第四話「自称魔王様はただの幼女」★
どうもダンジョンコアの服すらまともに買えないダンジョンマスターです……。でも俺のせいじゃないもん!!
今俺はいつもの街ではなくそこから少し離れた平原に来ている。何でもダンジョンから逃げ出した魔物が無差別で人を襲撃しているらしいのでそれを討伐しに来たわけだ。あ、勿論俺一人で討伐出来るわけがないので黒白の二人に付いてきて貰っている。討伐報酬は破格の5000G!
「ふーむ」
「どうですかシロ、反応は検知出来ましたか?」
シロがライフソナーを展開し魔物の位置を特定しようとしている。
「それが探知出来んのじゃ、あまりに弱すぎるか……あるいは」
「潜伏能力が高すぎるかですね」
「そうじゃな」
……ん? という事はシロよりも上手な魔物って事か? い、一体どんだけやばいのが逃げ出したんだ……。と少し怖くなってきた所に異変は起きた。
「のわぁぁあ!?」
「シ、シロ!?」
突然シロの身体が地面に引きずり込まれて頭まですっぽり埋まった……。頭の頂点部分だけちょこっと飛び出ている。い、一体何が!?
「ふふふ……」
「だ、誰だ!」
どこからか聞こえる謎の声……。しかし周囲を見渡せど何も見えない。
「どこを見ている? 俺様はここにいるぞ?」
「な、何……?」
と言われたが周囲を見ても誰もいない……。くそ! これはかなりの強キャラの予感がする!!
「マ、マスター」
「……ん?」
クロが指を指したのは俺が見ていた視点よりも低い場所……。視線を落とすと……。
「ふふふ、どうだ! 俺様に恐怖したか?」
「……お、おぉ」
そこにはシロよりも身長の低い……。身長80cmくらいだろうか……。幼女が腕を組んでドヤ顔で立っていた。肩上くらいの茶髪で目はブラウン。服装は茶色のワンピースという全身茶色である……。何ともまぁ独特なファッションセンス、さすが異世界。
「え、えーっと……君は?」
「俺様か! 人に名を聞く時はまずお前から名乗れ!」
「俺は相川瑠比……ダンジョンマスターだけど……」
「ふふふ……俺様は誇り高きリトル族の魔王だ!!」
「リトル族の魔王だと!? ……リトル族って何?」
横にいたクロが説明してくれた。この世界にいる絶滅寸前の種族らしく身長はかなり低く。総じて魔法が得意だったり手先が器用だったりするのが特徴らしい。魔王とかいうのは多分嘘との事。かわいそう……。
「そ、そうかぁ……大変だね」
「ふふふ、俺様に出会うなんて運が悪かったな! お前等はここで……」
セリフを全部言い終わる前に自称魔王の身体が天高く吹き飛んだ……周囲の地面丸ごと……。
「……コロス」
にっこりと笑ってるように見えるけど目が全然笑ってない服が泥だらけのシロが立ってた。こわ!?
「シロ、殺すのは不味いです、消滅してしまいます。死なない程度に痛めつけましょう」
「安心せい、首だけ氷結魔法で凍結させてやるわ」
恐ろしい会話が聞こえる……。凄い怖い……。
「ぐふえぇ!」
落下して地面に叩きつけられる自称魔王……。DPいくつなのか知らないが相手が悪すぎたな……。
「クイーンヴァンパイアの妾に喧嘩を売るなんていい度胸じゃのう?」
「ぁぁ……す、すいませんでした! そんな高貴な方だと知らず……」
泣きながら土下座して命乞いを始める自称魔王様……。可哀想……。
「い、命だけはお助けください……。もう二度としませんから!」
「何故二度目があると勝手に思うのじゃ? 不思議じゃのう」
土下座している自称魔王様の頭を踏みつけるシロ……。こいつドSだ!! 凄い楽しそうだもん!! 確かに女王様っぽい!!
「クロ……。こういう野良の魔物を自分のダンジョンに呼んだり出来ないの?」
「確かDPで購入出来たはずなのでダンジョンコアに聞いてみるのはどうでしょうか」
「……ダンジョンコア、聞こえるか?」
『聞こえてますよ。マスター』
脳内に響くダンジョンコアの声。ある程度離れていても俺とダンジョンコアは脳内通信が可能である。凄い便利~。
「野良の魔物を自分のダンジョンに呼びたいんだけど……」
『マジカルケイジというアイテムをDPで購入すれば可能です。ただこのアイテムは値段が決まっておらず相手のDPより上のケイジを購入しなければいけません』
「えっと……リトル族の自称魔王なんだけど」
『よければ一度ダンジョンに連れてきてください。鑑定しますので』
「……わかった」
通信を終わらせ、とりあえず目の前で展開されているSM空間を辞めさせる。シロはどこか不満げだった……。あんなにぐりぐり踏みつけてたのにまだ満足してなかったのか……。
「とりあえず……依頼だけ終わらせて俺のダンジョンに連れて行くけどいいかな?」
「ダンジョンに……? まさか拷問する気じゃ……」
「うむ、察しがよいではないか」
シロの言葉を聞いてバイブレーションの如く震えだす自称魔王様……。
「こらシロ……あんまり怯えさすなよ」
「ふん! 妾を土に埋めた罰じゃ!」
「帰りにトマトジュース買うからさ……」
「なぬ、しょうがないの~」
「マスター……」
「はいはい、クロにも牛串買ってあげるから」
「ありがとうございます!」
トマトジュースと牛串、2つ合わせて3Gほどで買収された二人であった。うちの子、安上がりで本当によかった……。
何か自称魔王様が二人を羨ましそうに見ていたけど……君を救うためにDPをいくつか使うのだから勘弁して欲しい……。
とりあえず街の中にある商人ギルドに行く俺達。今回依頼を出したのはこの商人ギルドだ、積荷を載せた馬車とかも襲撃していたようなので当然といえば当然であるあ、ちなみに言うまでもないかもしれないが黒白コンビは擬人化の呪文を使っている。
「えっと、依頼を受けていた相川ですけど……依頼対象を捕まえてきました」
「おぉ、早かったな。てめぇか? うちの積荷を狙ってくれた魔物は」
依頼人は髭が立派なおっさんである。商人ギルドの武力担当みたいで見た目は商人というよりは武闘家と言った方がいい。普通に商売していたら発生しない傷が顔についていたりする……。というよりこれはもうヤクザの類かもしれない。
「……」
怯えて震えている自称魔王様、でも多分これは目の前のヤクザに震えているというよりは真後ろで手首を掴んでいるシロに怯えていると思う。目の前のヤクザなら最悪死ぬだけで済むかもしれないがシロの場合死ぬだけじゃ済まなそうである……。
「てめぇにはケジメを付けて貰わないとなぁ」
指をボキボキ鳴らすおっさん……。正直俺だったら失禁してそうである。
「あぁ……その件なんだけどちょっといいかな?」
「ん……どうした、報酬なら受付の奴から貰ってくれ。お前達もう帰ってもいいぞ」
「えっと……この魔物なんだけどうちで引き取るわけにはいかないかな?」
「あぁん? まさか庇おうってのか? うちに被害が出てるんだケジメ付けないと示しがつかねぇだろうが」
凄むおっさん……。うーむ、これは交渉不可能かなぁ。
「庇う? それは違うぞ依頼主よ」
「じゃあ、なんだって魔物を引き取ろうとしてるんだ」
「こやつには辛酸を舐めさせられたからのう……こやつのケジメは我々に付けさせてくれぬか?」
「うーむ……しかしなぁ」
判断に困っているおっさん、腕を組んでどうしたものかと迷っているようだ。
「なに安心するのじゃ、うちの相川はこれくらいの童女が好みでのう……。お腹に自分専用の穴を増やしてやろうと先ほど意気込んでおったわ」
「……そ……お、おう」
おっさんが凄い目で俺の事を見ている。違いますからね!! おいクロ、俺の事をゴミを見るような目で見るな! シロの嘘だってわかるだろ! そしてそこの自称魔王! 俺の方を向いて涙目になるんじゃない!! これ俺が完全にやばい奴だと思われてるだろ!
「まぁ……じゃあお前達に任せるが……ほどほどにな」
「うむ、そういうわけじゃ着いてこいメス肉」
「ひぃ……」
シロに首根っこを掴まれて引きずられる自称魔王……。おかしいなぁ、俺の評判が凄いガタ落ちした気がする……。受付嬢から報酬である5000Gを貰って自分のダンジョンに帰ってきたが……何か大切な物を失ってしまった気がする。
「……ただいま、ダンジョンコア」
「おかえりなさい、マスター達。元気がありませんね」
「ちょっと色々あってな……」
「ほれ小娘、ダンジョンに着いたぞ」
「ダンジョン? このしょぼい洞窟が??」
「しばくぞ」
「ひぃいい!」
自分のダンジョンをしょぼい洞窟扱いされた事に怒りを示すと異常に怯え始める自称魔王……。クロはジト目でシロはニヤついていてダンジョンコアはいつもどおり無機質な瞳をこちらに向けている……。俺が一体何をしたっていうんだ……。
「ふむ……通信で言っていた魔物とはこれですか」
「これとは何だ! 俺様はリトル族の魔王だぞ!」
「うむ? 今何か言ったかのう?」
「なにも言ってません!」
あぁ……既に上下関係が構築されている……。
「でも……リトル族って絶滅寸前らしいしやっぱりDP高かったりする?」
「ふむ、調べてみます。少々お待ちください」
「まぁ、奇襲だったとはいえシロを地面に沈めましたからね」
「クロ……それ以上言うでない。目の前の頭をかち割りたくなってしまう」
「ク……クロさん、ダメですよ! シロさんにそんな事言ったら」
「おや? 誰が勝手に名前を呼ぶ許可を与えた? 妾の事は女王と呼ぶのじゃ」
「はい! 女王様!」
……言われなくても勝手に様まで付け頭を垂れて服従の意を示している。本当に可哀想。
「こ……これは」
「ど、どうしたダンジョンコア! ……やっぱりDPやばい?」
「……DPです」
「……え?」
別にこれは俺が難聴なわけではなく本当にダンジョンコアの声が聞き取れなかったからである。ダンジョンコアの声量が元々小さい上に今回は何故かもっと小さい。
「どうしましたダンジョンコア? よく聞き取れなかったのですが」
「俺様の消費DPに恐れて声が出ないようだな!」
「犬、おすわり」
「ワン!」
「……そうなのか?」
「いえ……その逆ですね」
「……うん?」
「消費DP1です」
「「「「……1?」」」」
笑い出すシロ、ちょっと笑ってしまった事に恥ずかしがってるクロ、怒る自称魔王、そしてどういう反応をしていいかわからない俺……。
「まぁ……安く済むならいいか」
「なにもよくなーい!!」
「ぷぷぷ……スライム1匹と同じDPの魔王がおるぞクロ」
「……ぶふぅ! 笑わせるのは卑怯ですよシロ」
「女王様もクロさんも笑わないでください!」
楽しそうにはしゃいでいる3人を放置して事務的な処理をダンジョンコアと進める。
「所で今回はどのようなDPの使い方をしましょうか? DP1使うのは確定ですよね」
「とりあえず……1使ってケイジ買って。後49はうーん。拡張で10くらい使って入り口周り装飾したいんだけど」
「装飾はマスターの好みになってしまうので細かなリストをお渡ししますね」
「……あぁ、こういうのこっちゃうタイプなんだよなぁ。とりあえず今は10くらい奥に進めるね」
「わかりました、DPを10消費して10マス掘り進めるのとDP1消費してマジカルケイジを購入しますね」
「うん、それでお願い」
「……マスター、何か忘れていませんか?」
「うん……?」
あれ……俺何か忘れたか? と頭を悩ませるが特に何も出てこない。
「……?」
「……おっと、手が滑ってしまいました」
「……え?」
ダンジョン内で魔法陣が勝手に展開されて次々地面に落ちていく……服やアクセサリー。あぁ……そうだ、パーティーに行くための服を買うんだった。違うんだよ? 服を買うのが嫌だったわけじゃなくて自称魔王様のインパクトが凄すぎてちょっと頭から抜けてただけなんだよ。
「……ダンジョンコアが勝手にDP消費をする場面を初めて見ました」
「こ、こらー! 何勝手に買い物してるんだ!」
「……」
顔はいつもと変わらないように……見えるけど目は合わせてくれない。
「……マスターは乙女心がわからんようじゃのう」
「やーいやーい! ダンジョンコアに反逆されてるダンジョンマスター!」
「しばくぞ」
「ひぃい!?」
怯える自称魔王……。えぇい、やっぱり長いな!!
「お前の名前は今日からブランな!」
「ブ……ブラン? 何でブラン……?」
困惑するブランと絶対ブラウンから取っただろうとヒソヒソ話をしている黒白。だから聞こえてるからね? それよりも……。
「えっと、ダンジョンコア……さん?」
「……なんですか? マスター」
「もしかして……怒ってらっしゃいます?」
「いえ、マスターに服の事をいつまでも忘れ去られているダンジョンコアですが怒ってはいませんよ?」
「絶対怒ってるよね!? 言い方きついもん!」
「……ご安心くださいマスター、この10連ガチャはダンジョンコアの購入ミスなので払い戻しが可能です」
「……あぁ、別にそのままで大丈夫だよ」
「……30DPですが、よろしいのですか?」
「ダンジョンコアも女の子だし……おしゃれとかやっぱりしたいよね?」
「……ダンジョンコアに性別の概念はないみたいなものですが否定はしません」
「じゃあ、この10連で出た服装でおしゃれしてパーティーに出よう!」
まぁ、ダンジョンも広くはなった上にまだDPも多少は残っているので何とかなるだろう……。
「……いいんですか?」
「あぁ、勿論!」
表情は変わっていなかったがどこか嬉しそうに見えたのは俺の錯覚だろうか?
「じゃあ、俺が出た服を組み合わせて可愛く着飾ってあげるな」
「いえ、それは遠慮しておきます」
ガチャで生み出された服類を吟味し始めるダンジョンコア……即拒否られて呆然としている俺の背中を優しく撫でてくれたのはクロだった……。
ダンジョンマスターですがダンジョンコアに反抗期が来たようです……。