004
夢を見ていた。
目が覚めた時、その内容は綺麗さっぱり忘れてしまっているのだけれど、そこに確かに不快感だけが残っている、そんな夢を。
いつからか見るようになって、いつの間にか見なくなっていた夢。久しく感じることのなかった感覚。胸を締め付けられるような不快感を覚えながら起き上がると、体の節々がぱきぱきと小さく音を立てた。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
食堂を出た後、あの日の幻に襲われて、取り乱して、それからどうしたのか曖昧だった。見たところ、自分に宛がわれた客室のベッドの上で眠っていたようだが、這う這うの体でここまで辿り着いたような記憶もない。あそこからここまでの記憶が、すっぽりと抜け落ちてしまっていた。
寝汗でシャツが肌に張り付いていて、気持ちが悪い。ひんやりとした空気が、冷え込んだ体を容赦なく刺した。着替えなければ風邪を引いてしまう。ぞくぞくと背筋を悪寒が走り始めている。
湿ったシャツを脱ぎ捨てながら目を向けた、部屋の隅に置かれた柱時計。眠っていたのは、一時間ほどだろうか。時計の針は六時過ぎを指していた。部長が取り決めた夕食の時間を、少しだけ過ぎてしまっている。
誰も起こしに来てくれなかったのだろうか、と部屋の入口へと目を向けたところで。
「おや、お目覚めですか。おはようございます、神崎くん」
部屋の隅、パイプ椅子に腰かけて本を読んでいたらしい青葉湊と目が合った。
「え、あ、はい。おはよう、ございます……?」
寝惚けた頭で、挨拶をオウム返し。
「肉体美を見せ付けるのも結構ですが、そのままでは風邪を引いてしまいますよ」
そう指摘されて、半裸であったことを思い出す。見られて困るような貧相な体つきでもないが、見せ付けられている方にしてみれば何とも言えない心境だったことだろう。まさかそんなところに青葉さんがいるとは、それこそ夢にも思っていなかったので、完全に油断してしまっていた。
「ところで、どうして青葉さんがここに?」
旅行鞄からシャツを引っ張り出し、着替えを済ませてから青葉さんに向き直る。
「どうして、とは。それはまたおかしなことを言いますね」
どういうつもりか僕の着替えを観察していたらしい青葉さんは、不思議そうな顔で小首を傾げて見せた。
「階段の途中で居眠りしていた神崎くんを、私がここまで運んできたからに決まっているじゃないですか」
「……青葉さんが、僕を、ここまで?」
抜け落ちた記憶。忌まわしい幻影に襲われた後のこと。そのまま意識を失ってしまった僕を、青葉さんがここまで運んでくれたということらしい。その華奢な体のどこにそんな力があったのかと、不思議にはなれど。僕がここにいるということは、つまりはそういうことなのだろう。
「本ってね、思ったよりも重さがあるんですよ。紙の束だと侮るなかれ、漬物石にもなれば撲殺用の鈍器にもなってしまうくらいに。重さがあって、運ぶのだって一苦労なんです」
僕の内心を見透かしたかのように、青葉さんは頼んでもいないのにそんな話を始める。
「図書室への新刊搬入、整理整頓。古書整理に廃棄処分に、上へ下への運搬に。本の虫で、図書委員なんてものをやったりしていると、自然とそれだけの重さがある本と触れ合う機会も増えるわけでして。気付かないうちに、力持ちになってしまっているものなんですよ。だから、ひょろひょろもやしの神崎くん一人を運ぶことくらい、造作もないことです」
と、どこか自慢げな青葉さん。ふんっと力こぶを作るようなポーズを見せてみたりして、おどけた様子だった。
本と触れ合う機会が極端に少ないので、その真偽のほどは定かではないが。図書館の魔女と呼ばれるほどに本に慣れ親しみ、自らも本の虫を自称している彼女がそう言うのだから、実際にそうなのだろう。確かに、本というものは見た目よりも重量があるような気がしないでもない。
「そうでしたか。それはどうも、ありがとうございました。助かりましたよ」
それはそれ、これはこれとして。他人の善意にお礼の一つも言えないほど、僕も歪み切ってはいない。無償か有償かはさておいて、彼女の優しさには素直にお礼を述べておくべきだろうと、僕は感謝の言葉を口にする。実質、これで彼女からの貸しが二つ目だった。
しかし、気を失ってしまうとは我ながら情けのない話だ。世界広しと言えども、幻に首を絞められて意識を失ってしまうような人間は僕くらいのものだろう。と言うのは、言い過ぎかもしれないが。マイノリティとでも言うべきか、表現はともかくとして少数派であることに違いはないと思う。日常的に、誰もが経験しているような出来事でないことは確かだ。
「お恥ずかしいところをお見せしまして。お手数おかけしました」
「いえいえ、とんでもない。意識を失うのとはちょっと違いますが、私もよくやっちゃいますからね。気持ちがわかるとまでは言いませんが、困った時はお互い様ってやつです」
はて、何のことだろうかと首を傾げていると、青葉さんは何かに気が付いたようで「ああ」と小さく呟いてから言葉を続ける。
「どこにいても、何をしていても、急に我慢できないくらい眠くなってしまって。気が付いたら眠ってしまっていることがよくあるんです、私」
そう言って、青葉さんはどこか諦めたように笑う。
「……ナルコレプシー、ですか」
居眠り病。脳疾患が原因の睡眠障害、だったか。本人の意思とは関係なく、それこそ気絶でもするように、眠りに落ちてしまうようなものだったと記憶している。
「おや、ご存知でしたか。存外、物知りなんですね神崎くんは。ご存じないかと思って、噛み砕いて説明したんですが」
「たまたまですよ。どこかで聞いたか、見たかしたことがあったってだけです」
そうですか、と一つ頷いて。それきり、青葉さんは僕の知識の出所に対する興味を失ってしまったようだった。
「とにかくそんなわけで、私だってよくあることですから。神崎くんが気に病む必要はありませんよ。お気になさらないでくださいな、その失敗談に関しても、私に関しても、ね」
その話題にはこれ以上触れるなとでも言うように、諦めたような笑顔を浮かべる青葉さんの口からやや棘のある言葉が飛び出す。それをそのまま、言葉通りに受け取った僕は、頷くだけにとどめてそれ以上追求するようなことはしなかった。
どうだっていい話だ。彼女がナルコプレシーを患っていようと、そうでなかろうと。僕と彼女の関係性は変わらないし、それが僕には関係のない話であることに違いはないのだから。
問題さえ起こさなければそれでいい。それ以上は、僕の関与するところではなかった。
「それにしても、世間ってのは案外広いようでいて狭いものですね。佐原さん、でしたか? なんでも、神崎くんの昔の恋人さんなんだとか」
小さく欠伸を一つ。眠気からなのか、半目になっている青葉さんは本を抱き抱えるようにしながら、露骨に話題を逸らす。
僕の中学時代の話は彼女にとっての持病の話と同じようにタブーではあるのだが、僕とあまり関わりのある方ではない彼女がそれを知るはずもなく。悪気はなく、なんとなしで口にした共通の話題がそれだったというだけの話なのだろうけれど、なんだか仕返しでもされているような気分になって、僕は少々気分を害した。
「ええ、まあ。そういう時期も、ありましたね」
けれどもそれを顔に出すことはせず、淡々と僕は答える。
「それが、部長さんとも知り合いで。偶然、この島で一緒になって。運命的というか、なんというか。随分と、ドラマチックな展開ですよね」
すると青葉さんは、これでもかというくらい中身のない声色で――例えるなら、紙に書かれた台詞を無感情にそのまま読み上げているだけといった調子で、そんなことを言った。
含みのある言い方だった。何か、引っかかるものがある言葉選びと声色だったように思う。
気に入らない、という感じでもなかった。気分を害している、というわけでもないのだろう。ただ、言葉通りの意味ではなく、その背後にこそ彼女の真意があるとでもいうような……。要領を得ない、何が言いたいのかいまいち伝わらない、そんな物言いだった。
「作為的、と言ってもいいくらいです。そんなことが起こり得る可能性って、はたしてどれくらいのものなんでしょうね?」
ゆっくりと、緩慢な動作で青葉湊が首を傾げる。
そこに至って、僕は確信した。
僕が目を覚ますまで、青葉湊がこの部屋に留まっていたのはただ世間話をする為でなく、不自然な偶然に対する違和感に関しての話題を僕に吹っかける為だったのだろう、と。
僕自身、薄っすらと違和感を覚えてはいた。
この状況、確かに出来過ぎている。
偶然訪れた島で、偶然にも嵐に見舞われる。その上、その島で偶然、かつての旧友たちと再会を果たす。
アニメや漫画じゃあるまいし、そんなことが起こり得るものなのだろうかとは僕も考えていた。
起こり得る確立と、起こり得ない確率のどちらが大きいかで言えば、間違いなく後者の方だろう。起こらないわけではないのだろうが、まず起こるとは思えない。そんな奇跡に近い偶然が、それこそ偶然に起こるとは考え難いのは事実だ。
それでも起こってしまった、実際に起きているのだと言われてしまえばそれまでの話。けれどそれで、はいそうですかと納得出来るかと言われれば、そうでもないのが実情だった。
「……何が言いたいんですか?」
僕があえて目を逸らしてきた不自然な偶然と違和感。青葉湊もまた、同じことを考えていたということなのだろう。そんな彼女と僕の違いは、それを口に出したか出さなかったか、目を向けたか向けなかったかだ。
何もなければ世は事もなし。藪を突いて蛇を出す必要もなければ、臭い物には蓋をすればいい。何もないのが一番で、鈍感な振りをしているのが上手く生きる方法であると思っている僕は、違和感を覚えはしたもののそこから目を背けた。気付かなかったことにした。下手につついて何かが出てきてしまっても、面倒でしかないからだ。
ただでさえこの状況である。これ以上、頭痛の種を増やしたくないというのが本音だった。
だから、見なかったことにした。
神崎千尋は、背を向けて気付かなかったことにした。
けれど、青葉湊はそうしなかった。
僕とは違って、どうやら青葉さんは面倒事に積極的に首を突っ込むタイプの人間なのだろう。僕が一番苦手としている――ともすれば、この世の中から消えてなくなって欲しいとまで思っている厄介な人種だ。
「いくらなんでも、相手が悪い。好奇心は猫を殺すって言うでしょう? 深く関われば、身を滅ぼすことにもなりかねませんよ」
唯我独尊。我が物顔で我が道を往く世間知らずのお嬢様の顔を思い浮かべながら、僕は目を細める。
「それは、忠告ですか? それとも、ただのお節介ですか?」
「最後通告ってやつですよ。ついでに言えば、何があっても僕は知らないし関係ありませんからねという意思表示です。あの女の機嫌を損ねるようなことを、僕はしたくありませんから。他の誰でもない、僕自身の為に」
部長の為を思ってのことでも、青葉さんの為を思ってでもない。他でもない、僕自身の為だ。部長や青葉さんがどうなろうが、僕の知ったことではない。どうだっていい。僕には関係のないことだ。彼女たちが問題さえ起こさなければ、それでいい。
裏を返せば、問題を起こさせない為ならどんなことだってするということで。好奇心によって眠れる獅子をわざわざ突いて起こそうとしている青葉さんに対して、僕は敵意を向けることだって辞さない。彼女に嫌われる。たったそれだけのことで起こり得るかもしれない問題の芽を摘んでしまえるのなら、安いものだ。むしろ、お釣りが来る。
だから、最後通告。
これ以上、僕は関わらないという意思表示。
つまりは、死にたければひとりで勝手に死んでくれということだった。
「……なるほどね。そういうことでしたか」
僕の言葉をどう受け取ったのか、青葉湊は小さく喉を震わせる。
「わかりました、そういうことなら見て見ぬ振りを貫くとしましょう。余計な仕事で、飼育員さんの手を煩わせるわけにはいきませんしね」
ぽん、とひとつ手を打って。青葉湊は、そう言って頷いた。
正直、意外な反応だった。こうも簡単に諦めてくれるとは、思いもしなかった。問題児というものは得てして、人の話を聞かない生き物だ。会話が成立しないのも別段珍しいことではない。簡素に言えば、彼女たち問題児は基本的に物分かりが悪いということになる。
だからこそ、青葉湊が僕の言葉を素直に飲み込んだことが心底意外だった。二つ返事、モノを言われてすぐにでもわかりましたと頷いたことが意外で、奇妙だった。
何か裏があるのではないだろうか。こういう時、すぐにそんな風に勘ぐってしまう。僕の悪い癖にして、性分だ。そうでなければ、オサ研の飼育係などやっていられないのだから、何も悪いことばかりでもないのだが。人に好かれないような性格であることだけは確かだ。もっとも、僕のような人間が他人に好かれてどうするんだ、という話ではあるけれど。
それはともかくとして。とにかく、青葉湊のあまりにも素直なその反応が予想外にして意外でしかなかった僕は、うっかりと表情にその戸惑いと驚きを出してしまった。
「おやおや、神崎くん。鳩が延髄斬りをくらったような顔をして。どうされました?」
その表情の機微、変化を見逃す青葉湊ではなく。しまったと思った時には、意地の悪い笑顔を浮かべた彼女に、なんだかよくわからない表現でツッコミを受けてしまっていた。
「別に。どうもこうもしませんよ。素直で可愛らしい青葉さんに、ちょっとばかし驚いてしまったってだけです」
いったい、鳩が延髄斬りをくらったような顔とはどんなものなのかと訊きたい気持ちをぐっと堪え。大袈裟に肩をすくめながら、そんな風に言葉を返してやる。
「そうですか。まあ、私見ての通り美少女ですから。神崎くんを照れさせてしまうのも仕方ないかもしれませんね」
納得したように頷く青葉湊。彼女の辞書には謙遜と恥じらいという言葉はないのだろうか。よくもまあ、自分のことを美少女だなんて恥ずかしげもなく言えるものだ。あながち間違っているというわけでもないのが、余計に腹が立つ。
閑話休題。青葉湊が美少女か否かなんて話は部屋の隅にでも放り投げておくことにして。
「とにかく、そういうことですから。余計なことはしないでくださいね、青葉さん」
改めて、直接的な言葉で釘を刺しておく。
「承知しました。触らぬ神になんとやら、と言いますからね。ここは涙を呑んで、聡明な魔女さんは賢明なる神崎くんのお言葉に従っておくとしましょう」
やや皮肉の混じった言い方ではあったが、それでも青葉さんはもう一度首を縦に振った。完全に後顧の憂いがなくなったわけではないけれど、ここから先は青葉湊の良心に任せるほかない。その言葉通り、彼女が聡明な人間であると僕は嬉しいのだが。
「――神崎、いるか?」
と、すったもんだに一区切りついたところで。事が終わるのを見計らっていたかのようなタイミングで、誰かの声とノックの音が耳に飛び込んで来た。
「はい、どちら様でしょう?」
勝手知ったるなんとやら、というわけではないけれど、椅子から立ち上がった青葉さんが僕に一言の断りもなく、さもここが自分の部屋であるかのような調子で開いたドアの向こうに立っていたのは、それこそ鳩が延髄斬りをくらったようなな顔をした須藤統児だった。
「……あー、もしかしてタイミング最悪だったか?」
鳩が延髄斬りをくらったような顔とは、なるほどこういう顔かと感心している僕の視線の先で、表情をばつの悪そうなものへと切り替えた須藤は、僕と青葉さんの顔を交互に見る。
「いえ、まだこれからでしたから……」
なんて、恥ずかしそうに目を伏せて見せる青葉湊の後頭部を鈍器のようなもので殴りつけてやりたい気持ちになったが、それはまたの機会にするとして。
「むしろベストなタイミングだよ。あまり親しくもない人間との会話が息苦しくて、そろそろ窒息死しそうになってたとこだ」
何事かを勘違いしているらしい須藤に向かって、僕はそう言った。
「む、それはまた随分と聞き捨てならないことを言いますね。私としては、神崎くんとは親しい間柄のつもりでしたが?」
「青葉さんの方はどうだかしりませんけど、僕が貴女の顔を見たのは今日が初めてですよ」
ひらりと青葉さんの戯言を躱しつつ、僕は須藤に向かって手招きをして見せる。部屋の入口に立ち尽くす須藤は何やら躊躇っているような様子だったが、ほどなくして青葉さんの脇をすり抜けると部屋の中へと入って来た。
「やれやれ、私は深くふかーく傷付きましたし、どうやらお邪魔虫のようですから? 神崎くんが窒息死してしまう前に、退散するとしましょうかね」
それと入れ替わるようにして、たいして気にも留めていないような様子でそんな言葉を吐き捨てながら、青葉さんが部屋を出て行こうとする。それは(失礼ながら)驚くべきことに、彼女なりに気を使っての行動だったのだろうが。
「あ、ちょっと待ってくれ」
意外にして、余計なことに、それを須藤が呼び止めた。
「はい?」
あと半歩。もう少し踏み出せば、廊下へ出るというそんな位置で青葉湊の足が止まる。こちらへ振り向いた彼女の頭上には、疑問符がいくつか浮かんでいるように見えた。
「青葉さん、だっけ? もしよかったらなんだけど、もう少しここにいてくれないかな。神崎と二人きりだと、切り出しにくい話でさ。誰かがいてくれた方が、俺としては助かるんだ。ダメかな?」
足を止めて振り返った青葉さんに向かって、須藤がそんなことを言う。
「はぁ、私は別に構いませんが……」
どうしましょうか、とでも言うように。そこで青葉さんが、須藤越しに僕を見る。
「……まあ、須藤がそう言うなら。それでいいんじゃないですか」
僕としては、須藤の口から語られる(かもしれない)過去の話を青葉さんには聞かれたくないのだが、これからなんらかの話をしようとしている奴が、第三者に立ち会って欲しいと言うのだから仕方がない。不本意ではあるが、須藤の為にも青葉さんには居座ってもらうべきだろう。
「悪いな、神崎。本当は俺とお前だけで話をするつもりだったんだけど……直前で腰が引けちまってさ。情けないことに二人きりじゃないってわかった途端、ほっとしちまって、踏ん切り付かなくなっちまった」
須藤はそう言って頭を掻くと、薄っすらと自嘲の笑みを浮かべた。
情けない面だ。昔の須藤なら、こんな顔はしなかっただろう。見ているだけで胸やけがする。青葉さんの人を食ったような態度以上に、不愉快だった。
「まあ、座れよ。その様子だと、長くなりそうだしな」
苛立ちを抑え、座るように促す。一つ頷いた須藤は、先程まで青葉さんが腰かけていた椅子に腰を下ろした。
「で、話ってのはなんなんだ?」
図々しくも、ベッドの端に腰かけた青葉さんを横目で見やりながら、僕は須藤に言葉を投げかける。それからやや間があって、意を決したように口を開いた須藤は、躊躇いがちに――慎重に言葉を選びながら、こんな風に切り出した。
「お前と佐原が別れてから、今日までの間に――俺たちが、こんな風になっちまうまでの間に、何があったのか。俺は、それを話しに来たんだ」