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物は試しというけれど

 ──良く晴れたある日の中庭。

 大樹が作る陰の下、クラヴィスさん達に見守られて私は力を振り絞っていた。



「ふん、ぬぅー……!」


「む? ちと動いたぞ」


「こう、かぁ!?」


「……止まったのぉ」


「なんでぇ!?」



 頭の上にいたアースさんの残念そうな声に思わず悲鳴じみた叫びが出る。

 中庭全体に響いたせいで、通りすがりの人達が何事かと足を止めてこちらを気にしていたが、ここ数日同じ事が起きているからだろう。

 少し私達の様子を見た後、いつも通り仕事へと戻って行く。


 うん、それで良いよ。手伝うとかそういう話じゃないからさ。皆は気にせず仕事をしてくれてて良いのよ。

 だから私が深い溜息を吐いてても、文句言ってても気にせず放置しててください。

 同じようにしたつもりなのに……! なんで止まっちゃうんだぁ……!?



「魔力はちゃんと感じれているようなのにのぉ……何故操れんのかのぉ」



 不思議そうに呟きながら頭にのしかかるアースさん。

 この様子だと今回も原因が何かわからなかったんだろう。

 やっぱり無理なのかぁと、諦めと共に力が抜けて、私は服が汚れるのも気にせずその場に座り込んだ。



 事の発端は『もしかしたら魔法を使えるかもしれない』というアースさんの思いつきだった。

 アースさん曰く、私の魔力は消え去ったけれど、膨大な魔力に耐えられる器が残っているそうだ。

 そのため誰かから魔力を補充してもらえば、私も魔法が使えるかもしれない、というわけです。


 事実、あの時私はクラヴィスさんに魔力を注いでもらいながらではあるものの、確かに魔法を使えていた。

 だからできるかも? と淡い期待を抱いたのは良いのだが……どうやら私には魔力を操る才能が無いらしい。

 何回やっても魔力を操れず、どれだけ沢山魔力をもらっていても何も起こせませんでした。ずっと虚無だよ。



 一応ちょっとは動かせているらしいので、もらった魔力だと操れないとかじゃないみたいだけどねぇ……。

 それなら相性の問題かと、クラヴィスさんだけでなく色んな人に魔力を分けてもらって試したけど、うんともすんともいいません。悲しみ。



「こうまで来ると体質かもしんねぇな。

 クラヴィスが魔力を操ってんなら問題無く魔法を使えてんだろ?」


「ですです……魔力を操るのって体質でできないもんなんですかぁ?」


「いんや? んな体質一度も聞いた事ねぇよ」


「ひん」



 面白そうだからと一緒に見ていてくれたシルバーさんがすっぱり言い切る。

 不思議な事に、クラヴィスさんと手を繋いだりして魔力を繋げ、操ってもらえば私も魔法を使えるようだ。

 それも他の人じゃどうやってもできなかったから、きっとクラヴィスさんだけの特別なんだろう。

 これは恐らく異世界云々が関わってると睨んでおります。えぇ、才能の有無じゃないもん。異世界出身だからだもん。絶対そう。



 それにしても、クラヴィスさんやシルバーさん、アースさんでもわからないとなると、これはもうどうしようもないよなぁ。

 別に魔法を使えなくても周りの皆が助けてくれるから良いんですけどねぇ? 不便に感じた事も無いですしぃ? 憧れてた分、ちょーっと残念だなーってだけですしぃー?


 そんな風に内心不貞腐れているのが伝わってしまったんだろう。

 アースさんがしょげた様子で私の頬に顔を寄せて来た。



「すまんのぉ……使えると思ったんじゃが……」


「ん、だいじょーぶだいじょーぶ。気にしなくて良いよー」



 言い出しっぺだから気にしちゃってるらしい。

 しょぼくれているアースさんにいつものようにへらりと笑いかけ、わしゃわしゃと両手で頭を撫で回す。


 指輪とかクラヴィスさんに手伝ってもらってとか、条件はあるものの全く魔法が使えないってわけじゃないからね。

 どうしても自分で使いたいってなったらクラヴィスさんにおねだりしますとも。そんな状況滅多になさそうだけど。



 付き合ってくれた皆には申し訳ないけど、何の成果も得られず解散って感じかなぁ。

 とりあえず付き合ってくれたお礼でも言おうかと周りを見ると、ディーアがクラヴィスさんへと近付き、こちらを見ながら何かを話している。

 なんか二人して難しい顔をしているけど……え? 私なんかやらかした? それともアースさんか?


 アースさんもクラヴィスさん達の様子に気付いたようで、二人して顔を見合わせる。

 何かした? 何もしてないよね? むしろ何もできてないもんね?

 お互い心当たりは無いようで、二人揃って首を傾げていると、話がまとまったらしいクラヴィスさんが私達の方に近付いて来た。



「……トウカ」


「はぁい?」


「一度、ポーションを作ってみないか」


「はい?」



 クラヴィスさん達の中で一体どういう考えに至ったんだろうか。

 とても言い難そうにされた提案に思わずぽかんとしてしまう。

 ポーションの調合って魔力を操らないとできないはずなんですけど。なんで?


 不思議に思ったのは私だけではなく、ルーエ達も驚いた様子を見せている。

 そ、そうだよね? これが普通の反応だよね? もしや疲れでも溜まって正常な判断が出来なくなってたりしない?



「あのー……魔力が操れないわけですし、ポーションなんて作れないと思うんですけど……」


「いや、試してみる価値はあるぞ」



 とりあえずやんわり無理だろと言ってみたが、どうやらそうでもないのか。

 シルバーさんが顎に手を当てながらそう告げた。



「ポーションの調合に魔力が必要なのは、異なる素材を混ぜ合わせる繋ぎとしてだ。

 素材が多かったり素材の相性が良くねぇほど魔力を細かく操らねぇといけねぇが、簡単なポーションだと素材も少なく相性も良いからな。

 しかも嬢ちゃんの場合、魔力を操れなくて体に留められず、じわじわと魔力が溢れ出ちまってる。

 そんだけ溢れ出してりゃあ調合してる間に勝手に馴染んでるだろ」


「は、はぁ……?」



 早口で語られるシルバーさんの話をどうにか呑み込む。

 んーなんか、ちょっとチクチク刺されてた気がするんだけど気のせいカナー?

 魔力が操れないのは事実だし、溢れ出てちゃってるのも事実だろうから何も言えないが、良い気はしないです。もうちょっと言葉を選んでくださいよ。


 しかし魔法に詳しいクラヴィスさんと調合師でもあるシルバーさん。

 それにノゲイラで一番の調合師と謳われるディーアが言うんだから、マジでワンチャンある、のかな?

 あんまり期待できないけれどそれなら作ってみようかと、研究室へ移動するため立ち上がろうとするが、その前にディーアが私の前へと出て来る。

 もしや運ばれるのか、と思いきや、素早く目の前に広げられた道具に顔が引き攣った。



「携帯用の調合道具、持って来てたの……?」


『回復のポーションでしたらこの庭にある素材でできますよ』


「えー……ここで作るのー……?」



 初めてなんだから簡易的な携帯用の物ではなく、ちゃんとした調合道具の方が良いような気もするが、ディーアは引くつもりが無いらしい。

 私が乗り気じゃないのにもお構いなしに、大樹の葉や庭に植えられていた薬草などを採取しに行ってしまう。

 なんかディーアさぁ、やけに食いつきが凄くなぁい? こんな押せ押せなディーア今まで見た事ないよ。

 ディーアは私が調合できると思っているんだろうか。まぁ、期待に応えられる気はしないけど、頑張るかぁ。




 ──と、期待せずに調合をしてみたのだが。

 何故か回復のポーションが出来てました。しかも効果が高いらしい。なんでぇ?



「嬢ちゃん」


「はい!」



 ディーアが試飲までして確認し、シルバーさんも念入りに確かめていたから間違いないんだろう。

 まさかの事態にきょどってしまう私と、見守っていた大人達が顔を見合わせ黙り込む中、シルバーさんにひっくい声で呼びかけられ背筋が伸びる。

 次の瞬間、脇の下に手が差し込まれ体が宙に浮かび上がった。あーこれは、はい。この後の展開はお察しというかなんというか。



「とりあえず、他のポーションも作ろうか……!」


「ハーイ」



 持ち上げられ、自然と目線が合って見えたのは、サングラス越しでもわかるほどギンギラギンに輝く銀の瞳だった。

 うん、これは逃げられないやつだ。研究者ってそういうとこあるよね。人間、諦めが肝心。

 全てを悟った私が頷くや否や、シルバーさんは私を担ぎ上げ、そのまま研究室の方へと走り出した。せめて優しく運んでくださーい。




 そうして研究室にてシルバーさん監修の元、とにかくポーションを作りまくる事しばらく。

 どうやら私は特異体質のようで、私が作るポーションは通常よりも効果が高くなってしまうようだ。

 シルバーさんにディーアにアースさんにルーエにシドにアンナに三馬鹿にと、とにかくその場に居合わせたり近くを通った人に手当たり次第協力してもらい試した所、誰の魔力で作っても効果が高いポーションが出来上がった。


 特にクラヴィスさんとアースさんの魔力だと異様なほど効果が高いんだって。

 正確な比較はできていないが、恐らく二倍か三倍はあるとかなんとか。作り方は全部一緒なのにネー。不思議ダネー。



「嬢ちゃん、調合師になろうぜ!」


「遠慮しときまーす」



 可能性を見出しちゃったのか、シルバーさんに両肩を掴まれがっつりと勧誘されるが、どうにか逃れようと視線を逸らす。

 だってさ、流石にこれ以上仕事を増やすのはヤバいんだもん。

 減らさないとって思ったばっかりなのもあるけど、そもそも携わってる物が多すぎてですね。今ノゲイラでしてる研究の大半に関わってましてね。

 そりゃあほとんどきっかけを作るだけ作って後は人任せって感じだけども、私主体で進めてる案件とかも結構ありまして……ポーション関連はディーア達に任せまーす。



「シルバー」


「ちっ……しゃあねぇか」



 一応私が抱えてる仕事がどれだけあるかは軽く聞いているからか、後ろでクラヴィスさんが睨みを利かせてくれたからか。

 渋々引き下がってくれたが、熱い視線は変わらず向けられたままだ。

 うーんこれは折を見てまた勧誘してくるやつですね。シルバーさんそういうとこある。


 困ったなぁと思っていると、ディーアが何やらシルバーさんに近付き紙の束を持たせていた。

 あ、あれ最近仕入れた薬草の研究資料じゃん。あー興味があっちに行った。

 そうだね、シルバーさんにはそっちの方が利くね。見た感じが裏取引みたいで一瞬お金かと思っちゃった。



 これでしばらくシルバーさんの勧誘は止まるだろうが、その内また来る事になるだろう。

 その時は私もディーアみたいになんか仕事でも何でも押し付けて誤魔化そーっと。

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