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昏き未来に希望の輝きを

 問いを投げられたは良いけれど、その問いに対する答えを私は持っていない。

 だから答えを持っているだろうアースさんへと視線を向ければ、私の意図は伝わったのか小さく頷き返される。

 そしてそのまま私の肩から離れ、私を庇うようにクラヴィスさんの前へと進み出て行った。



「あぁ、むしろこの子でしかお主は治せんよ」



 先ほどまでの挙動不審はどこへやら。

 落ち着いた様子で語り掛けてくる龍に、クラヴィスさんはピクリと眉を動かす。

 そして口は開かず黙って先を待つクラヴィスさんに対して、アースさんは普段通り、穏やかな声色で話し続けた。



「この世界において、本来魔力は肉体の成長に合わせて増加していく。

 しかし極稀に肉体の成長が追い付かぬ勢いで魔力が急増してしまい、制御しきれず暴走を引き起こす者がおる」



 その言葉に、私に今も焼き付いている彼女の記憶が脳裏を過る。

 彼女もそうだった。急に魔力が暴走して、苦しくて、壊れていって。



「荒れ狂う魔力はその身を滅ぼし、大抵の者はそのまま命を落とす。

 じゃが命を落とさず、暴走する魔力に適応するよう肉体を急速に変質させる者がおる。

 それが魔堕ちと呼ばれる変異の始まりじゃ」



 だから人間を辞めて、魔物になるというのか。

 焔に包まれた彼女がそうだったように。夜空から堕ちて来たクラヴィスさんがそうだったように。

 耐えがたい苦痛を伴うとしても、心が狂い果ててしまうとしても、生きるために。



「増加した魔力の量によっては人の身を保つ者もおるが……お主は違う。

 人並外れた魔力。それに適応しうる器。それでいて、暴走に耐えうる生命力を持っておる。

 このままなら暴走が起こる度に変異が進み、いずれ完全な魔物へと成り果てるじゃろう」



 耐えられるという幸福なのか、耐えられてしまうという不幸なのか。

 過酷な状況に適応しようとするのは、生存本能として正しいんだろう。

 そのままでは耐えられないなら、耐えられるよう変わっていくのはごく当たり前の事だろう。

 でも、そうして生き残れたとして、その人に命以外に残る物はあるんだろうか。


 燃え尽きた彼女の姿が蘇り、彼女の記憶が燃え盛り、静かに消えていく。

 何も残らなかった彼女のように、クラヴィスさんもこのままだと何も残らず消えてしまうのだろうか。


 そうはしない。そうはさせない。そう、独り手を握り締める。

 改めた決意を後押しするように、アースさんがきっぱりと告げた。



「変異を止めるにはただ一つ。肉体を成長させ、器を育てる他無い」


「育てる……?」


「要するに、未熟な肉体に膨大な魔力が宿っているのが問題なのじゃからな。

 膨大な魔力に適応するまで、肉体が成長すれば良いというわけじゃ」



 確かに、未来のクラヴィスさんは自分の魔力を自由自在に操っていた。

 魔力の暴走だって、呪いによって引き起こされたりはしていたけれど、それ以外で暴走はおろか、自分の魔力で苦しんだりしていなかった。


 クラヴィスさんなら、どれだけ膨大な魔力でもきっと適応できるはずだ。

 そう、私達は未来を知っているから信じられるけれど、現在しか知らない彼には机上の空論に思えたのだろう。

 怪訝そうにしていたクラヴィスさんは、息を吐き出すように嗤い出す。



「無理だな」



 短く、吐き捨てられる否定の言葉。

 その表情にはクラヴィスさんには似合わない、諦めに染まった歪な笑みが浮かんでいる。



「この魔力で、それまで生きられると思うのか?

 常に私を食い殺そうとしているこの魔力を抱えて、まだ生きていられるとでも?」


「……そうじゃな、お主の魔力は人にしてはあまりにも多すぎる。

 しかも常に暴走しかけているというのに、良くぞそこまで抑えられているもんじゃと、感心してしまうほどじゃわい」



 きっと今までずっと苦しんでいたんだろう。苦しんで、諦めすらも抱いていたんだろう。

 苛立ちが見え隠れする言葉が投げかけられ、体が強張ってしまう。

 自分に向けられた苛立ちではないのに体がこうなってしまうのは、やっぱり相手がクラヴィスさんだからだろうか。

 剣呑な空気が漂いかけているのが肌でわかるけれど、アースさんは気にせず変わらぬ落ち着いた声色で語り続けた。



「そのままでは肉体が成長するよりも先に魔物に成ってしまうじゃろう。

 溢れる魔力を減らそうにも、今のお主は抑えるのに精一杯で、魔力を消費するなどもってのほか。

 だから誰かがお主に代わって魔力を減らしてやらねばならんのだが、本人でも肉体が変質するほどの魔力じゃ。他人が耐えられるはずもない」



 そこで言葉を切ったアースさんが私の肩へと巻き付いた。



「しかし、この子は別じゃ」



 急に話題の中心へと引きずり込まれ、向けられた視線に思わず肩が跳ね上がる。

 自分も当事者だというのに多少気が抜けていたのは事実だが、変な声を出さなかったのは褒めて欲しい。



「この子はわけあって魔力を持たぬが、膨大な魔力に耐えうる器を宿しておる。それこそお主と同等か、それ以上の器をな。

 何よりお主の魔力と相性がこれ以上無く良いからのぉ……例え暴走していようとも受け入れられる」



 できれば痛いのはもう勘弁だけどなぁと思いつつ、二人の様子を窺うが、やはり初対面の相手と相性が良いと言われても信じがたいんだろう。

 あまり表情は崩していないが、僅かに眉をひそめ、十中八九怪しんでいそうな二人につい苦笑いが零れてしまう。

 本当は相性が良いというより、馴染み切っていると言った方が正しいんだろうけれど、それは今の二人が知る事じゃないからなぁ。


 これに関しては、実際に見て理解してもらうしかないだろう。

 何か言いたげなクラヴィスさんを気にも留めず、アースさんは話を続けた。



「幸い、今のお主は成長期のようじゃしな。

 溢れた魔力はこの子に移し、暴走を引き起こさぬよう魔力を使い、肉体の適応を速めれば、それほど時間は掛からん。

 早くて半年か……一年もすれば自分で制御できるまで適応できるじゃろう」



 成長期、と言われて改めてクラヴィスさんの姿を見る。

 変わらぬ美人具合にあまり意識していなかったけれど、言われてみれば確かに結構幼いような気もする。

 アースさんの見立てが正しいのなら、今のクラヴィスさんは十代の後半ぐらいといったところなのか。

 ディーアとはそんなに年が変わらなかったはずだから、二人共それぐらいの年齢かな。


 そんな年齢でこんな目に遭ってるのかと思うと胸が痛むが、私の憐憫なんて彼等は求めて無いだろう。

 利益さえ示せればきっと彼等は私達を受け入れてくれる。受け入れるしかない。

 だから口を挟まず、アースさんの隣で真っすぐ彼等を見つめた。



「で、どうかの? ワシ等の手を取る気にはなったか?」



 試すように、含みを持った笑みを向けるアースさん。

 答えなんてお互いわかっている。



「──治せるのなら、利用するまでだ」



 そんな事わざわざ言わなくても良いのに、面と向かって利用するなんて告げるのは、彼なりの優しさの表れか。

 わかりにくいけれどわかってしまう優しさに触れて、自然と頬が緩んでしまう。



「じゃあ改めて、よろしくお願いしますね」


「……あぁ」



 この人の根っこの部分は、どんな状況にあっても変わらないようだ。

 へにゃりと緩んだ顔をした私に何を思ったか、クラヴィスさんは居心地が悪そうに視線を逸らしていた。とりあえず第一段階クリアかなぁ。

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― 新着の感想 ―
[一言] クラヴィスさんの「花」とかディーアの献身の理由… 色々回収されていってソワッと鳥肌の立つ思いです。 5年以上読ませていただいてますが、ずっと応援しています!
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