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特殊任務のお時間です

 春も終わりに近付き、夏の兆しを感じるような、とある晴れた日。

 私はクラヴィスさんと一緒に視察へと向かうため、馬車に乗っていた。



 今日の視察するのはヘティーク湖の近くにある村だ。

 ノゲイラでも特に魔流の影響が強い場所にあり、私の庭と同じように植物の成長が速い。

 おかげで林業が盛んになり、村の人口も増加傾向にあるのだが、ちょっとでもさぼると村が木に浸食されるそうだ。

 そりゃ林業が盛んになるのも必然というわけです。やんなきゃ村が無くなりかねないんだもの。


 視察の目的としては村の様子を見て周るのは勿論の事。

 人の手だけでは追い付かないと、ノゲイラで最初に林業専用魔道具を使い始めた村なので、その点検もしなければならない。

 その上あの村は立地の関係上学校が遠くにあるため、その通学に利用している馬車についてのお話など色々あるのである。


 農業魔法の発展に加えて、勉強の必要性を皆が理解してくれるようになってきて、村の子供達が学校へ通うようになったのは良いんだけどねぇ。

 どうしようにも学校がまだ少なくて、住んでる場所によっては通学が負担になる人も出て来ちゃうんだよなぁ。



 この村だけではなく、各地での学校不足は無視できない問題だ。

 まだ学校を幾つか設立できたばっかりって段階だから、仕方ないっちゃ仕方ないんだけどねー。

 子供に限らず老若男女問わず自由に勉強をできるようにって思うと、そういった施設はもっと増やしたい。

 のだが、そうするにも人員が足りてないっていうね。人材育成はどうやっても時間が掛かるからなぁ。


 時間が必要なのは間違いないため、義務教育の話を進めながら同時進行でやっていくつもりだ。

 義務教育の導入はクラヴィスさんも同意してくれてるからねー。出来る限り頑張らねば。

 ──とまぁ、視察と言ってもいつもと大して変わらないのだが、今回は一つだけ特殊な仕事があるんだよなぁ。



「何か質問はあるか?」


「んー……私はいつものようにしていれば良いんですよね?」


「あぁ、普段通りに接してくれれば良い」


「ワシは?」


「アースもいつも通りトウカの傍に居てくれれば良いが、本体を見せてもらう事になるだろう。そのつもりでいてくれ」


「ふむ、それぐらいお安い御用じゃよ」



 説明は聞いても資料を見るつもりは無さそうなアースさんが頭の上で落ち着いたのを放置し、手元の資料に目を通す。

 以前軽く見せてもらった資料と違い、これは今までの報告を全てまとめた物なのだろう。

 とある一家について記されている顔写真付きの資料を捲り、内容を頭に入れていく。



「読んだ感じ、ごく普通の一家みたいですけど……なんでまた監視なんか?」



 二十代の男女と今年で四歳になる息子の三人家族。

 男性が兵役を終えたのを機に祖母が住んでいたこの村へ移住した等々、経歴から趣味趣向、王都での評判まで事細やかに記されている。

 ホントごく普通の一般家庭って感じなんだけど、なんとこの一家、影の人達がこの一年間ずっと監視しているという。

 ペラペラと資料を見つつ問いかければ、クラヴィスさんは眉をわずかに顰めて、丁度私が捲ったばかりの男性のプロフィール部分を指差した。



「その男の祖母は生前、前の村長一家に疎まれていた。

 何でも、村長の息子がその男の母親へしつこく迫っていたらしい。

 村長の息子は気に食わなければすぐに手を出すような粗暴な男で、脅迫紛いに結婚を迫られた母親は魔物に襲われたと偽装して村を出て行ったそうだ」


「あー……結婚が嫌で逃げたんじゃなくて、魔物に襲われて死んだとあれば、残った家族に害は少ないって考えたんですねぇ……」


「恐らくな」



 クラヴィスさんの指先を辿れば、確かに祖母と母親についても書かれている。

 どうやら二人共すでに亡くなっているようで、男性がこの村について知ったのも母親が死の間際に教えたからだったらしい。

 母親が何を思って故郷を語ったのかまでは明らかではないが、男性にとっては衝撃だったろう。


 この世界でも村八分とか普通にあるからなぁ。

 最近は人の出入りが多くなって、そういった雰囲気が薄れている場所も増えているらしいけど、この男性の祖母が生きていたのは約二十年前の話だ。

 当時の村の生活を思えば、村に残った祖母がどんな暮らしをしていたかなんて想像に難くない。



「魔物に襲われて死んだと思われていたため、直接害を与えられていたわけではないそうだが……気に食わなかったのだろう。

 その老婆は前村長一家から村に居ないものとして扱われていた。

 村人の多くは気付かれないよう助けていたが、老いた女の一人暮らしだ。厳しい生活を強いられていたのは確認が取れている」


「それで、もしかしたら祖母の復讐のために移住してきたんじゃないかって?」


「可能性がある、といった程度の話だよ。

 前領主を捕まえた際に、前村長一家も捕らえている。

 復讐するにしても既に相手がいないのだから、監視も見極めも必要無いと言ったが、念のためだと」


「……ん? 監視を決めたのってクラヴィスさんじゃないんですか?」



 てっきりクラヴィスさんが指示を出したのかと思っていたけど、その言い方だと違うっぽいね?

 小首を傾げる私にクラヴィスさんは苦笑い交じりに頷いた。



「移住者の監視に関してはウィル達に一任している。

 全て私が管理しても良かったんだがな。

 『わーかーほりっく』とやらにはならないようにと、君が何度も言っていただろう?」


「クラヴィスさんが……自ら仕事を減らした……!?」



 確かに今まで何度も口酸っぱく言って来ていた。

 でも、何度言ってもクラヴィスさんは仕事をしまくるから、試食を持って突撃した時のように無理矢理休憩時間を設けるよう仕向けていたぐらいだ。

 そうでもしないとこの人は休憩しないんだって思ってたのに、まさか知らない所で仕事を減らしてくれていたなんて……!


 驚きのあまり手から資料が滑り落ちていくが、アースさんがぺしんと尻尾で押さえる。

 あぶねあぶね。おかげで散らばらずに済みました。あざますあざます。

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