ゆびきりげんまん。
お読みいただきありがとうございます。
やっと個人的に考えていたプロローグ、前日譚終了です。
今後もどんどん更新したいと思っているので、お楽しみいただければ幸いです。
そうして、あっという間に小学校生活は終わりを告げることになる。なんせ、ゲームの舞台は高校だ。いくら小学校生活が目まぐるしく変化する忙しいものであろうと、そこまでの記述は必要ないだろう。
***
「え、雛、引っ越しするの。」
それは卒業式を間近に控えたある昼下がりのことだった。いつもより早めに宿題を終え、杏と共に録画したミュージックスペースという音楽番組を見ていた時。画面の中では、トップアイドルの赤原楓という青年が歌って踊っている。
「お父さんの仕事の都合でね。」
「なんで早くいってくれなかったんだよ。」
「だって言ったら杏泣いちゃうでしょう。」
「泣かねえよばか!」
すでに目には涙がたまっているのに。やだ、うちの幼馴染、かわいすぎ・・・?
「大丈夫だよ、きっとすぐ帰ってくるって。」
「・・・・・。」
「杏。」
ゲームの中で語られていたのは、「ヒロインが中学に入学する際に、遠くに引っ越してしまう。そして奇跡的に、入学時に再会する」という必要最低限の情報だけだ。その時の会話なんてわかりはしない。
「・・・・・・約束したのに。」
「え。」
「俺の、一番最初の、一番近くにいるファンになるって言ったのに。」
うるうると目を潤わせて私を見つめられる。罪悪感で胸が張り裂けそうだ。しかし、小学生にこの引っ越しについてできることなんて皆無だった。無力。
「じゃ、じゃぁ、もう一つ約束しよ。」
「・・・・・なに。」
「私、きっと杏のところに戻ってくるから。杏がすごいアイドルになれるように、そのお手伝いができるように、頑張って勉強してくるから。」
杏の表情は変わらない。曇ったまま、ただ私の言葉を待っていた。
「だから、私が戻ってきたら、そしたら、私が杏をトップアイドルにしてあげる!」
「・・・・なにそれ。」
ちょっと驚いたように杏は笑う。良かった、やっと笑ってくれた。
「なにってなによ。」
「俺、別に雛がいなくてもアイドルになるよ。」
「えー、じゃぁ、競争!私が返ってくるのが早いか、それとも、杏がアイドルになるのが早いか!」
「・・・・ぜえったいまけないからな。」
「こっちこそ。」
「負けないけど、」
小さい声で、彼はつぶやく
「早く帰ってきてね。」
それはもうマッハで帰ってきますとも。
「ゆーびきりげんまん、うーそついたらはりせんぼん、のーます!」
杏のかわいらしい声が響く。多分私は、この指切りを戻ってくるまで、いや、一生忘れないだろう。
***
そして、しばらくの月日がたった。
春だ。美しい桜の花が、私の周りを舞っている。鼻歌交じりに校門を潜り抜けると、そこはかつての私が幾度となく画面の向こうに見た世界。恋焦がれて、決して手にできなかった、ヴァーチャル世界。
さて、私の物語はここから始まる。「虹咲雛」による、私のアイドル育成計画。
私の、長い長い挑戦が、始まった。