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流行は作る物

 ふかふかのベッドの上、朝日を感じて重い瞼をうっすら開ける。

 今日も天気は晴れらしく、澄んだ朝の気配が漂っているが、そんなの気にならないほどとても眠い。

 昨日帰って速攻ドレスを脱いで、速攻寝たんだけどなぁ……すんごい眠いなぁ……。


 子供の成長には睡眠時間が重要だ。昨日頑張ったんだし二度寝しても怒られないでしょ。

 おやすみなさぁいと誰に向けたかわからない挨拶をかまし、再び意識を手放そうとしたその時、扉が開く音が聞こえた。



 ルーエはまだ向こうにいるはずだから、フレンかアンナのどっちかだろう。フレンなら寝かせてくれるし、アンナもごねれば行ける。

 まだ起きませんという意思表示をすべく、シーツを被って温もりの中で丸くなる。

 傍に誰かが来ても知らんぷりし、すやすやと微睡みに身を任せたけれど、聞こえるはずの無い声がした。



「お嬢様、おはようございます」


「……ん?」



 おかしいなー? ルーエの声が聞こえた気がするなー? そんなわけないのになー?

 今日は侯爵家の方で過ごすって聞いてたもん。私ちゃんとクラヴィスさんに聞いたもん。間違いないもん。

 なのになんでルーエの声が聞こえるんだろうか。あれ、ここ侯爵家だった? んなわけあるかい。


 混乱と疑問で眠気が遠ざかり、もぞもぞとシーツから顔を出す。

 そこにはいつも通り、侍女服を身に纏ったルーエが居て、朝日を受けて輝く花の髪飾りに瞬きを繰り返した。なんで?



「な、なんで!? いつ……!?」


「式さえ終われば留まる理由はありませんから、昨夜の内に戻って参りました」


「で、でも夫婦の時間とか、色々あるよね!?」


「そんなのノゲイラに戻ってからで十分です」



 そんなのって言い切っちゃったよこの人。そういうのって大事じゃないの?

 ルーエがいるって事はシドも戻って来てるって事だよね。仕事人間同士で結婚すると初夜も何もないんだろうか。新婚夫婦として良いのそれ。



「……まぁいいや、とりあえずおかえりルーエ」


「はい、ただいま戻りました」



 夫婦の間の事だし、主とはいえ私があーだこーだ言うのは違うんだろう。

 そもそも働く気満々のルーエを止めれる気がしないです。ここは諦めて受け入れた方が良いんだよきっと。

 寝起きの頭はすぐに思考停止し、少し投げやりなおかえりを告げれば、ルーエは嬉しそうに頷き返した。そんなに仕事したかったの……? 仕事人間が過ぎない……?



「さ、お嬢様。着替えましょうか」


「ふぁーい」



 結婚式の次の日とは思えないほど普段通りのルーエは、私の欠伸交じりの返事を聞き流し、てきぱきと私の着替えを手伝い始める。

 後で夫婦喧嘩とかすれ違いの原因にならなきゃいいんだけどなぁ。後でそれとなーくシドに探りを入れておこうかなぁ……修羅場はご免だもの……。




 そんなわけで朝食を済ませた私は、城下町へと来ております。ひゃっほぅ。

 というのも、急用ができたとかでクラヴィスさんが出かける必要ができてしまったらしい。

 元々の予定だと王城とハレの儀を行う神殿には行くつもりだったそうだが、他にも行かなきゃいけない場所が増えてしまったそうだ。

 詳しくは聞かされていないが、ハレの儀にも変更があるとかなんとか。大した事じゃないって言ってたけど本当かなぁ。なーんか信用できないんだけど。


 クラヴィスさんが居ない間、大抵の来客は留守だと伝えればどうにかなるが、相手の格によっては公爵家として私が対応せざるを得ない人もいる。

 そんな人は早々来ないだろうけど、昨日のあの様子を考えるとあり得なくはない。

 それならいっその事私も出かけていればいいんじゃね? となったわけだ。決してストレス発散に出かけたかったとかじゃないんで。えぇ。



 面子としてはアースさんとディーア、ルーエ達といういつものメンバーに、ウィルが追加した形となっている。

 多少テンションが高いのはご愛敬という事で。ちゃんと頼まれた買い物もしますとも。帰りのための買い出しとか、お土産とか。


 ついでといっては何だが、市場調査もしておきたいと考えている。

 いくらノゲイラが発展していても、王都がこの国の中心である事に変わりはない。

 人々が何を好み、何を求めているか。辺境にあるノゲイラとは違って王都は他国の物も多く出入りするので、他国の流行を探るのにも市場調査はしておきたい。

 はてさて、王都では今何が流行なのかなぁなんて、ウキウキ気分は隠さず、買い物メモを手に私達は城下町へと繰り出した。ひゃっはー! 買い物だァ!



「お嬢様、このポーションはどうでしょう? 最近売り出したみたいですよ」


「へー泥汚れ専用洗剤かぁ……初めて見る商会だね。どんな感じ?」


『詳細は器具が無いとわかりませんが、珍しい材料は使われてないかと』


「ならこれと、他にも幾つか買って帰ろっか。商品研究ってことで」


「では私が」


「おねがーい」


「お嬢ーあの店珍しい調理道具取り扱ってるみたいっすよー」


「ホントだ、ディックに良いかもね。今回留守番だから騒いでたもんなぁ……」


「お嬢が食育なんて教えるからっすよ」


「のぉトウカ、あそこの菓子買いたいんじゃが」


「ん、じゃあフレン、アースさんと一緒に行ってあげて。フレンも好きなの買って良いよ」


「はーい! あれですよね、あの青くて丸いの! 私も気になってたんです!」


「あちらにも面白そうな物があるぞ!」


「ホントだ! 何でしょうあれ! 行きましょう!!」


「……お嬢様、私はあの二人を見てきます」


「あー、うん、食べきれる量なら許してあげて?」


「善処はします」



 とまぁそんな感じで、ある程度見て周った私達は、一旦休憩しようと噴水前の広場へとやって来た。

 いやぁ二年ぶりともなると随分変わってるねぇ。新しい店ができたり前あった店が閉まってたりと、色々変化があったや。

 そういえば以前来た時はこの場所であの人と出会ったけれど、あの人はどうしているんだろうか。

 今も変わらずある銀のリボンになんとなく触れていると、ウィルが売店のジュースを買ってきてくれたのでありがたく受け取った。



「で、どうでした? 王都の様子は」


「いやぁ……流行りっていっても大体ノゲイラ発っぽいねー……あんまり目新しいのは無さそうかなぁ……」


「まぁノゲイラに比べちまうと、ねぇ?」


「だよねぇ……」



 恐らくウィルには予想はできていたんだろう。

 ジュースを手渡しながら問われ、私の愚痴めいた答えにウィルは苦笑いを零す。


 ちらほらアレンジした物やノゲイラ発ではない物もあったが、予想の範囲内というかなんというか。驚くような物は無かったんだよねぇ。

 技術の大本がノゲイラ発ばかりなので、そりゃそうなると言ってしまえばその通りなのだが。まだ発展途中なのも大きいだろうなぁ。

 良く探したら掘り出し物とかもあったんだけどね。大体類似品なんだぁ……。



 輸入品なども見て回ったが、その国の特色が良く出ている物は別として、見知った技術が多いからか似通った物も多い。

 目新しさは無いものの、技術面でシェンゼが優位に立てるよう調整できているようで安心したから良いんだけどね。

 その辺りの調整は全部クラヴィスさんとか偉い人任せだからなぁ。その辺りを実際に窺えてホッとはしたよ。


 私としては良い発見はあまりなかったが、一人の視点で決めてしまうのは良くない。

 周りの意見も聞いてみようと、ルーエ達がお菓子や軽食を買って戻って来たのを見計らって声をかけた。



「皆はさ、何か気付いた事とかあった? 前に来た時と違う事とか、昔に比べてどうとか」


「そう、ですね……先ほど子供が看板に文字を書いているのを見かけました。

 親の手伝いのようでしたが、平民向けの学び舎が王都にも増えて来ているそうですから、その影響もあるのでしょう」


「あーそういうのもアリなら、まぁまぁ治安が良くなってるっすね。

 落とし物を拾ったおっさんが持ち去る事も無く、近くを巡回してた兵に渡してました。

 ノゲイラじゃすっかり当たり前の事っすけど、数年前までなら懐に入れちまうのが当たり前だったんで」


「んー私は着ている服が変わったかなぁと思います。昔より種類が増えてるような?」


「あぁ確かに、質の良い生地も増えているようですね。装飾品を付けている人も増えてるんじゃないかい?」


「そうですよ! 髪飾りはまだしも耳飾りなんて特別な時しかしてなかったです!」


『保存技術の普及や流通が盛んになっているのもあり、他国の商品が増えているように思います。

 今までは隣国へ行かなければ手に入らなかった薬草も店頭に並んでいました』


「菓子の類は目に見えて増えとるぞぅ。値段も以前より安くなっておってお手頃じゃ」


「ふむふむ、なるほど?」



 やはり以前に一度見て回っただけの私と違い、昔からを知る皆の目からは変化を見つけやすいんだろう。

 アースさんに関してはだろうなって感じだけど。前に来たの二年前なのに、種類だけじゃなく値段までしっかり覚えてたのね。


 識字率が高まり、治安が良くなり、景気も良くなっている。

 ノゲイラに持ち帰れそうな情報はあまりないが、それを実際に見る事ができただけでも十分か。

 日が暮れるまで少し時間があるのでもう少し見て回るとしても、今回の収穫はそんなところかなぁと考えていると、ルーエがふと思い出したように呟いた。



「後は占いでしょうか」


「占い? ルーエ興味あるの?」


「いえ、私は全く。ただ最近令嬢の間で流行っていると聞きまして。なんでもとある令嬢の占いが良く当たるとか」



 多分侯爵家に居る間に聞いたんだろう。

 言われてみれば貴族の間での流行り事なんて、平民が中心の市場から見て取るのは難しいだろう。

 でも貴族を相手にしてくれている馴染みの商人さんからはそんな話聞かなかったし、本当にごく最近の事なのかもしれない。でも、占いかぁ……。



「占いは正直あんまり信じてないからなー……皆は信じる派? 信じない派?」


「私もあまり……花占いなどは知っていますが」


「私は結構信じちゃいます。それこそ花占いを遊び感覚でやったり、街で占い師に占ってもらったり」



 その日のラッキーカラーを見るぐらいだった私を含め、どうやら女性陣の中ではフレンだけが信じる派のようだ。

 というか街中に占い師が居るんだね。こっちでも割と一般的なのかな?



「案外気安く占ってもらえる感じなの?」


「占い師によってはめちゃくちゃ高いらしいですけど、私がしてもらった人はちょっとしたお小遣い程度のお値段でした。

 あ、でも大体無許可でしてるらしくって、いつどこに現れるかはわからないし、詐欺の場合もあるので要注意ですよ……! 私の友達引っ掛かっちゃって大変でしたもん……!」


「あ、うん。それは知ってる」



 占いで詐欺云々はどの世界も変わらないらしい。

 あれでしょ? この数珠を買えば幸運がーとか、水晶を買って未来を明るくーとか、そういうやつでしょ? 良く聞く。



「ディーアとウィルは? 男の人からしたらあんまり?」


「俺は全然気にしないっすねぇ……あーでも、俺らの中で一人占いが好きな奴がいるっす。たまに酒の余興でやってるっすよ」


『催事などで日時を占うのは知っていますが、自分もあまり』


「ま、好きな人は好きって感じだよねぇ」



 魔法がある世界だし、シルバーさんの魔眼みたいに何かを見る事ができる人も実際居るとは思うが、そういう人はお高い料金が必要になるんだろうか。

 そうだとしても、占いで何か利益を出すというのは難しいように思う。

 良く当たる占いができるなら利益も出せそうだけどね。当たるも八卦当たらぬも八卦っていうからさぁ。


 やるとしたら当たり付きのお菓子でも販売してみて様子見からだろうか。後はおみくじとかかなぁ。

 印刷技術がもうちょっと安定したらパッケージに占いを印刷するとかしても良いかもしれない。

 火付け役となっただろう噂の良く当たる令嬢に会ってみたい気もするが、それは縁があれば、だね。



 占いについては置いておくとして、私からすると、こういう時気軽に楽しめる娯楽施設が欲しいかなぁってところだろうか。

 この世界で娯楽施設というと、観劇とかその辺りになっちゃうから気軽に時間潰し、なんてのはそう多くないもんね。

 誰もが楽しめるお手頃価格なものなると、現状ここでもやっている大道芸ぐらいだから、次の目標としては良いんじゃなかろうか。


 遊園地は無理でも、ちょっとしたアトラクションとかはすぐにできそうじゃないかなぁ。

 お化け屋敷なんかは江戸末期にはあったとか言うし、工夫次第で行けそうじゃん? 私が知るお化けの概念、通じるかな。皿屋敷は流石に無理だよねぇ。


 娯楽の多さはその国の豊かさにも繋がるだろう。

 最近うちも結構余裕ができたし、色んな事に挑戦してみるには丁度良い時期だ。帰ったら企画開発頑張るかー。

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