第七話「黒の魔法陣」
どうも何の因果か知りませんが勝手に立派なダンジョンだと思われているダンジョンマスターです。
まだ部屋らしき物もないので水道管を埋める横穴くらいにしか出来ていない俺のダンジョンに来て何をするんだよ……。嘆いていても仕方がないので現在作戦会議をしています。
「DP自体はそこそこ……? あるから何とかしていきたいな」
「そこそこと言うても100ちょっとじゃろ……? 最初から作るとなると雀の涙じゃのう……」
「100ちょっとで現状を誤魔化せるほどの効果がありますかね……」
「さすがに無理だろ! 問題点が多すぎるぞ!」
我がダンジョンの同居人達が口を揃えて難しいと言う……。そんなに俺のダンジョンやばいかな……。
「ちなみに問題点って何?」
ここで俺はあえて開き直って聞いてみようと思う、挙げられた問題点を解決すればまともなダンジョンに案外なるんじゃないか?
「入口がしょぼい、部屋という概念がない、通路が土むき出し、妾達以外に魔物がいない」
「分かれ道すらありませんし……宝箱やトラップすら1つもないのはどうかと……」
「どこが最終エリア何だ? そこに行って何があるんだ? そもそもこのダンジョンのコンセプトは何だ?」
「うん、もういいや!! じゃあ、このダンジョンのいいところは!?」
聞いてて辛くなってきたのであえてこのダンジョンの良いところを聞く事にする。長所を伸ばす事でこのダンジョンを個性的な物にしていけるんじゃないか?
「「「…………」」」
「黙るのはやめて!」
必死に何かあるか考えている3人……そんなに悩まないと出てこないの!?
「……まぁ、暗所ではあるため妾としては住みやすいのかもな」
「そうですね……ある意味自然溢れるダンジョンと呼べるのかもしれません」
「うーむ、土がむき出しなのは俺様的には良いポイントだぞ?」
目を泳がせながら絞り出した答えを言う3人……皆が俺のダンジョンにどういう思いを抱いていたのか大体わかった。
「……ダンジョンコア、どうしたらいい?」
未来から来たロボットを頼るかの如くダンジョンコアに助けを求める。
「そうですね……。まずは入り口を何とかしましょう、入り口が悪いと基本的に冒険者はダンジョンと認識してくれません」
「確かに未だに冒険者が入ってきてくれた事はないな」
我がダンジョンの入り口は最初に下に1マス空けたままの状態であり階段も無ければ扉もない穴がむき出しの状態だ。最初雨が降った時に水が入って大変な事になったがシロが呪文で何とかしてくれた。
「よし、入り口を作ろう。入り口ってどんなのがあるの?」
「様々な種類があります木や石で作られた上下開閉式の扉や小屋を設置してそこから階段で下に降りていくなども出来ますね」
「立派なダンジョンだと上にタワーを作って最深部は地下みたいな構造にしている所もあるようじゃぞ」
まるでラスボス手前のダンジョンみたいな設計だ、羨ましいけどとても真似出来ない。
「なるほどな~、どういうのがいいんだろ」
「マスターの好みになってしまうのですがDPを考えると……ここらへんはどうでしょうか?」
「おぉ、なるほど」
「ここで……このパーツを組み合わせて」
「いいじゃん! それっぽいけど……でもお高いんでしょ?」
「いえ、今ならなんと全て合わせて……20DPで購入出来ます」
「や、やすーい! でも色がな~」
「それが今なら無料で色が変更出来ます」
「おぉー!」
なんてどこぞの通販番組のようなやり取りをしている間に何とか30DPで入り口が完成した。
「私達のダンジョンに……ようやく入り口が」
「あぁ……もう妾が防水術式を組む事もないのじゃな……」
「これが文明という奴か……」
同居人達が感動している。入り口が完成しただけで涙を流してるけど……これ個室作ったら号泣のあまり脱水症状で死ぬんじゃないだろうか。
ちなみに入り口だが石レンガで作った角錐型……簡単に言えばピラミッドだろうかそこに石で出来た扉が付いている。扉を開けると石で出来た階段があり地下に続く形になった。
「見た目は凄いそれらしいのだけど……中はどうすればいいんだこれ」
「「「……」」」
「泣きながら黙るのは辞めて? 違う意味で泣きたくなってくるから」
とりあえず見た目は凄いダンジョンらしさを出す事に成功したが肝心の中身がただの横穴でしかない。
「中身はどうやって誤魔化そう……宝物とか設置しないと不味い?」
「そう……ですね、最低何かないと冒険者は来ないですね」
「宝物ってどんなのがあるの?」
そっとリストを出してくるダンジョンコア、うーむ……何か色々あるにはあるが俺は凄く腑に落ちない事がある。
「何で冒険者のためにDPを使って宝物を設置してやらないといけないんだ……」
「ダンジョンとはそういう物ですよ……マスター」
RPGをプレイしていて何でダンジョンの中に宝箱があるんだ? わざわざ魔物が置いてくれたのだろうか、宝箱置かなければ勇者は強くならないから倒すの楽だろうにとか思っていた俺が馬鹿だった。
宝がないと勇者どころか村人Aすら来ないんだよ!!!
「……ん?」
リストを見ていると俺は魅力的な物を発見してしまった。自然と目が黒白に向く。
「な、なんじゃ突然こちらを見て……」
「マ、マスター……どうしました?」
困惑する二人。ふふふ、例え怯えられてもいい。俺は信じるぜ!!
「ダンジョンコア! この期間限定宝具ガチャを引くぜ!」
そう俺は自分の運を信じる。俺にはきっと豪運があるんだ……。だから大丈夫……、きっと大丈夫のはずだ……!
「またガチャですか、マスター」
「また犠牲者を増やすつもりか……?」
「宝具が可哀想ですよ……」
「レアなんて出るわけないだろ! そんなのに30DPも使うな!」
働きたくないからとりあえず宝くじ買って一発当ててやろう的な思考の俺を非難する皆。うるさい! スタート時点で終わってるんだからまともな手段なんて使ってられないんだよ!
「……わかりました、DPを消費します」
諦めたのかDPを消費するダンジョンコア。他3名も軽く呆れている……が俺の運を評価しているのかわからないがガチャの結果に興味津々のご様子。1番最初は当然の如く白い魔法陣……。最後に出すからまぁ見てなって。
9回白い魔法陣が出る。見慣れた光景の如くゴミな物しか出ない。問題は1番最後だ……さぁ、来い金色の魔法陣と思って見ていた俺であったがそこに浮かんだ魔法陣は。
「……く、黒色!?」
「この魔方陣の色は……」
黒色の魔法陣からよくわからない虹色の剣が生み出された……。これは一体何なんだ?
レインボーソード:999万DP
「「「「?????」」」」
表示されたデータを見て驚愕のあまり表情が崩壊してしまっている俺と同居人3名。瞳の色は消え視線は出現した剣に向けられている。あまりの衝撃のため身体は指一本まったく動かす事が出来ない。
「……????」
ダンジョンコアすらも無機質な表情で目の前に出てきた剣をただ見つめている。目の前の情報を処理する事が出来ないのだろうか。同じく瞳を出現した剣に向けているが彼女は一体何を思っているのだろうか。
……5分ほどだろうか、どこかの時間停止能力者に干渉を受けたかの如くと時が止まり誰も言葉を発する事はなかった。現状を認識出来てないのだろう、仕方なく俺が口を開く。
「……これは何?」
「超激レアと言えば良いでしょうか……このガチャで1本しか出ない目玉宝具です」
「確率で言うとどれくらいでしょうか……」
「最早計測出来ませんね、本来は3万DPほどで引けるガチャで0.01%くらいの確率に引き上げて引く物ですので……」
大変な物を引いてしまった。俺ってもしかして神に選ばれし存在的な何かなのかもしれない。
「マスターは凄いのう! 妾は信じておったぞ!」
「さすがマスターです! 私やクイーンヴァンパイアを引き当てた運の持ち主ですからね!」
「やるじゃないか! お前の凄さ……認めてやってもいいぞ!」
口々に俺を褒め称える声が聞こえる……。各々に手を取り合って喜び合っている。俺ダンジョンマスターになってよかった……。
「マスター……喜んでる場合じゃありませんよ?」
「え、なんで? もうこんな最高レアアイテム手に入ったんだからよくない? ゲームクリアーでしょ」
なんかこの展開前にもあったので嫌な予感しかしない。
「単純にこのダンジョンには合わないという話しじゃろ? それは仕方ない今後頑張ってダンジョンを作っていくしか……」
「いえ、それもありますが……」
両手で耳付近を抑えているダンジョンコア……。うん!? ダ、ダンジョンコアが焦っているぞ! 目が泳ぎ困惑しているダンジョンコアを見るのは初めてだ。
「ど、どうしたんだ?」
「大量のおめでとう通知が知り合いのダンジョンコア達から……来ていて処理対応に追われてます」
「……はい?」
他のダンジョンコア達から? そんなに友達いたのか……。いや、そこじゃないよな。
「何でおめでとう通知が来てるの? 衝撃のあまり自慢しちゃった?」
「いえ、黒魔法陣から出るアイテムは限定アイテムのため獲得した段階でガチャのログに表示されてしまうのですよ」
「……という事は?」
「これがログです」
ダンジョンコアがログを見せてくれた……。相川瑠比がレインボーソードを獲得しました! という文字が表示されている。
「ほー……これの何が問題なの?」
「こういうダンジョンマスターにしか知り得ない情報を冒険者に流してお金を稼いでいるダンジョンマスターがいるので……嗅ぎつけてくる可能性がありますよ」
「冒険者が!?」
ついに冒険者が俺のダンジョンに来てくれるのか!?
「……別にいいんじゃない? 向こうからわざわざDPになりにきてくれるんでしょ?」
「このクラスの宝具を手に入れようとダンジョンに足を運ぶのは上位クラスの冒険者達ですので……」
チラッと3人を見るダンジョンコア。
「黒白なら大丈夫じゃない?」
「わ、妾達かえ!?」
「そうですね……」
「俺様を省くなー!!」
何とも気弱な返答をして視線をダンジョンの壁に向ける2人と両手を上げてプリプリ怒る戦力になるのか怪しい1人。
「マスター……」
「ん?」
ゆっくりと傍によって来て小さな顔を俺の顔の傍に寄せて……そっと耳打ちをしてくるダンジョンコア。
「二人はプライドがあるため言えないでしょうが、最上位クラスの冒険者が来たらいくらあの二人でも太刀打ちできないですよ」
「そんなに冒険者って強いの?」
「あの二人は中の上クラスの冒険者1人と互角くらいでしょうか。最上位ダンジョンだとクイーンヴァンパイアだけでも10人くらいいると思いますよ」
「そんな贅沢なダンジョンがあるのか……」
そのダンジョンに召喚されたクイーンヴァンパイアは美味しい物を食べて個室も与えられてると思うと……。悲しくなってくるな。
「じゃあ、今冒険者来たら終わりじゃん……どうするの?」
「とりあえずダンジョンがある事は隠しましょう……。ただ今は幹部様の視察を何とかしないといけません」
「死ぬほど忙しい、なんだこれ」
視察やら冒険者やらダンジョンマスターって激務じゃない? 辞めたくなってきたんだけど!!
「……ま、まぁ目玉の宝具も手に入れましたし最深部を作ってそこに置いときましょう」
「そうだな……最深部作るか……」
最深部という言葉にびくっと反応した3人がいた。
「ところでマスターに提案があるのじゃが……」
「私も実は……」
「俺様も……」
「……何?」
大体言いたい事はわかるが一応聞いておく。
「「「個室が欲しい!!」」」
「知ってた」
数回聞いたこのセリフ。しかしこんな劣悪な生活環境なのに暴動すら起こさないこの子達の優しさに俺もそろそろ答える必要があるだろう。
「わかった! 個室を作ろう!」
「「「やったー!!」」」
歓喜の声がダンジョン内に響く。とりあえずベッドの関係上地下2Fを作る事にした。
……
…………
………………
数時間議論を交わしDPを全て消化して何とかダンジョンを広げた。
入り口を開けて階段を降りて地下1Fはただ直進するだけの通路だが……とりあえず左右の壁全部に毒吹き矢のトラップを仕込んどいた。1マス歩く度に毒状態になるだろう、俺が冒険者ならキレる。
そのまま10マスほど進むと階段があり地下2Fになる。とりあえず縦横20マスほどの中を迷路風にしてみた。行き止まりの部分にはガチャで出たハズレアイテムを置いてその周りは全部落石トラップにしといた。俺が冒険者なら床を殴る。
そして迷路を抜けた先には3マス3マスほどのプチ広間を作って最深部にした。そこにベッドとレインボーソードが置いてある。最深部に3人の部屋がくっついてるので警備は万全だ。ベッドの置き場がここしかなかったので3人はここで寝てもらう。
ちなみにSE音とかも設定出来るがそんなものはないので部屋に入った瞬間に3人が襲いかかってくる。俺が冒険者ならコントローラー投げ捨てる。
「完璧じゃないこれ???」
「あまりにも根暗過ぎて引きました」
「こんな性根が腐ったダンジョン初めて見たぞ……」
「まぁ……誰も入らせないダンジョンとしては機能するのではないでしょうか」
「色んな意味でクソダンジョンだな!」
「完璧じゃないこれ???」
何か反応がイマイチだったが完璧という事にしておく。いいんだよ!! 冒険者の気分なんて知った事じゃない!
「個室1マスなのも……まぁ、無いよりはマシじゃな」
「もう少しDPが増えてきたら家具も欲しいですよね」
「あの迷路を通らないと入り口に来れないのが不便なんだが……そのうちでいいから管理者用ワープゾーンを部屋に設置してくれ」
あー! 嫌ですねー、贅沢は敵ですよ! とりあえず3人の意見を聞き流しつつそれらしいダンジョンがようやく出来て来た事に感動を覚える。果たしてこのダンジョンを幹部が見てどんな反応をするのかは置いといて……。
「マスター、明日に幹部様が来ます……。礼儀正しくお願いしますね」
「はいはい」
「お願いしますね?」
「……はい」
ぐいっと顔を突き出して適当に返事をした俺に釘を差してくるダンジョンコア……。きっとダンジョンコアの立場もあるのだろう……礼節何てまったくわからないけど最大限努力しようと思う……。
ダンジョンマスターですがようやくダンジョンが出来ました。