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甘いのとしょっぱいので無限大



「来ったよー」


「お待ちしておりましたぁあ!」



 ルーエ達と一緒に厨房へとやってくれば、ディックを始めとする料理人達が勢揃いで出迎えてくれる。

 いやー元気そうで何よりだけど、ちょっと声抑えようねー?

 角度的にそっちからは見えないんだろうけど、近くに居た新人の使用人さんが声の大きさにびっくりしてるからねー?


 とりあえず軽くフォローとして苦笑い交じりにゆるゆると手を振れば、新人さんはコクコクと頷き足早に去っていく。

 正直私としてもこの出迎え方は恥ずかしいから止めて欲しいけど、聞きそうにないからなぁ。

 まぁ、この城で務めるならあの新人さんもその内慣れていくだろう。なんせこの城、爆発が日常的に起こる城なんで。

 言っててどういう城なんだって思っちゃうねこの城。とても賑やかな職場デス。



「頼んでた材料は揃えてくれたー?」


「はい! こちらです! ご確認ください!」


「んー……大丈夫そうだねー」



 ウキウキを隠せない料理人さん達を横目に、用意してもらった材料の確認を済ませる。

 何故料理人の皆がテンション高めなのかというと、今日は新しいお菓子を作るからである。

 毎度の事だけど、新しい料理ってなると皆怖いぐらいテンションが上がるんだよなー。



「今日はどんなお菓子を作るんですか!?」


「この間作ったチョコレートも使いますか!?」


「はい落ち着いてー、深呼吸してくださーい」



 好奇心が抑えられないらしく、詰め寄る勢いでやって来る料理人さんにどうにか落ち着くよう声を掛けるが、あまり意味は無いらしい。

 ぐいぐい来る料理人さん達にどうしたもんかと困っていたら、ルーエとアンナが間に入ってくれた。助かるぅ。

 その隙にフレンから受け取ったエプロンを身に着け、準備は完了だ。


 本当は公爵令嬢がエプロンを着るとか厨房に入り浸るとか、言語道断だけどねー。

 ここにいるのは完全に身内だけだし、見慣れた光景なので最早誰も何も言わないのである。

 ルーエもこれに関しては諦めてくれてます。どっちかというと新しいお菓子開発という名目があるからって感じだろうけど。



 さーてどこから手を付けようかなー。

 今日は二品するつもりだけど、甘い系から行くかしょっぱい系から行くか。うーむ悩ましい。


 材料片手にそんな風に悩んでいたら、いつの間にかディックが隣に来ていた。びっくりした。

 おっかしいなぁ、ルーエとアンナっていう最強の壁があったはずなんだけどなぁ。

 いつもの事ながら、料理関係になると常人離れした動きするね、この人。



「それで今日は何を作るんですかい?」


「今日はね、ドーナツとポテトチップスっていうのをやろうと思ってるの」


「ほうほう、ドーナツとポテトチップスですか……ちっとも聞いたことねぇっすね」


「遠い異国のお菓子らしいよー。じゃあまずはドーナツからやろっか」



 どこの料理なのかは適当に誤魔化しつつ、いつものように指示を出し準備を進める。

 ポテチはすぐにできるからねー。どうせ追加のドーナツを大量に作るだろうし、その間に同時進行でポテチもやっちゃおう。



 エディシア油が広まり、以前は高級品だった油も最近では誰でも手に入れられるようになってきている。

 それに伴い、フライやてんぷらなど揚げ物料理も広まりつつあるが、油は高い物というイメージが強いのか、ちょっと敬遠されがちなのよねー。

 なのでここらで皆大好きな甘いお菓子で心を掴もうという魂胆です。甘いのが苦手な人向けにしょっぱい系もやるので抜かり無しだぜ。



 本音を言えば揚げ煎餅や揚げ餅など、お米を使ったお菓子を作りたかった。

 お米自体は随分前から見つけていたけれど、栽培方法が特殊だし土も向いていないしで中々難しくってさぁ。

 苦節数年、ようやくノゲイラの土地でも育つ品種が開発できて、栽培できるようになったばかりなんだよね。


 アムイが主食なこの国で新たな主食を広めるには、それなりに需要が必要になってくる。

 だから需要を増やせそうなチャンスはできるだけ逃したくないんだけど、今回の目的は揚げ料理を広める事だ。

 まずはとっつきやすさを重視してお手軽な所から広めた方が良いだろう。

 揚げ煎餅にしろ揚げ餅にしろ、ちょいと手間がかかっちゃうからなー。仕方あるまい。



 とはいえ、味噌や醤油の開発に和食にと、着々と米食は根付き始めている。

 最近じゃノゲイラの食堂でもご飯の提供が始まったしぃ? 米食を根付かせるという私の野望は達成間近よ。オホホホホ。



「じゃあまずは生地作りからしていこっかー」


「へい! お任せください!」



 もちもちのやつとか作りたい気持ちもあるけど、まずはシンプルなやつから行くとして、と。

 やる気に満ち溢れているディックに任せ、記憶にあるレシピを引っ張り出し、あれやこれやと指示を出していく。

 エプロンしたのはあくまでもドレスを汚さないためなんで。私の仕事は基本指示出しです。


 今まで散々私に付き合い新たな料理を作っただけあって、どんな料理かもわからないのにてきぱきと調理を進めていくディック。

 生地を寝かせる行程も魔法で短縮できるから楽なもんだよねぇ。クラヴィスさんの魔法陣が万能過ぎるんだ。

 本当ならもっと時間が掛かっていただろうに、あっという間に私の良く知る輪っかの形が出来上がっていた。はえー。



「あとはカリッとするまで揚げてー、砂糖をまぶしてー、出来上がりぃー」


「これが、ドーナツ……!」



 ディックが揚げたてのドーナツをまるで宝物のようにトングで掴み上げ、皆が小さく歓声を上げる。

 見てるだけでそんなに喜んでたら、食べた時どうなるんだろうね。カロリーの暴力で心停止しちゃわないかな。


 まぁいつもの事だし、と後の事は気にせずに、試食用にと小さく切ってもらったドーナツの一欠片を用意されていたフォークで突く。

 揚げたてであっちっちだから火傷に気を付けて……頂きまーす。



「んー、んまー!」



 カリカリとして甘い生地に砂糖の甘さが合わさって、口の中が天国です。

 これぞドーナツ……カロリーの暴力……! 懐かしいなぁ、懐かしい、なぁ。



「ワシもワシも!」


「はいはい、どーぞ」


「俺も一つ失礼して……!」


「わ、私も!」


「俺も!」



 それまで黙って見ていたアースさんが口を開けて強請るので、適当にぽいっと放り込む。

 更にディックが一つ食べたのをきっかけに、料理人さん達が一斉に群がり出した。

 美味しかったかどうかは彼等の表情を見れば十分わかる。こっちの人にもウケて良かったー。



「これは、良いですね。一つそのままでも手軽に食べられそうです」


「アレンジもしやすそうだよねー、ホイップクリームを挟んだり、チョコレートをかけてコーティングしたりとかさー。

 生地に味を付けたりしても美味しそうだよねー」


「なるほど……可能性は無限大……! 失礼します!」



 アイディアの提供を装って私の知っているドーナツを伝えてみれば、早速やってみるつもりらしい。

 次々と生地を揚げ始めるディックや味付きの生地を作ろうとする料理人さんを他所に、残っている試食のドーナツをまた一つつまむ。

 この様子ならドーナツに関しては後は任せちゃって良いでしょう。全部私が考えるわけにはいかないからねー。


 しばらくはあっちに掛かり切りだろうから、私は次の準備でも……と用意しようとしたのだが、その前にディックが隣で待機していた。

 ねぇ今の今までドーナツ揚げてたよねぇ? 火元から離れるんじゃないよ! って別の人が付いてたや。なら良いか。




 ポテトチップスはドーナツよりも簡単だから、説明してしまえば後はお任せで行けるだろう。

 注意する事といえば揚げ過ぎない事かなぁ。その辺りの判断は本職の方ができるでしょ。


 現在進行形でドーナツを作っているからと、別の鍋で油を熱している間にスライスしたじゃがいもの水切りを済ませておく。

 そしたらー、スライスしたじゃがいもが色付くぐらいに揚げてもらってー、余分な油を切ってー、と。

 袋に塩と一緒に入れて、軽く振り回せば完成である。お手軽だねぇ。



「味付けは塩だけで良いんですかぃ?」


「うん、そういうお菓子だからねー。おつまみとして食べる人もいるって聞いたよー」



 あまりにシンプルだから本当にお菓子なのかと疑問を抱いたらしい。

 まぁ、芋をスライスして揚げて塩振りかけただけだもんなぁ。そう思うのも仕方ないか。


 袋から皿へと出されたポテトチップスをつんつんと突く。

 うん、これぐらいの熱さなら行けるだろう。ちょっとぐらいなら火傷も勲章だぃ。

 そう意気込み、まだホカホカなポテトチップスを一つつまみ、噛り付いた。



「どうでしょう?」


「……うん、美味しいねぇ」



 懐かしい味に思わず涙が出そうになるけれど、それだけ美味しかったと思ってくれたようだ。

 我も我もと味見し始めるディック達を横目にもう一枚手に取った。うん、やっぱり美味しいなぁ。

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