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いざ王都散策!

 庭の手入れをしたり屋敷の探検をしたりして過ごす事数日、クラヴィスさんから漸く外出許可が出た。

 何をしているのかは教えてもらえないが、王都で色々やることが詰まっているらしい。

 一緒には行けないから、と渡された小さな紫の魔石が付いた指輪を掌で転がす。



「それには使用者の髪と瞳の色を変える幻影を施している。

 私達の色は目立つから、外に行くときは必ずこれを使うように」


「はい先生! 使い方がわかりません!」


「発動はアースに頼んである。君は持っているだけでいい」



 果たしてアースさんがちゃんとやってくれるのだろうか。

 私の肩で大きな欠伸をかましている龍の姿に一抹の不安を覚えるが、ルーエ達もいるし大丈夫、だよね?


 気を取り直し指輪を確かめてみるが、少し小さめなのか大人だと小指ぐらいにしか入らないだろう。

 子供の私には丁度良いサイズのようで、試しに右手の指に適当に嵌めてみれば中指にすっぽりと嵌った。

 既に首に掛けている指輪と同じようにしても良いけど、こうして指にしていた方が忘れなくて済みそうだ。


 色が変わるというがどんな色になるのかと指輪を眺めていると、そっとクラヴィスさんの指が触れる。

 紫色が微かに瞬いたかと思った瞬間、視界に入っていた私の黒が紫へと移り変わった。



「……やはり違和感があるな」



 魔石と同じ紫になった髪に違和感があるのは周りも同じらしい。

 アンナが差し出した鏡を覗き込めば、髪より少し明るめのアメジストが瞳に宿っていた。

 色が変わるだけで随分と印象が変わるもんだなぁ。元の世界じゃ染めるのが面倒であんまりやったことなかったし。紫なんて初めてだよ。



 見慣れない紫に毛先をくるくると弄っていたが、もう出かけなければならないというクラヴィスさんを見送るため一緒に玄関まで向かう。

 途中すれ違った人達に驚かれたけれど、正直私も視界に入ったり鏡とかガラスとかに映ったりする度に驚いている。

 いつもの場所に見慣れない物があれば思考も止まるというものだ。早く慣れないとなー。


 にしても、幻影を使った本人なのに私の髪を見て複雑そうな顔をしないでもらいたい。

 違和感がすごいんだろうけどさ、私が一番違和感感じてるんだからね? 皆の視線が若干痛いんだからね?

 それほど皆の中で私の色が黒で定着しているのだろう。元々ここじゃ黒は珍しい色みたいだもんねぇ。

 気分転換には良いかも、なんて思ったりしたが、必要最低限にした方が私のためになりそうだ。



 微妙な顔をしたままのクラヴィスさんを見送り、そそくさと自分に宛がわれた部屋へと向かう。

 許可も出たわけだし、さっさと準備して王都の探索に行ってしまおう。

 まずはどこに行こうかと思いつつ部屋に入れば、残っていたアンナが私の色を見て固まっていた。そんなに変かい?



 さて、制服というのは、着ている者がどこに所属しているかを明確に表す物だ。

 同じ使用人でも仕えている屋敷や貴族の派閥などによってデザインが異なるため、見る人が見ればどこに属する人間なのか一目でわかってしまう。

 ある種の身分証明にもなる物だが、主が注目を集める存在なら配下にも関心が向くわけで、言ってしまえば面倒な人に絡まれかねないわけである。


 新たな出会いと繋がりを求めるのはビジネスとして必要だろうけれど、クラヴィスさんが傍に居ない間に妙な繋がりができるのは避けたいところ。

 私がノゲイラの発展に大きく関わっているのは秘密だ。ノゲイラの秘密を探りたくて私に接触してこられたりしたらすごく困る。

 そのためもう着替えていた私と違い、制服姿だったルーエ達がそれぞれ私服に着替えるのを待つ間、ディーアと共にどこへ行くかを話していた。



「庭に植える花は今日中に見に行きたいなぁ」


『それなら西の市がお勧めです。花を売っている店は色々ありますが、西には品揃えのいい店があるので』


「じゃあ今日は西の方を攻めるとして……アースさんどうしよっか。このままじゃ目立つよね」


「幻影で隠れとるから心配せんでも良い。何かあればトウカに伝えるから、よろしくの」


「……お菓子は五個までね」


「もう一声!」


「アースさんに買い過ぎたらお金無くなっちゃうでしょーが」



 ノゲイラと違い砂糖などはまだまだ高価だと聞いている。

 屋敷のこともあるが、せっかく王都まで来たのだからノゲイラの発展に繋がりそうな物があれば手に入れておきたい。

 今日は買わないけど、皆へのお土産だって沢山買うつもりなのに、アースさんが満足するまでお菓子を買っていたら予算が無くなってしまう。

 それに、ノゲイラではお菓子の材料が手に入りやすいから甘やかし過ぎたんだろう。ちょっと、重いんだよなぁ……。



「あのねアースさん……気付いてないみたいだから言うけど、最近重たくなってきてるからね?」


「え、マジ?」


「マジのマジ。普段浮いてるからわかりにくいだけで……ほら、馬車で私に乗って来たでしょ。前より重かったよ」


「……本当?」



 その事実は彼にとってあまりにも衝撃が大きかったようだ。

 神妙な面持ちのアースさんに黙って頷き返せば、しょぼくれた顔で「わかった」と呟く。

 その表情はあまりにも悲壮感漂う物で、見ているこちらまで辛くなってきた。


 落ち込むアースさんを二人して宥めていればルーエ達の準備が整ったらしい。

 私服姿の三人が部屋に入って来たのを確認すると、ディーアは先に馬車の確認に行ってくると告げて部屋を出て行った。

 先に確認してなかったのは珍しいなと思ったが、私の護衛のためだろう。アースさんもいるし大丈夫だろうに、ディーアは真面目だなぁ。



「ほら、行こうアースさん。美味しいものあると良いねー?」


「うむ……」



 ショックから完全に復帰しきれていないアースさんに声をかけるが、反応は鈍く空気も沈んだままだ。

 不思議そうにこちらを窺っていたルーエ達に手短に説明すれば、あぁと納得した様子で頷かれた。

 普段食事が必要ないとはいえ、あれだけお菓子を食べて太らない方がおかしいよねぇ。


 どの世界でも女性にとって体重というのは気になるもの。

 三人も太ったことに落ち込むアースさんの気持ちは良くわかってくれたようで、玄関に着くまで皆で励ます羽目になった。

 後でディックにカロリー控えめなお菓子の作り方教えておくから、ね? ちょっと控えるだけで食べちゃだめってわけじゃないからね?




 そうして馬車に揺られること数十分。

 目的の西の市場に着いた時、私はふらふらになっていた。



「俺の運転が荒いばかりに……!」


「全然荒くなかったよ……石畳が悪い……」



 ルーエの用意してくれた果実水のおかげで随分治まっただろうか。

 今回御者を務めてくれたお兄さんが自分を責め始めたのでどうにか声を絞り出す。


 一国の首都ともなればどこも整備されているようだが、石畳の道を馬車で走れば揺れるという物。

 途中で現実に戻って来たアースさんが魔法で揺れを軽減してくれていなければどうなっていたことか。

 聞けばあの魔法はルーエすら使えない代物だったらしい。今日は特別にお菓子を七個までにしようねぇ。



 酔いもあるが、お尻の痛みも深刻だ。これでも沢山クッション使ってたんだけどなぁ。

 やはり体が小さくて軽いから、大人に比べて飛び跳ねやすいのだろうか。もうちょっとクッション増やしてみるか?


 馬車の改良も視野に入れつつ、アンナに手を借りて馬車を降りる。

 まだ少し足が心もとないけれどその内治まるだろう。

 それよりも目の前に広がる光景に目を瞬かせた。



 並べられた商品を眺め、手に取り見比べる女性に熱心に話しかける店主。

 店の奥へと荷物を運び入れる男性達の横で羊皮紙を捲り何かを確認する細身の男性。

 それぞれの目的へ向かって歩いて行く大人達の間を走り抜けていく子供達。

 あちこちから呼び込みや話し声で煩い程に賑やかな音が聞こえてくる市場がそこに広がっていた。



「ここがポルゲン市場、通称西市です。

 東市のアメリア市場と違ってこちらは手頃な価格のお店が多くあります」



 貴族向けの店は北にあるためそちらの方へ行くのか、アンナの説明に周りを見渡すと貴族らしい人はまばらで一般の人達の姿が多い。

 今日着ているのは深緑のシンプルなワンピースだからそこまで目立ちはしないと思うが、大人四人も連れている子供となれば良いとこのお嬢様なのは丸わかりだろう。

 アースさんが傍に居るとしても、皆とはぐれたりしたら色々と大変な事になりそうだ。ディーアとくっ付いてよう。この中で一番身長高いからもしもの時目印になるし。



 市場は店が多く馬車が通り難いため専用の待機所があるようだ。

 私達が散策している間、馬車と一緒にそこで待っているというお兄さんに少しばかりお金を渡しておく。

 馬車が盗まれたりしないようにといっていたけど、待ってる間暇でしょ。それなら美味しい物でも食べてて欲しい。

 でも、見張りの人もいるみたいなのにね。あんまり信用できないのかしら。王都って怖いねぇ。


 嬉しそうにしているお兄さんと別れ、まずはディーアの言っていた品揃えの良い花屋を目指しながら市場を進む。

 建国祭に王位継承の儀という大イベントが間近に迫っているためか、都全体がお祭り騒ぎになっているらしい。

 式典はまだ一ヶ月ぐらい先なのに、祝いや記念といった限定商品を謳った物が多く取り扱われていた。

 元の世界でもあったなーこういうの。何かのイベントに乗っかるのはどこも一緒よね。うちもそれでたまに売り出してる。



 現国王も次期国王もどんな人なのかさっぱり知らないが、余程民に好かれているのだろう。

 祝い事として嬉し気に、楽し気に受け入れている人々を見ていると、クラヴィスさんが領主になったばかりの頃を思い出す。

 ノゲイラじゃ唐突だったからねぇ……城の人達も悪徳領主が居なくなって嬉しいけど恐いって感じだったし……。


 今ではすっかり受け入れられ、望まれているけれど、あの頃は空気が重い時も多々あったんだ。

 そういった空気が全く感じられない辺り、現国王の治世と次期国王の人望の一端が窺える。

 いや別にクラヴィスさんが人望無かったとか思ってるわけじゃないんだけどね。状況が全然違うのはわかってるからね。



 心の中で言い訳をしながらアースさんが興味を示した店へと近付く。

 見ればシェンゼ王国では見ない異国の果物を砂糖漬けした物のようだ。ふむ、結構なお値段だけどこの果物、桃みたいで前から気になってたんだよなぁ。


 保存のためにも砂糖漬けされているようだが、味見してみる良い機会だろう。

 貴重な権利をここで使うか悩んでいるアースさんを横目に、一応ディーアを見上げてみるが、苦笑いを浮かべてゆるゆると首を振られた。

 普段から食べているところなんて見ないのでやっぱりかと思いつつ、財布を握っているルーエに四つ買ってもらい三人に一つずつ渡していく。



「わー! お嬢様ありがとうございます!」


「私達まで、良いんですか?」


「良いの良いの。これ、うちでも栽培できそうな果物だからさ。皆の感想も聞きたいの」


「の、のうトウカ。やはりワシも……」


「他にも色々食べてみたいからアースさん食べるの手伝ってくれる? 私が買ったんだから数には入れないよ」



 私は普通に見えているけれど、アースさんの姿は幻影によって周りからは見えていない。

 喧騒に紛れて気に留められないかもしれないが、何もない空中で果物が消えたりする所を見られても面倒だ。

 そのためディーアに壁になってもらい、周囲の視線から隠れてアースさんへと果物を差し出せば、アースさんは嬉しそうに果物に齧りついた。うわ半分以上持ってかれた。

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