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幕間 だからわたくしはゆめをみるのです

 美しく飾られた天蓋の中、わたくしの呻き声が響いて消える。

 手足が痺れる。呼吸が苦しい。体中が痛い。

 体の中で何かが暴れているかのようだ。


 どうしても、どうやってもこの力はわたくしの言う事を聞いてくれない。

 無理矢理使う度に体が悲鳴を上げて、神経が焼け消えていく。



 今までこんな事無かったのに、やっぱりこの力は特別なんだわ。

 たぶん、きっと、もうこの体に時間は無いのでしょう。

 せっかく作ったのに。せっかく綺麗にできたのに。せっかくここまで来たのに。



 でも、使えないのならもう要らない。

 必要ないなら捨ててしまわないと。



「──……あぁ……彼女、彼女が要るわ。

 美しさよりも、強さよりも、馴染まないと意味が無いの……他の体なんて必要無かったのよ……」



 以前は鈴のようでお気に入りだった声も、すっかり掠れてしまって聞くに堪えない。

 以前は美しくハリのあった体も、すっかり萎びて老婆のよう。

 こんな声じゃ、こんな姿じゃ、あの人は愛想を尽かしてしまうわ。

 こんな肉体じゃ、誰にも愛されないわ。


 わたくしは愛されるべきなの。愛されなければいけないの。

 だってそういう運命なんだもの。そういう使命なんだもの。



 頑張らないと。頑張らないと。頑張らないと。

 記憶が霞んでしまうほどの、気が遠くなるほどの時を頑張って来たんだもの。

 あと少し、ほんの少し、頑張るだけ。


 そのためなら何でも我慢できるわ。

 痛みも、苦しみも、悲しみも。何もかも我慢してみせるわ。

 大切だったモノを切り捨ててでも、愛しいモノを見捨てても、それでも叶えなければならないの。


 あの場に立つのなら、そうしなければいけないもの。

 わたくしはちゃんとわかっているわ。

 わたくしは、ちゃんとできるわ。



 わたくしは、愚かな先人達とは違うのだから。

 わたくしこそが、由緒正しき者なのだから。

 そんなわたくしにこそ、彼は相応しいのだから。



 時間はまだある。半分ほど使ってしまったけれど、まだまだ十分に満たせる。

 彼女を手放してからの時間もあるのだから、きっとそれで足りるでしょう。


 謀もしっかりできるわ。

 頭が痛くて考えるのは大変だけど、それでもしっかり考えたもの。



 大丈夫、だいじょうぶ、ダイジョウブ。

 わたくしは、必ず彼女を手に入れて、あの人を手に入れて。

 そうしてあるべき場所へと至るのです。



 それまで、それまでもう少し。もう少し。

 瞬きのような僅かな時間を、いつか見た夢を頼りに進めばいい。

 わたくしはそう望まれた者。そうあるべきと願われた者。



 だからきっと、だいじょうぶ。

 美しく飾られた天蓋の中、わたくしの呟きが溶けて消えていった。

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― 新着の感想 ―
やばいやつですね。例の魔導士
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