第六話「地獄の料理教室」
どうもパーティーのイベントで優勝した事で豪華なベッドを貰ったはいいが置き場所がなくて困っているダンジョンマスターです。あのベッドの扱いをどうするか皆で話し合ったところ……。
「折角豪華な寝具を手に入れたのなら妾はこれで寝たいぞ!」
「わ……私もマスターが許可して頂けるのなら是非……」
「俺様もベッドで寝る権利があるぞ!」
当然の如く3人全員寝具を使いたいと主張してきた。まぁ、3人が寝れるスペースは十分あるので3人で寝てもらうとして……。
「……これどこに置けばいいんだ?」
「とりあえず奥に空間作って置けばいいんじゃないのか?」
「やれやれ、犬よ。このベッドを置くには横2マスと縦にも2マス必要じゃ、今上にもう1マス空けたら青空が見えてしまうぞ」
「では、もう少し深く掘っていくのはどうでしょうか?」
「適当に2マスくらい下に掘るか……?」
「今後ダンジョンとして活用していく場合あまり無計画に掘り進めると後で後悔してしまうかと思います、マスター」
「何にせよDPが足りないという結論になるのう……」
そう、結局のところいつもの如くDPがないのである。また俺一人で出稼ぎに行くか……と達観していたところダンジョンコア宛にとある通信が入った。パーティーで優勝した事で名が広がったらしく魔族から依頼がきたのだ。
ダンジョンコア曰く見込みのあるダンジョンマスターに魔界の貴族、魔貴族が報酬の高い依頼を出してくれるとのこと……。魔貴族相手なら黒白も手伝ってくれる事を期待した俺だったが……その依頼に問題があった。
「……料理?」
「はい、魔貴族の一人娘。所謂お嬢様ですね、ダンジョンマスターとその魔物達が作った料理を食べてみたいとの事です」
「……自分の屋敷にいる料理人に作らせた方がいいんじゃないの? ダンジョンマスターって料理はしないと思うけど」
「転生前の世界から得ている知識を元に料理を作って欲しいのではないですか?」
まぁ、多分刺激が欲しいんだろうなぁ……。お抱え料理人だと同じような料理になってしまうのかもしれない。
ただ料理か……自炊はたまにしていたが結局一人暮らしだと自分で作るより安売りの弁当を買って食べた方がいい事に気づくと作らなくなった。
「……誰か料理出来る人」
「「「……」」」
「黙るのはやめようね!」
「あー、妾はそういう事は全て眷属にやらせておったからのう」
「……私も従者が数人いましたので」
「ダンジョンコアに料理を作らせたいのならDPで機能を追加する必要がありますよ、マスター」
「……だよなぁ」
黒白は高貴な身分だったらしいので出来そうもなく……ダンジョンコアも出来ないとなると俺一人で何とかするしかないか……。
「料理なら多少出来るぞ」
「……うん?」
まさかの返答がブランから帰ってきた、1番料理出きなさそうなのだが大丈夫なのだろうか。
「犬わかっておるのか? 料理じゃぞ? 土に水を加えて泥団子を作るのは料理とは言わぬぞ?」
「わかっておりますよ!」
「魔物は見かけによらないとも言いますからやらせて見るのはどうでしょうか?」
「うーむ……まぁ、DP欲しいしブランを信用してみるか」
「大船に乗ったつもりでいろ!」
あ、そこは泥舟じゃないんだ……。と思いながらも依頼をしてくれた魔貴族の屋敷にワープゾーンを使ってやってきた俺たちであった。
「いらっしゃい! わー、あれがダンジョンマスター? 頭わるそ~」
「……キレそう」
「落ち着いてくださいマスター、依頼主ですよ」
「わかってるよ……」
初対面でいきなり罵倒してきたのは依頼主である魔貴族のお嬢様、金髪のくるくるヘアーで身長はシロと同じくらいだ。所謂ロリキャラと言えばいいだろうか。
「そして横のがダンジョンコア? 初めてみた~、人形みたいだけど私が持ってるケロベロスちゃんと比べると凄いぶさいく~」
「殴ってもいいですか? マスター」
「落ち着こうね、その握りしめた拳を開こうか」
無表情だが明らかに暴力に訴えようとしているダンジョンコアを必死に止める……。
「やれやれ……お嬢様、妾はクイーンヴァンパイア。格式高い魔貴族であるあなたに出会えてとても光栄です」
「私はダークドラゴンナイト。上位4階級の格式を持っています、同じくあなたに出会えた事に感謝します」
「おー! 意外にも礼節を弁えているのがいるわね!」
黒白が片膝をついてひれ伏す……凄いかっこいい! こういうのを見ると二人の育ちの良さがわかるな……。
「料理作るんだろ? 厨房はどこだ?」
……黒白が作った良い雰囲気をぶち壊すブラン。
「何か小さいのがいるー! かわいいー!」
「なにー! 誰が小さいだー! 俺様はまだまだ成長するんだぞ!」
「よしよし~、お姉ちゃんって呼んでね~」
「誰が呼ぶかー! 俺様にも魔王としてのプライドがだな!」
「犬、言うとおりにせよ」
「お姉ちゃん! 厨房どこ!?」
シロに肩を叩かれ悔しそうに金髪ロリをお姉ちゃん認定してしまうブラン……。不憫だなぁ……。
「厨房はねー、この部屋出て廊下をまっすぐいって突き当りを右だよー」
「……そういえば、料理作れという話だけどどういう料理を作って欲しいんだ?」
「うーんとね。異世界の料理を食べてみたい!」
やっぱりそういう感じなのか……。しかし残念ながら俺は料理人ではないため相手がどういう料理を望んでいるかなどわかるわけもないので質問をしていく。
「味的には甘いのとか辛いのとか色々あるけど……。後肉と魚どっちが好きかとか、そういえば魔物にアレルギーとかあるのかな……。何か苦手な物とか……」
「えー、面倒くさい! 美味しいのがいい! 美味しいの作って!」
最高に難しい注文が来てしまった。ご飯何食べる? という定番質問からの何でもいい並に人を困らせる発言だ。美味しいのって言われても俺は魔物の味覚なんて知らないからな!!
「厨房の場所さえわかればいい! 行くぞ!」
「えー……」
ブランに腕を引かれて厨房へ向かう……。最高に嫌な予感しかしないが大丈夫だろうか。
「厨房に着いたはいいんだが……」
術式が組み込まれた保存用の箱。所謂冷蔵庫の中を覗いて見るが人間の俺では理解出来ない食材しか並んでない。精々何らかの肉と魚だろうか? それくらいしか認識出来ない。
「……この赤色の草は何? 唐辛子?」
「それは地獄草という香草ですね。辛そうな見た目ですが実はそこまで辛くはないのです」
「地獄草とかいう名前の物を料理に使いたくないなぁ……」
こんな具合にまるで呪いの儀式に使いそうな食材しか無いのである。異世界の料理が食べたいならせめて異世界の食材を揃えて欲しいな!
「まぁ、これだけあれば色々作れるだろう。おい、この材料で作れそうな異世界料理を教えろ!」
「えぇ……、こういう料理作りイベントの定番だとカレーだけど」
「カレー? どうやって作るのじゃ?」
「……人参、ジャガイモ、牛肉とかの具材をカレーのルーに入れてご飯にかける?」
「何故疑問形なのですかマスター」
「だってルーの作り方何てわからないもん! いつもレトルトの奴しか使ってないもん!」
「もういい、カレーを作る。具材を切るのを手伝ってくれ」
と言って冷蔵庫から食材を取り出し始めるブラン。さぁ、地獄の料理作りが始まった。
「では、女王様とクロさん。野菜を切っていただけますか?」
「……野菜か仕方ないのう」
「わかりました、切るのはおまかせください」
といって刀と爪で切断を試みる二人……。
「いや、さすがに魔界と言えど包丁くらいあるよね?」
「……あの出来れば包丁で切って頂けますか?」
「ま、まぁ今のは妾流の冗談じゃ」
「そ、そうですよね。料理と言えば包丁ですよね……」
そう言って包丁を握る二人……料理を切るというより人を刺し殺す握り方をしている。うーん、この二人がここまでポンコツになってしまうとは……料理って恐ろしい。
「……野菜切るの出来る?」
「……俺がやるよ」
黒白に期待出来ない事を知り俺に希望を見出すような目を向けるブラン……。まぁ、見た目が気持ち悪い事を除けば切る分には問題ないだろう。果たしてこの野菜がカレーに適しているかどうかを除くが。
「むぅ、では妾達は何をすればよいのじゃ?」
「折角来たのですから簡単な事で良いですからお手伝いさせてください」
「そう……ですねぇ……」
ブランの目が泳いでいる。これは絶対、むしろお前等何が出来るの? って思っているに違いない。ブランに使えない子扱いされている黒白を見れるのは今だけだろうな。
「……お湯を沸かして頂けますか?」
「なんじゃそのくらいなら楽勝じゃ」
「はい、私達におまかせください」
小学生でもできそうな事をお願いしたブラン……。ある意味の逃げかもしれない。あっちは置いといて俺は野菜を切る事に集中する。
「ある程度切ったけど?」
「ルーは作ったぞ、後はお湯に入れて煮込んで……米はどうするか」
え? ルーを作った!? どうやって作ったのだろう……土を溶かしたとかじゃないよな……ブランならやりかねないのだが。
「お湯は出来ましたか?」
「うむ! もう出来上がっているぞ」
「はい、十分沸騰しているかと」
チラッと二人の方を見てみると……うん、たしかに沸騰している。でもその沸騰のさせ方は俺の知っている常識的な沸かせ方ではなかった。
「……何をやってるの?」
「うむ? 鍋に水を入れて沸騰させておるのじゃ」
「はい、お湯が出来上がっていますよ」
確かに沸騰しているかもしれない。ただ鍋全体が黒色の炎で包まれているのですがそこらへんは大丈夫でしょうか?
「……この中に具材入れていいの?」
「もう時間がないのでとりあえず入れてしまおう! 米がないから仕方ないのでパンで代用する!」
そう言って小麦粉を取り出して作業を始めるブラン……。この場面で1番頼りになるのはもうブランしかいないか……。
クロに頼んで具材とルーを鍋の中に投下して貰った。匂いだけで言うと確かにカレーの匂いがする。本当にどうやってルーを作ったのだろうか……。
「……よしパンも出来たぞ」
暫く待っているとパンをブランが作ってくれた。ブランにこんな料理スキルがあるなんて知らなかった……。
日本人の俺としてはカレーはご飯にかけて食いたい物だがお米がないのだから贅沢は言えない、というかそれよりも言うべき事がある。
「あのー……この黒い火止めて貰っていいですか?」
……
…………
………………
「さぁ、出来たぞ……お姉ちゃん!」
目の前の幼女を姉認定してしまう事をかなり不服そうにしているが偉大なるシロ様の命令だからか従っているブラン。まぁ、そんな事は俺の知る由もない。俺は報酬さえ貰えれば何だっていいのだ。
「どれどれー? 何この茶色い粘液みたいなの……食べられるの?」
「食べられるに決まっているだろ! 俺の世界だとみんな大好きなはずだ!」
「……ふむ、マスターの元いた世界は変わった所なんじゃのう」
「そうですね……あまり食欲がそそられないかと」
「……ダンジョンコアは見た目にバツを付けますよ。マスター」
凄い不評なんだが……。おかしいなぁ、こういうのってうわ~美味しそう! 異世界の料理って凄い! ダンジョンマスター大好き!! ってなるのが普通じゃないのかな……。
「何でもいいが人が折角作った料理なのだから食べろ!」
「うぇ……不味かったら首刎ねるからね」
「刎ねるならこの異世界料理を作ろうとした奴にしろ!」
「うん、そうする。じゃあ食べるね」
あれ? 俺の知らない所で勝手に俺の首が賭けられてるんだけど、気の所為かな?
俺が止める間もなく料理を口に運ぶ金髪幼女……頼む、美味いと言ってくれ。というか言わなかったらもう俺の冒険はここで終わるから美味いと言え!!!
「これは……!」
「おぉ……?」
相手の反応を見る俺……。人生で1番緊張している、何より命がかかっているのだから。
「美味しい……と思う?」
「何で疑問形なんだよ!」
「うーん……未知の味すぎてこれが美味しい味なのか実感出来ない。でも不味くはないよ?」
そう言いながらカレーを食べ続ける金髪幼女、とりあえず俺の首が撥ねられる事はなくなったが何か釈然としない……。
俺たちで言う所の甘いとか辛いとか既存の言語で表現出来ないような味だったという事だろうか……。
「うん! 美味しかったと思う!」
どこかはっきりとしない言い回しだが……当初の目的は果たせただろうので問題はない。
「……じゃあ、今回の依頼は終わりという事でいいですか?」
「うむ! 報酬は執事から受け取ってね、じゃあ皆また依頼するかもしれないから次は違う料理を作ってね!」
皆、露骨に嫌な顔をしたがそこは俺を含めてぐっと堪える。報酬はなんと100DPだった。俺一人が働いて稼ごうと思ったら気が遠くなるほどの日数が必要だ。
しかし、これでダンジョンを本格的に作り始める事が出来るはずだ。皆と色々話し合わないとな……。
「あー、帰ってきたなぁ」
「何やかんやで落ち着くのう」
「そうですね。住めば都という言葉は本当ですね」
「まぁ、土の中というのはいいな」
帰ってきた瞬間に装備を外し下着姿でゴロゴロし始める3人。こんな事してるのきっと俺のダンジョンだけなんだろうなぁ……。
「あ、そうそう。ダンジョンコア……DPの使い方について相談何だけど」
「……マスター大変です」
「うん? どうした?」
嫌な予感が凄いする、というか俺がこの世界に来てから大変な事しか起きてない気がする。
「魔王軍の幹部様が……マスターのダンジョンを視察したいとの事です」
「なんでぇえぇぇえ!?」
衝撃のあまりに思わず叫んでしまう。俺の声にびっくりしたのかこちらを向き直る3人。
「な、なんじゃ!? いきなり大きな声をあげて……」
「ま、魔王軍の幹部がここに来るらしいよ?」
「「「えぇぇぇぇぇえ!?」」」
衝撃のあまり叫び始める3人。うん、これが正しい反応だよな。
「……え、何で? 俺悪い事した? 処される?」
「いえ、きっとパーティー会場のイベントで優勝したためどれほどのダンジョンかを見てみたいのだと思います……。クイーンヴァンパイアとダークナイトドラゴンを有するダンジョンですからさぞ立派なダンジョンだと思われているでしょうね」
景品に目がくらんで頑張ったらこんな事って……。でも嘆いている暇は俺にはない。
「……こうなったら」
「どうするのじゃ?」
「どうするのですか?」
「どうするのだ?」
「どうします? マスター」
俺の出した答えは1つ。
「……手持ちのDPを使って何とか誤魔化すぞ」
ダンジョンマスターですが誤魔化せるか不安です。