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12/22

012 時間が止まればいいのに。

弥島心やじま しん視点>


 よくよく考えれば、フラれた身の僕が、こうして前原陽菜まえはら ひなさんに大接近。金松堂の喫茶室で巨大カフェと格闘している。こんなことって有りなんだろうか。


 図書館の学習室では本当に勉強に集中していたので、長い間、陽菜さんと一緒に過ごした割には、彼女のことを知るチャンスはなかった。


 陽菜さん、四月生まれ。僕よりお姉さんだったんだ。ちょっとショック。僕は七月生まれ。この差は一生、縮まない。


 陽菜さん、スマホを持ってたんだ。電話番号を知りたい。メルアドを知りたい。SNSに招待して欲しい。けど、僕はスマホを持っていない。何故なら、必要なかったから。


 てか、鳴らないスマホを持つのが怖かった。電話帳は家族だけ。親しい友達ゼロ。もちろん女の子のアドレス何て期待もしていない。ぼっちな自分の現状を認識するだけの道具なんて嫌だ。


 でも、今、スマホがチョー欲しい。陽菜さんとSNSでつながりたい。僕に新しい目標ができた。スマホを手に入れて陽菜さんとお近づきになるのだ。写真もいっぱい残したい。


 陽菜さん、イチゴ好きなんだ。スマホケースもかわいいイチゴ。待ち受け画面も。何時もすました美少女風だから、甘々のデコキャラはちよっと意外だ。


 だけど、陽菜さんのスマホってだれのスマホとつながっているのだろう?僕の知らない友達がいっぱいいるのかな・・・。男の子とかも。気になる。美少女偏差値72、前原陽菜、だもんな。みんな彼女のアドレスを狙っているんだろうなー。


 陽菜さん、陽菜さん、陽菜さん!やばい。頭の中が陽菜さんでいっぱいだ。いちごパフェを大口で食べる陽菜さん。かわいすぎ。無防備すぎ。天使すぎ。


「どうしたの。チョコパ、溶けるよ」


「うん。チョコパの前に、陽菜さん見てたら僕の頭の中が溶けた」


 うおっ!何、言ってんだ僕。ポンコツ状態の時に不意を突かれたので、頭の中の想いが口をついて出た。


「そんなこと言ってくれるのは心くんだけだよ。勉強も一緒にしてくれるし。私の事、本当に大切にしてくれる。なのに何で私、心くんじゃなくて遠藤和樹えんどう かずきくんが好きなんだろう。時々自分が嫌になる」


「陽菜さん。僕のことで悩まないで。和樹はカッコイイ。イケメンで勉強もスポーツも天才的。その上、認めたくないけど性格も最高。好きにならない女の子なんていないから」


 なんで僕、和樹のやつのフォローをしているんだろう。でもねー。和樹はイケメン偏差値75のミラクルボーイ。対する僕はイケメン偏差値35で空気感タップリ。存在感ないもんなー。僕なんかといたら陽菜さん、幸せになれない。


「心くんも、結構イケてるけどなー。かわいいし、すっごく真っすぐで、いつも真剣なとことか」


 陽菜さんは知らない。僕がルーズで、優柔不断で、何事も決められない性格である事を!僕が頑張れるのは陽菜さんによるところが大きいと言うか、それが全てなのだ。


「変えっこしない」


 陽菜さんが僕のチョコパフェを指さして言った。


「口付けちゃっているけど・・・」


「私、気にしてないよ。心くんが食べているものが食べたいの」


「うれしいけど・・・。それってクラス一の美少女の唇を奪ったのと同じ意味になったりして・・・」


 僕は戸惑った。こんなことがクラスに知れたら男子はおろか陽菜さんを崇拝する女子にだって殺されかねない。


「うじうじしない!弥島心やじま しん。私のことを好きって言ったんだから。『ハイ喜んで!』って言いなさい」


 えっ。陽菜さん。実は女王様気質もあり?知らなかった。幼なじみの木崎初音きざき はつねみたいだ。


 陽菜さんの神秘のベールがはがれる度に親近感がアップする。すました顔も素敵だけど、悪戯ぽくはにかむ笑顔が眩しい。この笑顔は、今、僕のものだ。僕だけに向けられている。


「ハイ喜んで!」


 僕は遠慮も心配事も捨てて、パフェを交換した。彼女のいちごパフェをスプーンですくって口に放り込んだ。おいしい。さすが金松堂の最高峰。高いだけじゃない。


「めったに食べられるもんじゃないから。溶けない内に早く食べよう」


 僕たちは容器を何度も交換しながら二つのパフェを食べ切った。


「心くん、ほっぺにソースがついているよ」


「えっ」


 陽菜さんの白い指がスッと伸びてきて僕のほっぺたからソースをすくいとる。彼女はにこって笑って、その指を自分の口に含んだ。


 やばい。恋人同士みたいだ。ずっとこのまま、時間が止まればいいのに。

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