表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/192

祭りといえば屋台なんだもの



「領主様! お嬢様! ようこそお越しくださいました!」



 貰ったり買ったりして食べ歩き兼視察をしながらとある商会へと向かえば、待っていたらしいここの責任者である顔見知りの商人さんが出迎えてくれた。

 ここの商会は今年の春にノゲイラに進出してきたばかりの商会で、今度の虹結びの祭りがノゲイラで最初の大きなイベントとなる。

 他の商会や町の人達とも話したり手伝ってもらったりして準備を進めてるそうだが、初めて祭りに参加するので色々と問題に直面しているらしい。

 その相談をしたいのもあるけれど、できれば祭りで商会独自の商品を用いたいそうなので、視察ついでに私達が直接赴いた、というわけだ。


 本当なら城でお話なんだろうけど、商会の様子や雰囲気を実際に見てみるのも重要だからねー。

 事前に聞いていた通り、南方の国との取引が多いからか、この辺りじゃ見ないテイストの家具で揃えられていて面白いです。良いねーこういうのも売れそうだねー。

 


 商人さんに案内されて応接間へと入ると、クラヴィスさんはさっさと本題に入りたいらしい。

 座ってすぐ、クラヴィスさんが商人さんへ声を掛けた。

 んー……こことはまだそこまで関係値が無いからなぁ。とりあえずお嬢様らしくしとくか。



「それで、祭りで使いたいという商品はどういった物なんだ」


「こちらです」



 本当なら挨拶やら媚やら売ったりとするところだが、あちらもそうなると予想していたんだろう。

 戸惑いもせず、商人さんは木箱を一つ私達の前に置く。

 もったいぶるようにゆっくりと開かれた木箱には、柔らかな布に包まれた薄黄色の丸い物が入っていた。



「タムの実か」


「あまり聞かないのですけれど……果物ですか?」


「あぁ、最近交易をし始めた南方の国でよく食べられている果実だ。

 気候の変化に弱く、現状その国でしか栽培が成功していないと聞いている」


「ノゲイラの技術によって保管がしやすくなりまして、最近安定した流通が可能になった所です。

 是非一口味見をしてみてください。完熟した物は蕩けるように甘いですよ」



 事前に準備までしていたようだ。

 商人が合図を出し、従業員の一人が私達の前へ皿を持って来る。

 黄緑色の果実が一口サイズに切られていて、ご丁寧に銀のフォークが二つ添えられている。


 こんな堂々と毒を盛るような人は居ないと思うけどねぇ。

 いつものように首元にいるアースさんをちらっと見れば、小さく頷かれる。

 アースさんが大丈夫っていうなら大丈夫でしょう。



「では、頂きますね」



 やっぱり売り出そうとしている新商品だからか、すっごい見られて食べにくいけどそれは諦めるとして。

 ご令嬢らしいふるまいを忘れないよう気を付けながら、一欠片食べてみる。

 ん-味はマンゴーに近いかな? これならかき氷とかクレープとか、色々と合わせられそうだ。



 ──綿あめ、水あめ、リンゴ飴。焼きそば、串焼き、フランクフルト。くじに輪投げに射的まで。

 元々この世界でも屋台という文化はあったから、親和性は高かったんだろう。

 ノゲイラの祭りはほぼ日本の祭りと一緒だ。とにもかくにも日本の祭りで並ぶ屋台が勢ぞろいしております。

 これで浴衣と花火を広めたら完全に日本の祭りだネ。やらないけど。


 いやぁ……祭りといえば屋台ってイメージが強くってさぁ……。

 ノゲイラ独自の祭りってのもあり、特色を付けなきゃと、そっち方面でいっぱい手を出しちゃいまして。えぇ。

 今じゃ屋台のほとんどが私の発案な日本の屋台です。ちょっとやり過ぎた気はしてる。



 ちなみにたこ焼きならぬノゲイラ焼きなんて物もある。

 だってシェンゼは海に面していないからタコがあんまり手に入んないし、クラヴィスさん達にタコの絵を描いて見せたら「それを食べるのか」って感じで受け入れにくそうだったしで、結局中身はお任せしますって感じで広まっちゃってさぁ。

 貝だったり肉だったりジャガイモだったりとそれはもう、店によってそれぞれな感じで沢山のバリエーションがあるよ。

 種類があり過ぎるからか、気付いたら『ノゲイラ焼き』って名前になっちゃったんだよねぇ……呼び方で争いが起きないならそれで良いんですぅ。



 元々ある屋台とか、魔法を用いた大道芸とか、この世界独自の物もいっぱいあるんだけどね。

 年々日本の色が強まって来ている気がして、良いのかなぁと思う事は良くあります。

 なんならお化け屋敷なんかもあるよ。お化けっていうか魔物の仮装で驚かすって感じだけど。


 最近和食も広めてるからなぁ……徐々にノゲイラ日本化計画が進行して行ってしまっている気がする。

 主に私のせいだけど。そんなつもり一切なかったんです。ただ馴染みがあるものだから、つい力が入っちゃってぇ……!



「タムの実は王都の方でも好評でして、今後ノゲイラにも卸していきたいと考えております。

 そのお試しに、という形で祭りの屋台で扱いたいのですが……どうでしょうか?」



 商人がこちらの様子を窺いながら聞いて来るのにはっと意識を戻す。

 いけねぇいけねぇ、今はお話の途中だったや。


 内心ちょっと慌てながらクラヴィスさんを見上げれば、向こうもこちらの判断待ちだったらしい。

 特に文句はないですよーと頷いてみせれば、クラヴィスさんも頷き、商人へと向き直った。



「タムの実に関して許可は出すが、初めて食べる者がほとんどだ。

 事前にアレルギーに関する注意と少量の試食を提供できるようにする事。

 それからすぐに医師を呼べるよう、屋台の場所は臨時医療所の近くに設けてもらうが、構わないか」


「えぇっと……アレルギーというと、最近ノゲイラの医師が発表された病でしたか」



 やっぱり情報が武器な商人でもまだそんな認識かぁ。

 戸惑いを見せる商人さんに、感じてしまった落胆を表に出さないよう笑みを張り付ける。

 ノゲイラが発展し、色んな人が色んな物を食べられるようになったのは良い事だけど、真っ先に問題に上がったのがアレルギー疾患だ。

 まぁ、問題に上がった、というより私が問題に上げたっていうのが正しいが。


 この世界の人達も、人によって食べると体調不良になる物があるというのは理解しているが、その要因が何かはわかっておらず、そういうものだとしか考えられていなかった。

 しかし医学が発展し、その過程で最近ようやくアレルギー疾患の提唱までこぎ着けた所なのである。めっちゃ頑張った。

 とはいえ、まだまだ研究は進んでおらず、提唱といっても「人によって食べられない物がある」程度だ。

 地道に症例を集めたり、アレルギーに関する研究を進めたりと色々頑張ってはいるけど、皆が理解してくれるのはまだ先の話だろうなぁ。



 クラヴィスさんはアレルギー持ちらしき人を知っていて一時期研究していたとかですぐに理解してくれて、私の知識を元にアレルギーの症状を緩和できる魔法の開発に取り掛かってくれている。

 そっちの方が先に形になりそうだから、またシルバーさんに頑張ってもらう事になるだろう。

 魔法だと使える人が限られるから、できれば薬を普及したいんだけど、開発して製造ライン整えてってなるとすっごい時間が掛かるからなぁ。

 いつになるかは全くの未定の物より、先にできる物をちゃっちゃと形にしないとね。



「アレルギー疾患についての知識はどれほどある?」


「申し訳ありませんが、ほとんど無いと言っても差し支えないかと。

 そういった発表があったというのは聞いていたのですが……そのご様子だと、少し体調を崩すぐらいでは無いようですね」


「最悪の場合、命に関わる症状が出るとされている。

 そちらとしてもそのような騒ぎを起こしたくないだろう」


「なんと、それほどでしたか……!」



 娯楽が増え、一般の人達も楽しめる余裕が出て来たのは良い事だが、賑やかになればなるほど騒ぎも起こりやすくなってしまう。

 屋台は夜の七時までとか、ゴミ捨て場の設置やら迷子センターやらと、色々と対策は講じているけれど、毎年数件は揉め事が起きているのが現状だ。

 下手したら観光に来てる貴族が関わってくるから、皆なるべく問題は起こさないようにしてくれてるけどさ。

 人間、テンションが高いと正常な判断ができなくなっちゃうんだよねぇ。お酒とか入っちゃうと特にさぁ。


 アレルギーについては最近ようやく発表できたばかりだから、タムの実を食べた人が倒れたって聞いて、すぐにアレルギーがどうとか考えれる人はほとんどいないはず。

 となると毒を盛ったんだとか、傷んだものを売っていたんだとか、この商会を責める形で大事になる可能性の方が高い。

 例えその場をどうにか治められても、そんな騒ぎがあった商会の商品を好き好んで買う人はあまりいないだろう。



 アレルギー疾患なんて本人でも食べてみないとわからないのがほとんどだ。

 だったら騒ぎが起きないよう、できる限りの対策をしておかなければならない。

 うちとしても新しい商売が潰れちゃうのは本意じゃないからねー。マンゴーっぽい果物とか、絶対売れるもん。



「勉強不足で申し訳ありません。

 タムの実の提供を始める前に、一度専門の方にも相談させて頂いてもよろしいでしょうか」


「あぁ、こちらで担当の者に連絡しておく。詳細は後日そちらへ送ろう」


「お願い致します」



 病気の説明となると資料も必要になるので、タムの実については一旦これで終わりかなぁ。

 屋台の規模やら人員やら値段設定やら、打ち合わせしなければならない事は他にも山ほどある。

 現にクラヴィスさんと商人さんは次の議題へ移っていて、アースさんにタムの実を食べさせながらその話に耳を傾けた。

 残りは全部アースさんにあげるから、尻尾で背中をぺちぺちしないでください。地味に痛いんだってば。



 その後、話を詰めていく中でこちらでも試作などしてみる事になったため、タムの実を幾つかもらって商会を後にした。

 ちょーっとアースさんが狙ってるっぽくて盗み食いされないか心配だけどね。どうやら随分気に入ったらしい。ディックのとこでいっぱい味見すると良いよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ