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賄賂は見えるところで

 翌朝。早速市場へ向かおうと身支度を整え、二人の部屋をノックする。

 返事が聞こえてから扉を開けば、魔力を操る練習をしていたのだろう。

 クラヴィスさんが魔法で水を操り、鳥や花など色々な物を作っていた。あー昔シドがしてるの見たっけなぁ。なんだか懐かしいや。



「市場か?」


「ですです、二人も一緒に行きます?」


「……そうだな、少し見たい物がある」


「じゃあクラウンさんは決定で、ディーアはどうする?」



 昨日収穫祭の話をしていたから、すぐに予想が付いたんだろう。

 何か言う前にクラヴィスさんに言い当てられ、ちょっぴり肩透かしを食らいながらも二人を誘えば、クラヴィスさんがすぐに釣れた。


 アースさんが傍に居るとはいえ、一人で行くのもさみしいんだよねー。

 あと単純に私だけだとぼったくられそうで怖いんで。露天商ってそういうとこある。

 ノゲイラの生活で目利きはそれなりにできるんだけど、絶妙に高くされたりすると見抜ける自信は無いです。


 クラヴィスさんが行くならディーアも来てくれるだろう。

 二人が一緒なら安心だなぁなんて思っていたら、予想に反してディーアは緩く首を振った。ありゃ。



『自分は少し調べものがあるので』


「あ、ユリアナさんの? まだ調べるんだ」


『えぇまぁ、少し気になることがありまして。それから龍殿に一つご相談が』


「え、龍さんに?」


「んぁ? ワシ? なんじゃ?」



 ディーアがアースさんに相談って、こりゃまた珍しい。

 魔道具に綴られたディーアの言葉にパチパチと瞬きを繰り返す。

 当のアースさんは完全に気を抜いていたらしく、半分寝ぼけながら顔を上げていた。

 ……別に寝るのは良いけど、私の肩にヨダレは垂らさないでよね?


 アースさんがふわふわとディーアの方へと飛んで行き、念のため肩が濡れていないか確認していたら、ディーアは私とクラヴィスさんに背を向けて何やらアースさんと話し出す。

 顔も見せないってことは私達には知られたくない内容なんだろう。しかし……。



「おぉ……! し、仕方ないのー今回だけじゃぞー?

 ふむ、なるほど、そのようにすれば良いんじゃな? ふむふむ」



 何やらこそこそとしているディーアと、聞こえてくるアースさんの声に乾いた笑いが出る。

 なんか渡されてない……? 賄賂か何か受け取ったの? 滅茶苦茶怪しい雰囲気してるけど何してんの?


 思わずクラヴィスさんに視線を向けるが、彼も何もわからないらしい。

 魔法の水を消しながら、軽く肩を竦めて無関係を示される。

 まぁ、ディーアだし心配とかはしてないけどさぁ。目の前でそういうことされると流石に気になっちゃうって。


 よくわからない打ち合わせは終わったのか、アースさんがにんまりとしながら頷く。

 その手には何やら袋を持っていて、あぁと納得してしまった。

 アレ絶対お菓子か何かでしょ。さっきのアースさんの声、テンション高かったもん。

 一体何を頼まれたのかと二人の様子を見ていたら、アースさんはにっこりと笑って私に向けてぐっと親指を立てた。へ?



「エディシア! ワシちとやることがあったのを思い出したわい!

 すまんが今日はクラヴィスが守ってやってくれ!」


「はい?」


「じゃあのー!」


「あ!? ちょっと龍さんー!?」



 いつの間にかディーアが開けていたらしい。

 アースさんはばびゅんと袋を持ったまま空へ飛んで行く。

 早すぎて止める余地も無かったんですけど。何あれ。



「やることって何さ」


「さぁな」



 一体何だったんだろうかと呆然とする私に、クラヴィスさんが小さく笑う。

 さてはクラヴィスさん見当ついてるんでしょ。私は蚊帳の外ですかコノヤロウ。

 とりあえずディーアへジト目をしてみたが、ディーアは柔らかく微笑み魔道具の文字盤を見せてきた。



『お二人とも、早く行かないと良い物が無くなってしまいますよ』


「そりゃそうだけどさぁ?」


『では自分も行きますね』


「ちょっとディーア!」



 追及されるのを避けるためか。ディーアもアースさんと同じように窓から飛び出して行く。

 反射的に手を伸ばしたが、既にその姿は見えなくなっていて、私はため息一つ吐いてそっと窓を閉めた。



「……じゃあ私達も行きましょうか」


「そうだな」



 一体何が何だか、よくわからないまま過ぎ去ってったなぁ。

 気にはなるけどまぁ良いかと、私はクラヴィスさんと二人で市場へ向かうことにした。

 でもせめてディーアは扉から出て行ってほしいかなー。ゲルダさんがたまに「いつ出かけたの?」って驚いてるんだからねー?




 人が多い時間帯なのもあるだろうけれど、きっと収穫祭に向けての賑わいもあるんだろう。

 いつもより熱の入った呼び込みの声が飛び交う中、賑わう市場をクラヴィスさんと二人、並んで歩きながら露店を見ていく。



「やっぱり良いのはもう売れちゃってますねぇ」


「収穫祭は来週だそうだからな。

 あの令嬢のように早い内から準備を進める者も多いのだろうよ」



 聞けば先週ぐらいから市場は収穫祭ムードだったらしい。

 良い物はその頃から売れていて、今あるのは売れ残りや値段を釣り上げている物が多いようだ。

 作りの甘い粗雑な物や、作りが良くても高すぎる物がちらほらと売られている。


 大体こういうのって値段が下がりそうなものだけど、まだ収穫祭前だからなぁ。

 値下げするとしたら収穫祭が終わってからだろう。財布の紐が緩む収穫祭当日は一番高くなるに違いない。



 正直そんなにこだわるつもりは無いので、適当に安い物を買うのもアリではある。周りに合わせて付けておこうかなーってだけだし。

 とはいえ、だ。それなりに目利きできるものだから、あまりにもひどい物へお金を払う気も起きないのである。

 軽く見ただけでも「これでこの値段ってマジで言ってる?」ってなるのが結構あるからなぁ。



 まぁ市場で買わずとも、この時代に来る時持って来た宝石を使ってどうにかできなくもない。

 一つか二つは髪飾りがあった気がするんだよね。いざという時の資金源に引っ掴んで来たけど結局売りもしないままここまで来れたし。

 しかしあれは本物の宝石だから、見る人によっては目を付けられかねないため最終手段だろう。無暗に狙われる理由を作る必要無いもん。


 理想を言えば、ちょっと余裕のある平民が持っててもおかしくない程度の物が丁度良いだろうか。

 それか服を見繕うか、かなー。旅にも向いててそれなりに見える服ってあるのかしら。

 パッと見た感じ、女性物は綺麗なワンピースばかりだから望み薄かなぁ。



「そういえばクラウンさんは何を見に?」


「私のことは気にしなくて良い。それより……」



 女性向けの商品を多く取り扱っているのか、十人近くの女性陣が賑わう露店を横目にクラヴィスさんへ聞けば、ちらりと後ろへ視線を向けられる。

 妙な反応に首を傾げつつ私もそちらを見ようとしたら、わっと後ろが騒がしくなると同時、肩に手が回って引き寄せられた。



「クラウンさん?」



 ぽすん、と引き寄せられるままクラヴィスさんの体に寄りかかり、わけもわからず間近にある顔を見上げる。

 一連の行動の意味を答えてもらうより先に、誰かの怒号が市場に響き渡った。



「泥棒だ!! 誰かそいつ捕まえてくれ!!」


「君は後ろに」


「なるほど?」



 泥棒だと叫ぶ声と、こちらに向かって走って来る男性の姿にすぐさま状況を理解する。

 あそこで怪しい動きがあったのに気付いてた感じですか。結構離れてるのによくわかりましたね。

 肩に添えられた手にも促され、私を庇うように立つクラヴィスさんの背中側へと下がる。

 そうして私の安全を確保した後、クラヴィスさんは通行人にぶつかるのもお構いなしに逃げ出す泥棒へ向けて軽く手を振った。



「あ、穴!? え? はぁ!?」



 逃げられると確信していたのか、笑みすら浮かべていたその泥棒は突然驚いたかと思うとその場に倒れ込む。

 そして倒れたまま慌てた様子でバタバタと手足を動かし出す。

 泥棒の奇行に周りの誰もが目を丸くしている中、クラヴィスさんはもう一度手を振り、光の輪で泥棒を拘束していく。



「魔法!? 何が、オイ! 何だよこれぇ!!」


「誰か、縄か何か持って来てくれ」


「あ、あぁ! すぐに!」



 何が起きたのか理解できない様子で暴れ出す泥棒に、近くにいた商人達が慌てて縄を持って駆け出していく。

 「こいつ前も」とか「ようやく捕まえたぞ」などと聞こえてくる辺り、常習犯のようだ。

 般若のような顔で泥棒を縛っていく商人達に、ちょっぴり顔が引き攣ってしまった。

 うん、まぁ、商人からしたら敵でしかないからね。多少きつく縛られても仕方ない仕方ない。

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