第二十九話「吸血鬼の城」前編
どうも、露出狂魔道士に出会ってしまったダンジョンマスターです。しかも、その露出狂魔道士に何やら最悪宣言をされてしまう。
「……最悪? このダンジョン何か曰く付きなのか?」
「はぁ……本当にエノルル地方の情勢を知らないのね」
何やらため息を吐いて呆れた表情を見せるリモ。そして仕方なさそうに口を再度開いてくれる。
「……この場所はダンジョンマスター達と冒険者ギルド、両陣営にとって、とても重要な場所の1つだからよ」
重要な場所……? この古い要塞が? その割には、リースも簡単にくれたし冒険者ギルドの連中が取り返そうとくる気配もなさそうだが。
「ふむ、やはりここは戦場の最前線なのかえ?」
「まぁ、私達がダンジョンから歩いて来られる程度には最前線よね」
「最前線にあるから重要って事じゃないのか?」
「うーん、まぁ……それもあるけど……」
何か歯切れの悪い言い方をするリモ、何故はっきり言ってくれないのか不思議に思っているとくるっと後ろを向き東条の顔を見た。
「ねぇ、こいつらの事信用していいの?」
「え? 相川さんは、ダンジョンマスターですよ。私が保証します!」
「ふーん……なんか、怪しいけどなぁ。この場所をこの時期に簡単に入手出来るなんて運が良すぎるというか……リースと繋がっててもおかしくなさそう」
この変態……鋭いぞ。さすが魔道士、頭も良くて勘が鋭い。さて、頑張って上手く誤魔化す演技をしよう……。ふと、シロとグレーを見てみると露骨に視線をリモから外して目が軽く泳いでる。こ、こいつら……嘘付くの下手くそだ。
「大丈夫ですよ! 相川さんは、嘘を付く人じゃありませんから!」
「何を根拠に……」
「相川さんは、私達同期の期待の星ですから! 冒険者ギルドに付くはずありませんよ!」
屈託のない笑顔で自信満々に発言する東条、口を少しパクパクさせて諦めたのかため息を付くリモ。……そして俺の良心が痛みを告げている、いやでもまだ冒険者ギルドに寝返ったわけではないからセーフ、そうまだセーフだ。何故かシロとグレーが目線で非難してくるが目を合わせないようにする。
「……はぁ、まぁそこまで盲信されたら何も言えないわ」
「わかって頂けましたか!」
「まぁ、何かあったら私じゃなくて東条の責任になるしね」
露骨に俺の顔を見てニヤニヤするリモ。くそ……こいつ俺の良心に攻撃を的確に加えてきやがる。なんていやらしい奴なんだ、二重の意味で……。
「そうだ、相川さん。折角ですから一緒に来て頂けませんか?」
「え? どこに行くの?」
「エノルル地方のダンジョンマスター達をまとめているリーダー役の所です!」
「えぇ!? い、いや……まだ来たばかりだし。もう少し休みたいなーなんて……」
「エノルル地方に来たダンジョンマスターはまず挨拶に行かないと行けないけど、何か来づらい理由でもあるの?」
ここぞとばかりに、ニヤニヤ顔で追求してくるリモ。この女……覚えてろよ。しかし、誤魔化し続けるのも厳しいし。一回行っておけば、暫くは何とかなるだろう……。もしかしたら俺の身体に付けられたマーキングも見抜いて何とかしてくれるかもしれない。
「わかったよ、じゃあ行くか! なぁ、シロ! グレー!」
「ぬ? 妾達も行くのかえ……」
「そ、そうですよね。マスター様をお守りしないと……」
なんか、声が小さいぞグレー! そしてシロもかなり嫌そうだが仕方がない、だって俺一人だと怖いし……。
「では、すぐに向かいましょう。相川さんもこのダンジョンの防衛をしたいですものね」
このダンジョン攻められる事は確定なんだ……。そう思ったダンジョンマスターであった。
……
…………
………………
東条とリモに付いていき、15分ほど歩いた後に移動呪文でどこか森の中に飛んだ。そこからまた20分ほど歩き続ける。
「……移動呪文で一気に飛べないの?」
「妨害装置のせいで、付近まで飛ぶ事が出来ないくらい知ってるでしょ」
そう言えば、そんな話もあったなぁ……。つまりあの要塞には素で妨害装置が付いているという事か。何だかダンジョンって感じがするな!!
「相川さん、見えてきましたよ!」
俺が勝手にダンジョンのワクワク感を味わっていたら、目的地にたどり着いたらしい。東条が指を指した方を見てみると……
「……何あの馬鹿でかい城」
そう目の前にあったのは、5階建てくらいはありそうな高さの西洋の城。灰色でどこか薄気味悪くまるで映画や漫画に出てくる吸血鬼の城のようだ……。
「ほーー! 中々風情のある良い城ではないか!」
案の定、シロは目をキラキラさせてお城を楽しそうに見ている……シロだけに。
「……うわぁ、凄い不気味。呪われそう」
グレーは、俺がオブラートに包んだ評価を無にするような率直な感想を呟いた。正直わからなくもない。
「このお城の中に広間があって、そこにいつも居ますよ」
まるで王様気分なマスターだな……。でも、俺もこんな大きい城のマスターになったら同じ事をやると思う。とりあえず、嫌そうなグレーの背中を軽く押しながらお城を目指して再び歩いて行く。
お城にたどり着いたが、入口が閉じていたり、侵入者と勘違いした魔物に襲われたり、スキップしてたシロが階段で転んだり……色々あったが広間までたどり着いた。
広間の床には紅い絨毯が敷かれており、灰色の壁にあるロウソクに紫色の炎が付いている。奥には金と紅で彩られた椅子が1つ置かれておりそこに色白で細身な男が座ってワインを飲んでいた。傍にはメイド服姿で身長160cmほど淡い緑色の髪をした女性が楽しげにその様子を眺めている。
何も吸血鬼っぽい城だからって、見た目まで吸血鬼っぽくならなくても……いや、見た目吸血鬼っぽいからこんな城のようなダンジョンにしたのだろうか。
「あ、リーダー! 新規さん連れて来ましたよ!」
東条が駆け寄っていく、まるで怪しいお店のキャッチみたいな発言だが本当に大丈夫なのだろうか……。
「……ふっ、そうか」
俺を一瞬見てすぐに興味なさげにワインに視線を移す男、やけに美声なのがまたムカつくな……。
「今宵の月は……真紅に染まるだろう」
………………まだ昼過ぎですけど? もう帰りたくなってきた。
「当主様は、お前の事を歓迎しようとおっしゃってますよ」
ニッコリと微笑む横のメイドさん。えっ? 今の台詞そう言ってたの? わかるか!!!
「……なんか、ムカつく男ですね」
グレーが半分ほどキレてるけど、俺は7割くらいキレてるから安心してほしい。
「むー……?」
シロが、先程からやけに首を横に傾げて不思議そうな顔をしている。人間が吸血鬼の真似事をしているから不思議に思っているのだろうか……そう思うとかなり滑稽だな。タコ型の宇宙人が地球の服を着て地球人になりきっているくらい滑稽に見えているのだろう。
「良かったですね、相川さん! リーダーに認められましたよ!」
「あ……認められたんだ。それは良かった……」
月がどうこうの台詞を聞くためだけに40分くらい掛けたと思うと、馬鹿らしくて仕方がないのだが……。こんな男がこの地方にいるダンジョンマスターを率いていると思うと頭が痛くなってくるな。
「まぁ……でももう特に用はないし、帰ろうか?」
「のう、マスターよ。妾は不思議でならないのじゃが……」
「そっとしといてあげようシロ……。あれは、コスプレみたいなものだよ」
「コスプレ……とはなんじゃ?」
「うーん……自分が好きな者の服装になって役割を演じるって意味であってるのかな……」
「なるほどのう、だからメイドの服装をしておるわけじゃな」
そうそう、きっとあのマスターはそういう趣味……。ん?
「メイドの服装……? 吸血鬼じゃなくて?」
「む? ヴァンパイアキングがどうかしたのかえ?」
……何故かシロと話が通じなくて困っているとメイドさんも困ったような表情をする。
「やれやれ……、まさかクイーンヴァンパイアを連れて来ているとは思いませんでしたね」
ずっとニコニコと微笑んでいたメイドさんが急に能面のような無表情になる。え、この展開ってもしかして……。
「私は、このエノルル地方にいる全てのダンジョンマスターのリーダーを勤めている。ナノと申します」
深々と頭を下げるメイド……いや、ダンジョンマスター達のリーダー。そして頭を上げて俺の目を見据える。
「マスター相川、あなたの事は歓迎します……が、1つだけ聞きたい事があります」
声に抑揚がなく機械的に喋るナノに恐怖感を覚えずにはいられないダンジョンマスターであった。




