第十章 ありがとう
☆こんにちは富士山。今回は反対側から失礼するよ☆
「うわぁぁぁああああああ!」
僕は叫んでいた。発射1.56秒で絶叫していた。
ド・ドドンパだ。
「ッ…………」
「 フォオオオオオ!」
「はわわわわ!」
「わー!」
「こわいのぉぅ〜!」
「いやっほォォォォォいぃぃぃ!」
亀有さん、涼太、真希、希望、七海ちゃん、椿先生は様々な悲鳴を上げる。
僕達は今、山梨県富士吉田市にある富士急ハイランドに来ている。
先日、静岡の熱海に行ったが、今回は反対側から富士山を眺めることになった。
朝からみんなで、特急を乗り継いで遊びに来たのだ。メンバーは熱海のときと同じだ。
ド・ドドンパは8人乗りだから2グループに分けているから、他のメンバーも後で乗るよ。
ってな解説してる暇ないよぉ〜!
とにかくスピードがバケモノで体が重く感じる……ッ!
そしてこんな巨大なループ初めてだよ! めちゃくちゃ長いし、頂上で止まりそうな感覚になるッ! マジで怖スギィ!
怖すぎて声も出ないよ。
「はぁはぁはぁ……。死ぬかと思った……」
足がガクガク震えているぜッ!
真希と希望は目を回しながらフラフラしている。
「目が回りましたぁ」
「わぁ!」
「きゃっ!」
希望が体制を崩して真希の方に倒れ、それによって二人同時に倒れてしまう。僕はとっさに2人を支えるが、さすがに2人分の体重を支えることができず、僕も地面に倒れる。
「だ、大丈夫?」
「あいたたた……」
「ごめん、でも……」
真希と希望は自分の身体に目を向ける。
「でも……?」
ッ! ややややヤバイ!
僕の手がッ! 2人を支えようとした僕の手が、真希と希望のちっぱいを揉む形になっていたのだ。
「ちょっと樹君!」
真希は、いつまで経っても離そうとしない僕の手を引き剥がした。
「ごごめん!」
「触り過ぎ……」
希望は自分の胸に触ってそう言った。
顔を赤くしてそんなこと言うなよ。ほっぺたを膨らませてそんなこと言うなよ。可愛すぎだろッ!
「もう! 樹君はえっちぃです!」
「こんなちっちゃいおっぱいの何がいいの?」
「よーし! 次はあれよ!」
そんな僕達を他所に顧問であるはずの椿先生は斜め45度上を指さした。1番エンジョイしているのは椿先生かもしれないね。
高飛車。それは最大落下角度が121度のバケモノコースターだ。その角度は世界一で、前方が見えないからヤバイんだそうだ。
っのを知ってたから少し身構えてたけど、めちゃくちゃエグかった。本当に死ぬかと思った。いや、てかもう死んでるんじゃないかな?
結局、3回目を起にジェットコースター系には椿先生しか乗らなくなった。
ちょっと吐きそうなんだけど。それに僕は高所恐怖症だから辛かった……。
椿先生はこの後ええじゃないかに乗車していたを
ロリ達(真希、希望、七海ちゃん、くるみ会長)がメリーゴーラウンドやティーカップを楽しんでいる。
「あははー」
「ふふふ」
「楽しいの〜!」
「わーい!」
みんな可愛い。
一周してこっちに来る度に手を振ってくる。エンジョイしてるねー。
「おえぇぇぇえええええ!」
ゲロってるババァがいると思ったら駄顧問・椿だった。
「ぎもぢわるいぃ……。乗りすぎたぁ……」
「大丈夫ですか、お客さん!」
係員さんに心配されているし……。まったく、とんだ顧問だ。
関係者だって思われるたら嫌だから離れていよう。
戦慄迷宮。それは歩行距離が世界一長いお化け屋敷である。ちなみに椿先生も連れてきた。
1グループ最大6人までなので、僕、真希、希望、ゲイーズ青戸、椿先生のグループと、亀有さん、涼太、ガチロリコン板橋、七海ちゃん、くるみ会長、爺さん目白のグループに分かれて行くことになった。
昭和中期ごろ、この地にあった総合病院。とある医師は総合病院の院長になる。
地元でも評判の病院だったが、ある時患者の失踪事件が起きた。
原因が全くわからず事件は未解決のまま収束したかに見えたが、しばらくして入院患者の失踪事件が再発。
その後患者だけでなく、医師・看護師も失踪する事件が多発。
不審に思った研修医が病院内を調査し、病院の建築図面には載っていない地下空間の存在に気づいた。
そこは、院長が失踪者を使って人体実験を繰り返した空間だった。 研修医は院長を問い詰め脅迫。
追い詰められた院長は、患者・医師・看護師を次々と殺戮し最後は病院内で焼身自殺を図る。
警察が捜査に訪れるが惨劇の跡は残りつつも生存者どころか死体さえも一切見つからず、未解決で迷宮入りとなる。
絶凶病院自体は証拠物件として惨劇直後そのままの状態で残され立ち入り禁止となった。
そのまま数十年が経過し現代。人影を見かけたという噂が……。
というストーリーがあるみたい。
「いい? 絶対にみんなでクリアするわよ!」
椿先生は意気込んで拳を突き上げる。
さて、まずは写真撮影があるみたいなので、長椅子に真希と希望が着席し、僕、椿先生、ゲイーズ青戸はその後ろに立つ。
「みきゃ!」
「わぁ!」
フラッシュが焚かれた瞬間、2人は驚愕の声を発した。
「い、椅子が下がりました!」
「ビビったぁぅぅぅ」
2人はもう早涙目になっている。確かにビビるわな。
「ははははは! 2人ともビビり過ぎ! 面白過ぎなんだけど。キャハハハハ!」
めっちゃ笑っとる椿先生。
「あんた達ションベンチビるんじゃないわよ!」
真希と希望はゲイーズ青戸の言葉に、
「もうリタイアしたいですぅ〜」
「実はわたし怖いの苦手……」
と、それぞれ言って、股をスカートごと抑える。
ありゃあ? まさかチビっちゃったの?? はっずかしー! けどモジモジしている2人超可愛いー。
「ダメよ! まだ始まってもいないんだから! 逃げようとしたら先生がとっ捕まえてやるわよ!」
「ギャーッ! もう帰りたい! ひぃぃぃいいいいい! なんか足掴まれた!」
あー、うるさいうるさい! 黙れ椿! 朽ちろ椿!
1番いきがっていたやつが1番怖がってるじゃねーか!
「あぁんたうるさいわよぉおん! 少しは黙りなさい!」
ゲイーズ青戸は余裕そうな顔をしている。なんか聞いたことあるけど、ゲイの前には霊は現れないらしいよ。それ以前に、こんな強そうな人の前に現れる挑戦的な霊はいないだろうね。
「こぉおら! 何逃げようとしてるのよぉおん!」
リタイアしようとした椿先生の首を掴んでゲイーズ青戸はそう言った。
真希と希望はガクガクブルブルしながらも何とかついてきている。
『ぎゃゃゃあああああ!』
僕達は走って走って逃げて逃げる。
しばらく脇目も振らず疾走していると、目の前に奴らが! って思ったけど、なんだー! 係員さんかよ。脅かしやがって!
僕らはペンライトを渡して、先に進む。
すると、後ろで『ぎゃゃゃあああああ!』という亀有さん達の声が聞こえてくる。
係員さんがいて、一瞬安心したが、すぐにまた怖くなってきた。
僕達は長い廊下に差し掛かった。うぅ怖い。
恐怖でみんなで団子になって歩いていく。
「ちょ! 押さないでください! 引っ張らないでください!」
「足踏まないで!」
「あんたが前に行きなさいぉおん!」
「嫌よ! って青ちゃん力強すぎ!」
みんながゴチャゴチャ言い合っている。
そう、これは僕達の作戦、その名も僕達の世界に入り込もう作戦である。
これにより恐怖を軽減……なーんて、できません!
「うわぁぁぁあああああ! 逃げろぉう!」
「っきゃ! 待ってー!」
僕は後ろに遠ざかっていくその声の主を振り返る。
「みんなぁあ! 置いてかないでー! 先生を置いてかないでー!」
椿先生が死んだ。
『はぁはぁはぁ』
必死で全てのお化けから逃げることができた。マジ死ぬかと思った。
「まだ来るわよぉおん!」
逃げ切ったかと思ったらまだ追いかけてきている。しつこいヤツめ!
「先生よ! 椿先生よ!」
「椿先生は……椿先生はもう殺されたのよぉぉぉおおおおお!」
ゲイーズ青戸は流れる涙を拭って叫んだ
「お化けに連れ去られちゃったんだ!」
「そのおかげで静かになりました!」
「だから先生には感謝してもしきれません!」
続いて僕、真希、希望もそう言って椿先生の死を悲しむ(?)。
ああ椿先生。うるさいしウザかったけどオカ研の駄顧問として今まで本当にありがとうございました! 天国ではどうかお幸せに。どうか結婚できますようお祈り申し上げます。
僕達がそう思って手を合わせていると、
「愚か者め!」
暗闇の奥で聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「我は椿先生などではない!」
いや、椿先生だって言ってたやん?
「颯爽と現れ、颯爽と消える孤高の戦士。その顔は誰も見たことがない謎多き美少女! そう、変態仮面椿35歳よ! って誰が35歳じゃ!」
過去に2度遭遇したその姿は忘れたくても忘れられず、目に焼き付いたら決して剥がれない。顔にパンティーをして、局部を一枚のパンティーで見事に隠している。
そんな変態は言葉を継ぐ。
「このHKT35が来たからにはもう心配は要らないわ! 安心して出口まで連れて行きなさい!」
孤高のヒーローよ! どうして足が震えているんだ!? それにお化けよりも何よりもお前が怖いんだよ! 僕達は! 悪霊退散! たいさーん!
いやー、でも本当によく作り込まれているよなぁ。色々ボロボロになっているし、なんかさっきと雰囲気が違うぞ? すごく暗いし。
『霊安室?』
ここが最後の部屋だ。GOとWAITとかかれた信号機(?)みたいなのがある。
僕達は怯えながらも自動ドアの中に入り、先に進んでいく。
『ああああああああああああああああああああ!』
なんとかリタイアすることなく脱出に成功した。
「し、しんどかった……」
僕は未だにバクバクいっている胸を撫で下ろす。
「こ、怖かったですぅ」
「もう絶対行かない!」
真希と希望も涙目で言った。
「なんかワタシ最後、見ちゃったかもしれないわぁん! 白いマスクを被った露出狂を! ギャーッ!」
ゲイーズ青戸はムンクの叫びみたいに絶叫した。
「それはHKT35かしら?」
先程までHKT35の姿をしていた椿は私服に戻っている。一体いつ着替えたんだこのババァは。
「ひぃぃい! 椿先生が生き返ってるゥ!」
ゲイーズ青戸は戦慄の表情を浮かべた。
☆ありがとうって面と向かって言うのは照れくさいよね☆
亀有さん達のグループが戻って来るのを待った後は、三人一組でシャイニング・フラワーに乗ることに。
真希と希望ならもっとはしゃぐかと思ってたけど、何だか静かだな。高所恐怖症なのかな? 実は僕も見えないくらい細かく足が震えているんだよ。
「どうしたの? 元気なさげだけど」
「はわわわわ!」
「あぅ」
なんか2人の様子がおかしいぞ。まさか進化か!?
そんな馬鹿みたいなことを考えていた僕を他所に、真希は決心したように僕の顔を見た。
「樹に伝えたいことがあります」
「僕に?」
「はい」
2人は顔を合わせて、一つ頷くとまず真希が、
「蘭があたし達をオカ研に勧誘して、それからたくさんの思いでができました。みんなでやったオカルトゲームは面白かったし、四天王のみなさんは楽しかったし、宝探しゲームもサバイバルゲームも、そして合宿もすごく楽しかったです」
続いて希望が、
「転校生のわたし達に優しくしてくれてすごく嬉しい。だから感謝してもしきれない」
『ありがとう!』
2人は声を揃えて僕に感謝の気持ちを伝えてきた。
面と向かってありがとうだなんて言われる照れますねぇ。
「あのぅ、これからも一緒に、いーっぱい楽しいことしてもいいですか?」
「これからもみんなと素敵な思い出作ってもいい?」
「もちろんだよ。逆にこっちからお願いしたいくらいだよ」
僕はスマホを取り出し、ホーム画面の、熱海の海で巨大な砂の城をバックにして撮ったあの写真を見る。オカ研も四天王も生徒会の人達も全員がふざけてジョジョ立ちしている。
なんて微笑ましい光景なんだ。
僕の脳内でこれまであったことが一気に思い出された。2人と出会った日から今日の遊園地のことまで、古いのから新しいのまで全部。オカルト人生ゲームや四天王との出会い、王様ゲームやオカルト人狼ゲーム、宝探しからのサバゲー、合宿や今日の遊園地……。挙げればきりがない。
そして、自分が友達にどれだけ恵まれているかに気づいた。
きっとこの思い出はいつまで経っても忘れない。大人になっても、おじいちゃんになっても、天国に行っても。
それくらい、僕は今、青春しているんだ。
遅れてごめんなさい&短くてごめんなさい&ギャグなくてごめんなさい。