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貴方の笑顔を守りたい

 人に見られないよう、上空を飛ぶアースさんにしがみ付く事しばらく。

 私達は無事に小屋へと帰り付いた。いやぁこれは絶対明日筋肉痛だわ。腕痛ぇ。



「……帰ったか」


「わ! ただいまですー!」



 もしかしなくとも心配してくれてたらしい。

 私達を出迎えるように外に出ていたクラヴィスさんとディーアが、私達を見て少しホッとした様子を見せてくれ、こちらも自然と頬が緩む。

 自力で立って歩けるようになったのもだけど、少しずつ心開いてくれてるみたいですごく嬉しいなぁ。

 私達初対面がアレだったから、ねぇ……? 未来の二人を知ってる分、明確に距離を置かれてるのわかっちゃうから結構寂しくってさぁ……。



「あー疲れた、ワシちと寝るぞぅ」


「うん、ゆっくり休んでて」



 流石に疲れたのか、ふわふわと小屋の中へと飛んで行き、畳んであった毛布へと突っ伏すアースさん。

 ついでに買い物籠を運んでもらいたかったけど、仕方ない。

 よっこらせと地面に置かれた籠を持ち上げようとしたら、ディーアが奪うように持って行ってくれた。

 なんというか、反抗期の男子高校生が見せる優しさ的なやつを感じるね。反抗期っていうかまだ警戒されてるだけなんだけど。



「運んでくれてありがとー。重かったでしょ」



 アースさんにも運べる重さに限界があり、本当に必要そうな物しか買っていないが、それでも相当な量を買っている。

 現にテーブルの傍に置かれた籠はどさりと重い音を立てていて、ディーアにお礼を言えば、気にするなとばかりに軽く首を振られた。


 早く動けるように、時折小屋の外でリハビリがてら軽い鍛錬をしているぐらいだから、この程度は全く問題無いのだろう。

 まだ肌の爛れは全然取れてないし、体内に毒も残っているだろうから、私としてはあんまり無理しないで欲しいけどねぇ。

 孤立した状況だから主を守らねばと気が急くのもわかるので、基本的に見守る体制でいるつもりです。努力家な性格なのも知ってるからなぁ。



 さて、私も休憩したい気持ちはあるけれど、一回洗ったりしなきゃだから先に片付けを済ませないと。

 籠の中身を一つ一つ取り出し、テーブルへ並べていく。

 服に調理器具、おばあさん経由でも手に入らなかった作物や薬草の種と苗、それから食器類とまぁ、色々だ。


 本当はもっと食器を揃えたかったけど、苗って結構重いからなぁ。

 木を削れば作れなくもない食器類より、足りない薬や栄養の確保が優先なのである。

 まぁ、これでお茶碗をコップの代わりにしなくて済むし、十分十分。



「……街の様子はどうだった」



 数も少ないのでパパっと食器を洗っていると、クラヴィスさんに問いかけられる。

 街の様子、というけれど、クラヴィスさんが聞きたいのはきっと自分の話だろう。

 自分の命を狙っている母親──今は王妃であるあの人の手がどこまで伸びているか知りたいはずだ。



「んー、戦争中っていうのもあってか、随分不穏な空気が漂ってましたね。

 戦争の事もそうですけど、行方不明になった第三王子の捜索が続いてるって話で持ち切りでしたよ。

 進展が無いみたいで、旅人なら何か知らないかって、何度か話しかけられました」



 直接聞かないのは、恐らく私達がお互い相手の素性に触れないからだろう。

 始まりこそ私達のとぼけた自己紹介だろうけど、クラヴィスさんもあまり触れられたくないと思っているのか。

 私達が知っていると察しているはずだが、いつの間にか暗黙の了解になっていたそれに倣い、それとなく情報を共有する。


 っていっても、わかったのなんて捜索が続いているって事だけなんだけど。

 街で聞ける噂だけだと、誰がどう動いてるかわからないなんてクラヴィスさんもわかっている。

 特に追及も無く、静かに思考を巡らせているクラヴィスさんを横目に、洗い終わった皿を干していく。



 王妃といえば、民衆から同情が集まってるっぽいけど、それはクラヴィスさんに話す事でもないだろう。

 普通の人は王妃がクラヴィスの命を狙っているなんて知りもしないんだ。

 王都の人達は知ってるかもだけど、地方じゃそんなもんだろうし、こればかりはしょうがない。



「後は……そうですね。西との戦争はあまり芳しくないかと。

 情報が錯そうしてるっていうか、色々噂は聞けたんですが、何が本当かさっぱりわかんなくって。

 ノゲイラが離れてるってのもあるとは思いますが、それだけ王子が行方不明になった混乱が大きいのもあるんでしょうね」


「そうか……」



 今頃、シド達は王妃より先に見つけ出そうと必死に探しているのだろうか。

 二人の容体も少しずつ落ち着き始めているわけだし、クラヴィスさんとしては合流も視野に入れたいのかもしれない。



「もしあれでしたら、誰かと連絡取れるかやってみますか?

 検閲とかありそうなので難しいかもしれませんけど」


「いや、それは必要無い」



 シド辺りと連絡取れたら動きやすいだろうなぁと提案してみたものの、悩む間も無くばっさりと断られる。

 もしかして、シド達を信頼してない? それともまだ出会っていない、のか?

 クラヴィスさんの反応からは何もわからないけれど、これ以上先は踏み入って良い領域ではないのは確かだ。



「そうですねー、今のままでも問題ないですからねー。

 それより見てくださいよほら! 鍋です! もうフライパンで限界を攻めなくて良いんですよ!!」



 未来を知っているからと言って、クラヴィスさんの状況を全て知っているわけではない。

 戦争中ともあって、何か複雑な理由があるのかもしれないし、その辺りの判断は任せた方が良いだろう。

 だから今は話を逸らすため、濡れるのもお構いなしに洗い終わった鍋を見せびらかした。



 実は、小屋にあった鍋は完全に錆び切ってて、とてもじゃないけど使えなかったんだよね……。

 だから今までフライパンでどうにかしてたんだけど、煮る行程がすっごく大変でさぁ……!


 この間、具材の量を誤り、水を溢れさせて大騒ぎしていたのを思い出したのだろう。

 大げさに喜んで見せている私に、クラヴィスさんは一瞬呆けた後、小さく笑みを零していた。

 そうそう、どうせなら笑っててくださいな。



 このままではいられないのは私もクラヴィスさんもわかっている。

 小さな箱庭のようなこの場所で、微睡み続けていられないとわかっている。

 でも、今にも消えてしまいそうなほど追い詰められていたこの人が、少しでも休める場所でいられるのなら。


 つかの間でも良い、平穏な居場所で在り続けたい。

 それがいつか居なくなる私にできる事だと思うから。

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