
僕もバイトで忙しくて、大樹と会うのは夏休み前ぶり。積もる話をしながら、行内へと入って行った。
……交換日記の事は除いて……。
「うちの校長、話なげーのな……」
「あぁ、また数人倒れたって?」
「もともと貧血持ちだったらしいからな」
奇跡的に同じクラスになった、大樹と談笑する。校長先生の話は長いことで有名。
「ちょっとした問題になってるらしいな」
「え? そうなの?」
「ああ、倒れた生徒は、今度から欠席するそうだよ」
……そこまで話題になるなら、校長先生、話短くすればいいのに。
とりあえず、今日はホームルームのみで終わりとなる。そして、宿題の提出日でもある。
「雄介は全部終わらせたの?」
「うん、なんとか……ね。大樹は?」
「半分終わったかどうかかな……」
大樹、それはまずいだろ……。
僕は心の中でつぶやいた。
・・・・・・
夕食を終え、風呂も上がって、ベッドで横になっていた。
今日は僕が書く番。頭の中で整理してから、交換日記にしたためる。
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宿暮らし羨ましいです。
こんにちは!
宿、快適なんですね?
いいなぁ……僕は一人で宿に泊まったことはありません。
お金もかかるし……。
プチデビル、狩るのにハマってるんですか?
毎日血まみれで、お疲れ様です……。
着替えとかはどうしてるんですか?
毎日血まみれなら、洗濯大変そう……。
そういえば、仲間は作らないんですか?
人見知りって言ってたけど、仲間は大切だと思うよ?
それに、銅の剣は買いだと思うけど……。
合わなかったの?
出来るだけ装備は新しい村でそろえるといいと思います。
では、また!
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本当に、一人宿暮らしは羨ましいと思った。僕もやったことが無いから……。
それに、毎日血まみれになって、着替えとかはどうしてるのかも、気になったので聞いてみる。
……どうにか、新しい装備と、仲間を連れて出発してほしい……。僕は心の中でそう祈った。