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距離感が掴めなくて困りますぅ

 カイルに手を引かれてやってきたのはパーティー会場から少し離れた一室で、部屋の前にはスライトが立っていた。

 どうやら休憩室として開放されている部屋の一つをうちで貸し切り状態にしているらしい。

 スライトが開けてくれた扉の先には、クラヴィスさんと見知らぬ男性が並んで座っていた。



「お連れしました」


「あぁ」



 あわよくば気を抜けるかなと思ったけど、そうは行かないかぁ。

 背筋に力を入れなおし、カイルと共にクラヴィスさんの元へと近寄ると、髪型を崩さない程度に頭を撫でられる。



「私は君を呼んでいたそうだな」


「ご迷惑でした?」


「いや? 元々呼ぶつもりだったから丁度良かった」



 やっぱりわかった上でカイルを送ってくれたみたいだ。

 人前だろうと構わず撫でる手は、私の行動を肯定してくれているようで、安堵の息が漏れる。

 喧嘩を吹っかけてきたのは向こうだけど、ああなった以上今後の関係が難しくなっちゃうのは確実だからなぁ。

 クラヴィスさんにとって重要な相手とかだったらどうしようかと内心ヒヤヒヤしてたよね。それならウィルが止めてただろうし、気にも留めてないみたいで一安心だよ。


 それで、撫でてくれるのは嬉しいし安心するんだけど、この人は良いんだろうか。

 無視しているのか何なのか。わざとらしく体を揺らしたりしてクラヴィスさんに合図を送る男性に対し、クラヴィスさんは何も言わない。

 さっきからすっごい存在感を出していらっしゃるんですけど。紹介してもらえない事にはどうしようもないんですけど。どちら様ですかね?



「あのークラヴィス様ー? もしかして私無視されてますー? そんな事をする子に育てた覚えはありませんよー?」


「お前に育てられた覚えは無いぞ、ルドルフ」


「おやおや、では無視せずに紹介をお願い致しますよぉ。ほら、お嬢様も困ってらっしゃいますぞぉ?」


「……そういう言動をされると紹介すべきか悩むんだが」


「大人しくさせて頂きます」



 十中八九味方なんだろうけど、なんというか、ぶっ飛んだ人が現れたなぁ。

 三十か四十代ぐらいだろうか。どこか見覚えのあるこげ茶色の髪と瞳をした男性は、とても豊かな表情と勢いでクラヴィスさんに募ったかと思えば、すん、と真顔で椅子に座り直す。

 クラヴィスさんの周りでは見ないノリにタジタジというわけではないが、こんなにめんどくさそうなクラヴィスさんは初めて見たや。癖が強いねぇ。


 見覚えがあるってことは会場で見かけたんだろうか。結構人居たし、それで記憶に引っ掛かってるのかもしれない。

 うっすらぼんやりと記憶の中で重なる人が浮かんでくるが、その姿がはっきりする前にクラヴィスさんが紹介してくれた。



「紹介する、シドの父親だ」


「ご紹介に預かりました、シドの父でこの国の宰相をしています。ルドルフ・ガル・エルフォンと申します」



 あぁ、それは見覚えがあるわけだ。誰かと思えばシドだったか。

 なんだか納得できたようなできていないような、妙なモヤモヤはあるものの姿勢を正す。

 頭の中では違う人が思い浮かんでた気がするんだけど、とりあえずご挨拶しましょうかねー。



「トウカ・ユーティカと申します。以後お見知りおきを」


「いやぁ先ほども思いましたが、実に賢いお嬢様ですなぁ……まるでクラヴィス様の幼い頃を見ているようです。

 愛想の無さが似なくて良かった良かった」



 これは喧嘩を売ってると取るべきか、気の知れた仲の冗談と取るべきか。

 カラカラと笑いながら言ってのけるルドルフさんだが、どう反応して良いのかわからず失礼にならないよう気を付けながらクラヴィスさんに助けを求める。

 いやだって、雰囲気的にはクラヴィスさんの味方なのかなぁと思ってたのになんかバチバチしてないですかこれ。初対面じゃ距離を測りかねるって。



「ルドルフ……お前のあまりの無礼さにトウカが警戒しているぞ」


「おや、これは私大失敗! なぁにちょっとした冗談でございますよトウカ様。

 私とお父様は昔から仲良しなんです。ねー? クラヴィス様ー?」


「仲良し……?」


「おっと突き放されてしまうなんて、私かーなーしーいー」



仲良しと言われて心底不思議そうに首を傾げているが、ルドルフさんはお構いなしに突っかかっていく。心が強いなぁ。



「クラヴィス様が生まれた時からのお付き合いですのに、そんな風に突き放すなんて、ルドルフ悲しくて泣いてしまいますぞ?

 よろしいのですか? 老人が泣き出すととっても面倒ですぞ?」


「自覚しているなら止めておけ」


「それもそうですな」



 クラヴィスさんが普段通りな辺り、この人は普段からこんな感じなんだろう。

 確か先王の代からずっとシェンゼ王国を支えているはずだが、こんな人が宰相って、この国大丈夫なのか心配になっちゃうね。

 大丈夫だから戦争とか色々あっても乗り越えてこられているんだろうけどさ。



「こんな奴だ。気を遣わなくて良い」


「は、はぁ……」


「そうですよトウカ様。私こんな奴なので、背筋を緩めていただいて構いません。私達以外誰も見てませんから」



 幾らクラヴィスさんと仲が良くとも、伯爵でこの国の宰相相手に失礼はできない。

 二人のやり取りを苦笑いでどうにか耐えていると、クラヴィスさんに続いてルドルフさんがにこやかに告げる。

 その表情は今の今までおちゃらけていたとは思えないほどとても穏やかで、とても静かで。

 先ほどまでの雰囲気をガラッと変えて、老巧の宰相は微笑み続けた。



「侯爵家がこの繋がりをもって立つ場所を確定させたとしても、まだまだ不安要素はありますからなぁ。

 この部屋は念入りに調べてますし、厳重に人払いもしてありますので、どうかご安心を」



 朗らかに語る言葉は柔らかく、私に対する気遣いを感じる。

 けれどそれは私に向けてだけで、言葉の端々にはどこか知っている冷たさが宿っていた。

 シドの父親でクラヴィスさんと仲が良いだけあるわぁ……これは味方ですね。はい。



「あちらでは周りが騒がしく楽しめなかったでしょう。

 会場の物を持ってきただけですが、お菓子も色々と用意しましたから、ぜひぜひ」



 見ればテーブルに多種多様なお菓子も用意されており、思わず小さく息を吐き肩から力を抜く。

 ここまでお膳立てされた気遣いを無下にはできないが、気を抜き切るには垣間見た冷たさは今も背中を貫いている。

 だからまぁ、ちょっとだけリラックスさせてもらおうか。



「……ありがとうございます、ルドルフさん」


「いえいえ、私としてはトウカ様とも仲良くなりたくって、これはいわゆる賄賂でございますぅ。

 よろしければクラヴィス様の幼い頃の話でも聞かれます? この方昔っからこんな感じでしたけど」


「止めろ」


「おや残念」



 お礼を言いながらクラヴィスさんの隣を陣取れば、ルドルフさんはまたあのノリでおちゃらけ始める。

 この人の相手はパパンにしてもらって、私はお菓子を食べさせてもらうとするかなー。変に疲れたからか甘い物が染みるぜぃ。

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