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平穏を積み重ねて

 生い茂った葉を掻き分け、茎を束ねて根本を掴む。

 この感覚、大物の予感がするぜ……! 衝撃に備えなければ……!

 力を込める前に足に力を入れ姿勢を整える。こういうのは落ち着いてやらないと腰を痛めるって、庭師のお爺ちゃんが言ってたもんね。

 ふー、と深く息を吐き、覚悟を決めて思いっきり引っ張れば、幾つか細い根が切れると共に大物が地上に姿を現した。



「っすごい! 見てみて! 私の顔ぐらいある!」


「良かったのぉ」



 大物の収穫に興奮しながらも、垂れる汗を軽く拭い、取れたての野菜に付いている土をペペっと払って籠へ放り込む。

 一杯になった籠の中には葉野菜なども入っており、どれも一目で良い野菜だとわかる物ばかりだ。

 いやぁ魔流のおかげで育ちが良いとはいえ、立派な野菜が色々収穫できてすごく助かるわぁ。

 材料に偏りがあると栄養バランスもそうだけど、料理のレパートリーが、さぁ? 主婦って大変だよ。



「じゃあ仕上げお願いしまーす!」


「……あぁ」



 次は薬草の方を見に行くので、使っていた農作業用の道具を軽くまとめながら後ろへと声を掛ければ、木陰で待っていてくれたクラヴィスさんが籠の傍に立つ。

 そしてアースさんに見守られながら、クラヴィスさんは籠へと手をかざした。



 どこからともなく現れた水の球は籠の中の野菜を包み込み、ふわりと浮かび上がっていく。

 中は流れがあるようで、見る見るうちに土が洗い流され、綺麗になった野菜が一つ、また一つと籠へと戻されていく。


 確か、水の魔法と並行して、物を動かす魔法も使っているんだっけ。

 集中しているクラヴィスさんの邪魔にならないよう、いつでも駆け付けられるよう、じっとその様子を見つめていれば、全て洗い終えたんだろう。

 土が混じって濁った水がパッと消え去り、クラヴィスさんは細く息を吐いた。



「ふむ、魔力の乱れもそれほど起きとらんし、大丈夫そうじゃな。

 簡単な魔法ならもう補助も要らんじゃろう」


「そのよう、だな……」



 二人の目には何かが視えているのか。

 アースさんの言葉に小さく頷いたクラヴィスさんは、自分の手を見つめ、静かに握り締める。

 どうやら自分の目で見ても現実味が無いようだが、あの人が苦しんできた日々を思えば無理もないだろう。



 アースさんに聞いた話では、魔法を使ったりして魔力を操っていると魔力に対する耐性が高まるらしい。

 器の成長を待つだけでなく、耐性も高めていけば、より早く魔力の暴走の危険性が低くなる。

 だからああして魔法を使うのも必要な事なのだという。


 しかし、常に魔力の暴走の危険が伴っていたクラヴィスさんは、ずっと前から簡単な魔法すらまともに使えない状態だった。

 魔法を使えれば耐性が高められ、魔力も減らせるのに、魔法を使うと魔力が暴走しかけるためそれもできず、もがき苦しむ日々。

 それがどれほどあの人の深い傷となっているか、私には想像すらつかない。



 ここに来てからは私が魔力を減らせるから魔力が暴走する危険も少なく、魔法を使うとしてもアースさんの補助を受けられる。

 だから魔力が落ち着いている時に、二人で魔法を使っている場面を見て来たけれど、今後はその光景も見なくなるのだろう。

 クラヴィスさんの肩にアースさんが乗ってるの、未来の二人を思い出すからちょっと名残惜しいなぁ、なんて、二人には内緒だ。



「この籠は中に運んでおけばいいか?」


「そう、ですけど……後で運ぶから、置いてても良いんですよ?」


「この程度なら問題無い」



 まだ少し動くのが辛そうだったけど、流石は男性というべきか。

 私が力一杯込めてどうにか持てるぐらいの籠でも、クラヴィスさんは軽々と持ち上げ、小屋の中へと運んでいく。

 魔法を使って疲れてるだろうし、自分の体を優先してくれて良いのにね。



 閉じた扉に背を向けて、クラヴィスさんが持って行った籠とは違う、小さめの籠を抱え、少し離れた場所に設けた薬草畑へと向かう。

 えーっと素材が足りなくなってきたのは解毒のポーションと、炎症止めに痛み止めでしょ?

 後は傷薬の薬草を多めに摘んどいて……これならまだ試してない解毒薬も作れるかなー。


 雑草を抜いたり、剪定をしながら収穫していると、風も吹いていないのに林の方からカサカサと音が聞こえてくる。

 何か来ているのは明らかだが、アースさんが獣避けの魔法を施してくれていたから、獣ではないだろう。

 そう大して警戒もせず顔を上げれば、予想通り、林の奥からディーアが姿を現した。



「おかえりー、どうだった?」



 作業の手を止めて声を掛けると、ディーアは真っすぐ私の方へと近付いて来る。

 そうして差し出された籠の中には、野草や薬草がてんこ盛りになっていた。



「わ! こんなに沢山取れたの!? すごいね!」



 常日頃、私が説明しながら調合していたから、色々と薬に関する知識も身に付いたらしい。

 林の方はディーアが代わりに採取しに行ってくれるって言うから任せてみたけど、まさかこんなに沢山取って来てくれるとは思ってなかったや。

 流石は未来のノゲイラで一番の調合師になる人だねぇ。パッと見た感じ、後処理も完璧に済ませてあるよ。


 こうも呑み込みが早いとなると、簡単なポーションとか教えてみても良いかもしれない。

 作業の一部でも任せられたら、もっと沢山調合できるようになるもんなぁ。

 この前聞いた街の状況を思うに、薬草より薬で持って行ってあげた方が良さそうだから、ディーアが手伝ってくれるってなったらすっごく助かる。



 しっかしこれだけ色んな薬草があるなら、街に売りに行くのもだけど、おばあさんに薬作ってあげようかなぁ。

 この前おばあさん家に行った時、膝を痛そうにしてたし。


 医療がまともに機能していないこの時代では、些細な体調不良でも命に関わる事が多い。

 しかもあの人は貧しい村で一人暮らしの老人だ。

 村の人達とは良い関係を築いているようだが、何かあれば真っ先に見捨てられてしまう存在だろう。



 薬と、野菜もおすそ分けしようか。

 どうせ私達四人で消費するにはちょっと多いぐらいあるし。

 一部は長持ちするように加工もしておこう。


 もしかしたら、早く家族の元へ行きたいのかもしれないけど、さ。

 自分で使うか、誰にも使われずに処分されるか、誰かに渡してしまうか。

 渡した物をどう扱うかは、おばあさんの自由だもんね。



「……?」


「ん、ちょっと追加でね」



 もう十分な量があると目に見えているのに、追加で薬草を収穫し始める私をディーアはじっと見つめる。

 これも覚えようとしてるんだなーと、説明しようと口を開く──けれど、言葉を紡ぐよりも先にディーアが私の腕を引いた。

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