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第三十話「クイーンヴァンパイアの実家にようこそ」

 吸血鬼風の古城で帰ってから、シロの様子がどうもおかしい気がするダンジョンマスターです。どんな風におかしいかと言うと……。


「あ、シロー。ご飯出来たよ」


「む、むむむ。わ、わかったのじゃ」


 廊下で出会ったシロ、俺が声を掛けると露骨に目を逸し、ギクシャクとした挙動不審な動きで食堂に向かう。俺が更に声を掛けようとしたが気配を感じ取ったのか走り去ってしまった。追いかけた所でシロの足に勝てるはずもないのでどうしたものかと考えながら食堂の方に足を進める。


「マスター、早く席に座ってください!」


 食堂に着くなりクロに着席を命じられた。もう皆席に座って机の上に並べられた料理を前に待ってくれていた。料理はブランとエミが作ってくれている、貯蔵庫の中に食料が詰め込まれていたので暫くは大丈夫らしい、恐らく食料自体は、ギルド団長事リースが用意していた物らしいが放置しても腐るだけなのでありがたく頂く事にした。


「遅れてごめん、じゃあ皆揃ったし食べようか」


「はーーーい!!」


 元気良く返事をしたのはクロだけで、勢い良く目の前の料理を食べ始めた。早く食べないとクロに殆ど食べつくされるので、とりあえず目の前に置いてあるパンに手を伸ばす。


「む……」


「あ、ごめん」


 手を伸ばすタイミングが同時だったため、同じくパンを取るために手を伸ばしたシロの手に接触してしまった。10秒くらい手を前に差し出したまま硬直していたシロであったが、ゆっくりと手を自分の元に戻していった。そして無言のまま近くの皿にあった豆をリスの如く両手で持ってカリカリ食べ始めたのであった。


 その様子をクロ以外のメンバー達が凝視していた。エミは楽しそうに微笑んでいるし、ブランはどこか不機嫌そうに微妙な表情をしているし、ダンジョンコアは……。


「…………」


 滅茶苦茶、俺の顔を見つめていた。俺の頭の中身を覗こうとしているのかもしれない、必死に何も考えないように目の前のパンを食べ続けた。何とも言えない空気の中食べる食事は、味を感じられなかった。


 無心に食べ続け、気が付けば食事は終わり各自食器の片づけに入っていた。俺も自分の食器を持ち立ち上がる。洗い場に向かおうとする俺の横に素早く近寄ってくる者がいた。首を少し横に向けて見るとグレーが気まずそうな表情を浮かべていた。


「どうしたグレー? ……もしかしなくてもシロの事か?」


「はい、シロの事ですけど……どうも言いにくくて」


 前回吸血鬼風の古城でその場のノリで、シロに求婚してしまった訳だがそのせいでシロの様子が変になってしまった。シロに何となくあの時の発言には、事情があったと伝えて欲しいとグレーにお願いしていたのだが……。


「仕方ない、俺が自分で言ってくるよ」


「お役に立てずに申し訳ありません……」


「いやいや、変な事お願いしてごめんね」


 何となく気恥ずかしさもあり、シロに直接言うのを躊躇っていたがそうは言っていられない。シロの様子がおかしい事は、クロ以外の全員がきっと気づいているだろう。シロがあの状態のままだと必ず探りを入れて来る者が出てもおかしくは……。


「少しよろしいでしょうか、マスター」


 ……いつものように抑揚のない声で俺に話しかけてきたダンジョンコア。ゆっくりと声のした方を振り返ってみる。普段と変わらない表情のはずだが……ダンジョンコアの蒼色の瞳に俺の目は釘付けになった。


「……何でしょうか? ダンジョンコアさん」


 思わず敬語を使ってしまうほど、ダンジョンコアの威圧感に怯んでしまった俺であった。そんな俺の気持ちをどう思っているのか……ダンジョンコアの表情から読み取れるはずもなく、小さな口をゆっくりと開く。


「シロの様子がおかしいようですが……何か思い当たる事はありませんか?」


「………………」


 予想通りの質問が来た。しかし、残念な事に俺はその質問に対する適切な回答を導き出せてはいなかった。顔をゆっくりと動かし、隣にいるグレーに助けを求めるような視線を向ける。


「え……いや……そのぉ……」


 俺の視線に釣られたように、グレーに視線を向けるダンジョンコア。そのダンジョンコアの視線に耐えられなかったのか目を逸らして黙ってしまった。

 いやー、実は話の流れでシロに求婚しちゃって……と言えれば楽なのかもしれないが。何故かダンジョンコアの見えない圧が俺に事実を言う事を拒ませている。

 まるで教師に説教されている生徒のような居心地の悪さを感じながら、この状況をどう打開しようか考えていると……。


「マスター! マスターはどこじゃ!!」


 俺とダンジョンコアとグレーの3人が思わず声のした方を振り返った。俺を見つけて猛ダッシュで接近してきたのはシロだった。傍に来るや否や俺の腕をガシッと掴む、少し痛いくらいの勢いで掴まれたのでびっくりする。


「すまぬ、ちょっとマスターを借りるぞ!」


 そう言ったシロは、俺の腕を掴んだまま走り出す。慌てて走るも殆ど引きずられるレベルであったが、一体俺はどこに連れていかれるのだろうか……。


「……仕方ありませんね。詳しいことは暗黒鳥に聞くとしましょうか」


「えぇっ!?」


 …………後ろの方でグレーの悲鳴が聞こえた気がするのは気のせいだろうか。


……。


…………。


………………。


 連れて来られた場所は、要塞から少し離れた場所だった。何故わざわざこんな場所まで連れて来たのだろうか、かなり慌てた様子だったので緊急事態なのかもしれない。


「……急に連れ出してしまってすまぬのう」


「あぁ……別に平気だけど……」


 むしろ、あの危機的状況から連れ出してくれたのだからシロには感謝しないといけないのかもしれない。……その代わりグレーが犠牲になってしまったが、今度お詫びをしてあげないとな、ありがとうグレー……。


「ところで俺に何か用? 慌てていたみたいだけど」


「うむ、マスターにしか頼めない事があるのじゃ」


 俺にしか頼めないこと? 一体何だろう、自分で言うのも何だが俺にしか出来ない事なんて殆どない気がする。唯一あるとするならDPで何か欲しい物があるとかだろうか。俺が考えているとシロが答え合わせのように予想外な事を発言した。


「妾の両親に会ってほしいのじゃ!!」


「……はい?」


 思わず聞き返してしまった。両親に会って欲しい……? 一体何故……? 両親に会うくらい俺じゃなくても出来そうな事だが、ひょっとして何かダンジョンマスターにしか解決できない問題でも発生してしまったのだろうか……? などと頭の中で必死に思考回路を巡らせている俺の腕をガシッと掴んだシロ。


「もう、ゲートは父上が開いておる! 安心して飛び込むだけじゃ!」


「ちょっと待って! 展開が急すぎてついていけない!! もっと事情を説明し……」


「とりあえず行くのじゃ!! 父上と母上が待っておるぞ!!」


 半ばどころか完全に強制的な拉致をくらい赤紫色のゲートに引きずり込まれた。俺が一体何をしたって言うんだ……。


……。


…………。


………………。


 ゲート内で失った意識がゆっくりと戻ってきた。そんな俺の目に飛び込んできたのは、赤いレンガで出来たお城のような屋敷だった。吸ったら絶対身体に悪いであろうどす黒い雲と深紅の月を背景に中々の不気味さを演出している。そして周囲には、お約束とばかりに大量の蝙蝠が飛び交っている。


「うーん……何とも不気味な……」


「人の実家を不気味呼ばわりするでない!」


  思った事をそのまま言ったら怒られてしまった。でも不気味さ具合では、あの吸血鬼風のお城も中々だったので吸血鬼が住む建物は、どことなく不気味でなくてはならないという法則でもあるのかもしれない。


「お嬢様、お待ちしておりました」


 いつの間にか大きな扉の前に、赤と黒で構成されたメイド服を着た女性の姿があった。さっきまで居なかったはずなのに、少しシロの方に視線を向けていた間に出現していた。見た目は、普通の人間に見えるのだが使い魔か何かなのだろうか……。


「おぉ、メロ久しぶりじゃな」


「お嬢様も元気そうで何よりです……」


「うむうむ、妾はいつも元気じゃぞ!」


 シロが勢いよくメイドさんに抱きついた。その抱きついたシロを優しく両手で抱くメイドさんの顔はとても素敵な笑顔だった。


「ところでお嬢様……この方が噂の?」


「うむ、妾のマスターじゃ!」


 どこか誇らしそうな表情を浮かべるシロ、いつの間に噂になっていたのだろうか。視線を向けてきたメイドさんの表情はどこか訝しげな気がする。俺と目が合ったメイドさんは、軽く会釈をしてすぐに目を逸してしまった。


「お嬢様、ご主人様達がお待ちです。行きましょうか」


「メロ~、妾のマスターはどうじゃ?」


「えっ!? そ、そうですねぇ……」


 シロから突然の質問に困惑した表情を浮かべるメイドさんは、俺の頭からつま先まで視線を送る。5秒くらい何か考えるように目を瞑り、ひねり出した答えは……。


「……オーラが尋常じゃないですね」


 さすがにその答えは適当すぎませんか??? 俺ってそんなに褒める所ないのかな……。


「うむうむ、メロはさすがじゃのう。マスターの魅力がしっかりわかるとはのう」


 さすがなの!? 俺ってそんなにオーラ纏ってるの!? 初めて知った衝撃の事実なんだが……。メイドさんもびっくりして口半開きになったがすぐに笑顔を取り戻したのは、さすがプロといった所だろうか。


 扉を開けて館の中に入っていく。壁は赤、床は白、室内の廊下には赤絨毯が敷かれている。何気なく触ってみた壁は、少し暖かく軽い弾力がある、一体何の素材で出来ているのだろうか。この素材をダンジョンの壁に出来たら……いや、むしろこの館自体欲しいな、俺の趣味ではないが。


「ご主人様、お嬢様とお客様が……」


「入りなさい」


 メイドさんが言い切る前に、扉の奥から威厳のある声が聞こえてきた。シロの両親か、一体どんな人……いや、魔物なのだろうか。


「おぉ、君がダンジョンマスターかよく来てくれたね」


「あらあら、遠い所からわざわざ足を運ばせてごめんなさいね?」


 黒い木製の長机には、赤いテーブルクロスが敷かれており入り口から見て奥側の椅子に初老の夫婦が柔らかい笑みを浮かべていた。この2人がシロの両親だろうか、やけに老けているように見えるが……。


「さぁさぁ、そんな所に立っていないで座りなさい」


 そう言われたからには座らざるを得ない、夫婦の対面にシロと二人で座る。何とも言えない居心地の悪さを感じているとメイドさんがティーカップに真っ赤な紅茶を入れて持ってきてくれた。


「あぁ、ありがとう」


「いえ、仕事ですので」


 言葉の端にきつさを感じるのは気の所為だろうか。表情を伺おうにも素っ気なく俺から離れていく。


「どうぞ、お嬢様」


「うむ! やはり、家に帰った時にはこれを飲むに限るのう」


 シロは、トマトジュースを美味しそうに飲んでいた。そんなに味が変わる物なのだろうか……。そして笑顔のメイドさん、その笑みを少しでいいから俺にも向けて欲しいものだ。


「さて、ダンジョンマスター……名前は確か……」


「お父さん、相川瑠比さんですよ」


「おぉ、そうだった。すまんすまん」


 俺が名乗る前に、横にいたシロのお母さんが俺の名前を正確に言ってくれた。謎の気恥ずかしさがあったので、とりあえず愛想笑いを続けている。もっと話しやすい空気にならないかなと思っていた俺であったが、とんでもない言葉が耳に飛び込んできた。


「うちのシロに婚姻を申し込んだ男が、どんな顔をしているのか見たかったが……中々悪くなさそうじゃないか」


 ………………はい?


「そうね~、それにダンジョンマスターと婚姻できるなんて羨ましいわ。種として血は薄くなってしまうかもしれないけど、とても光栄な事よ」


 ………………えーっと、一体何の話をしているのでしょうか。シロさん? 硬直した状態から何とか首をシロの方に向けて視線を向ける。


「…………す、すまぬのう。両親とは時折連絡を取っておったのじゃが、思わずマスターに告白された事を父上と母上に伝えてしまったのじゃ」


 顔だけじゃなく耳まで赤くしながら、両手をもじもじさせて罰が悪そうにしているシロ。なるほど、これは色々と………………大変な事になりそうだ。


 ダンジョンマスターですが、他人の家のリビングは大体居心地が悪い。

大変長くお待たせしてしまい申し訳ありません。

今後も定期更新ができるかはわかりませんが、なるべく安定した投稿ができるようにしたいと思っています。

今年も是非よろしくお願い致します……。

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