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決断は、まだ

 王都襲撃事変と呼ばれるようになったあの日から、あっという間に時は過ぎて三年。

 トウカ・ユーティカ、推定十歳になりました。



 あれからというもの大きな事件なんてのは無く、私はノゲイラでいつものように平穏な日々を過ごしている。

 そりゃあ事件というか出来事というか、そういったのは沢山あったけどネー。

 研究所がそこそこ大きな爆発しちゃってついでだからと城の改修も兼ねて大規模な改築があったとか、薬にもなるからって仕入れた苗木にアースさんが寝ぼけて魔力を注ぎすぎちゃって庭に大樹が聳え立っちゃったとか、まぁ色々と、ね?


 とはいえだ。攫われたり狙われたりといった身の危険を感じるような事は無く、楽しく賑やかに過ごしているというわけである。

 爆発の時は私も同席してたからちょっと危なかったけども。大樹の時も急激な成長に巻き込まれて樹の中に閉じ込められかけたけども。

 爆発に関しては必要な実験だったから仕方ないし、大樹はノゲイラの名物にもなってるから良いんだぃ。

 全部結果オーライってやつです。後でクラヴィスさん達に滅茶苦茶怒られたけどな!




 とまぁそんな感じで、いつものように研究やら開発やらに精を出し、皆でノゲイラの発展に勤しんでいるわけだけど、三年前とは変わった事も色々とある。


 まず真っ先に挙げるとすれば、ノゲイラの警備体制だろうか。

 彼女の件が落ち着いて以降、ほとんどの結界が解除されている。

 例えばクラヴィスさんとアースさんが魔流を利用してノゲイラ全域張っていた結界なんてのは、彼女の魔力を元に作り上げていたので、彼女が居なくなった今はもう必要無い物だ。

 他にも色々と施していた結界の大半が解除されていて、あの頃に比べれば警備が緩くなっているそうだ。


 といっても普通の領地に比べれば滅茶苦茶厳重らしいけどネ。

 城に結界を張る事はあっても領地全体なんて無いのが普通だし、結界を解いた状態でもゲーリグ城は下手すりゃ王城よりも厳重だとかなんとか。

 真偽のほどは定かじゃないけどウィルが言ってたから多分そうなんだろう。

 うちの結界はクラヴィスさんとアースさん監修だからなぁ……多少緩めた所でそう変わらないわなぁ……。



 警備に関連して言えば、今のノゲイラは以前より人の出入りがとても活発になっている。

 国内の政治関係が色々変化あったのもあるし、最近ノゲイラじゃ労働者確保のために移住に関する取り組みを強化してるからね。

 以前は彼女の手下じゃないかとか、王太后の手先じゃないかとか、色々警戒していてほとんど受け入れていなかったけれど、ある程度解決してからは積極的に取り組んでいるわけです。

 勿論、ノゲイラの技術を狙ったスパイなんて事もあるので、今も監査監視に素性調査は徹底されているみたいだけどね。いつもと同じく影のお仕事だそうです。




 ──そんな風に色んな事が色んな形に変わっていく中で、私はまだ決断しきれないでいた。



 あの時、私の魔力は全て消えたけれど、私の時間は取り戻せたそうだ。

 それでも随分使い潰されてしまっていて、二十年近くあった時間はたった七年ほどしか残っていなかったそうだが、アースさん曰く、その時間を使えばその時間分成長できるという。

 今私の体が十歳として、その時間を全て使えば十七歳ぐらいの体に戻れるという事だ。


 十七歳にもなればもうほとんど成長は止まっている。

 そもそも若返るなんて本来あり得ない現象だ。

 だから、多少若い姿で元の世界に戻っても、どうにか誤魔化せるだろう。


 はっきり言ってしまえば私はすぐにでも帰れる。帰れてしまう。

 そうわかっているのに、自分で考えるよう言われて三年も経つのに、私はまだ、その決断ができていない。



 最初は帰るんだって思ってたのに、もう帰れるのに、どうして決断しきれないのやら。

 長引かせれば長引かせるほど、もっと別れが惜しくなってしまうって頭ではわかってるんだけどなぁ。

 正直、やりたい事とかやり残した事が沢山あり過ぎるのも問題かなとは思ってる。


 だってまだまだ再現できてない技術とかがあるんだもの……!

 人手が増えたし開発費も潤沢だしで、やっておきたい事が山のようにできていくんだもの……!



 勿論、今は実現が難しくて後回しにしている物も山ほどある。

 しかしそれはそれで資料にまとめておいて託したりもできるので、全く手を付けられないわけではないのである。

 やれる事があるって思うとつい手が伸びちゃうんだよねぇ。これぞ社畜の性ってやつ。




 時間を戻すタイミングも、元の世界へ帰るタイミングも、何もかも私に任されている。

 クラヴィスさんもアースさんも、どうするのかなんて一切聞かない。

 何も言わず、私がしたい事を助けてくれている。


 その優しさに甘えて目を逸らし続けているけれど、いい加減決めなければならないだろう。

 私の答えを待ってくれているクラヴィスさん達のためにも、何も知らずに未来を信じてくれている皆のためにも、そして何より、私自身のためにも。




 丁度数ヵ月後には虹結びの祭りがある。

 それが終わったら少し余裕もできるだろうし、無理矢理にでも考える時間を作ろうかなぁ。


 結局仕事を優先して長引かせているようなものだが、虹結びの祭りはノゲイラにとって重要な祝い事の一つになっている。

 領主の娘としては、皆が楽しみにしてる日を蔑ろにするのは良くないからね。

 そうと決めれば、できる限り邪念になりそうな事は片付けられるよう頑張っておくかぁ。

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