第二十五話「ギルドの団長は恐ろしい」
どうもホテルに宿泊していたらリザードマンの大群に襲われたダンジョンマスターです。リザードマンをシロとグレーの2人が退治した後に、受付のお姉さんに誘われて付いて行った先は地下の広場。そして何故か俺達は、冒険者ギルドに誘われることになってしまったのであった……。
「いやー、こんなに大勢入ってくれるなんて助かるわ。全員それなりに強いのよね?」
「えぇ、この人達の実力は私が保証するわ!」
「良かったわ、これで憎きダンジョンマスター共に対抗できそうね!」
ルルと言う名の少女と受付のお姉さんが楽しそうに会話をしている。しかし、話してる内容的に俺は真顔にならざるお得なかった。
「ちょ、ちょっと待って。俺まだその影の冒険者とかに入るとは言ってないから……」
キョトンとした顔をするルルと苦虫を噛み潰したような顔をするお姉さん、絶対うわぁこいつ空気読めねぇみたいな事思っているだろうが知ったことではない。
「……チー、話が違うじゃない」
「アハハ、おかしいわね~」
チーと呼ばれている受付のお姉さんが俺の方に近づいてきた。不満げな表情で俺の耳元に顔を近づける。
「ちょっと~、私の面目丸つぶれじゃないですか」
「いや、知らないし……ギルドに入るなんて言ってないし」
「そんなぁ……こんな荒れた地方に来たのは私たちに協力してくれるためじゃなかったんですか……?」
そうか、リザードマンの大群を軽く蹴散らす連中が抗争真っ只中の地方に足を運ぶなんて冒険者に肩入れしたいようにしか見えないのか。残念ながら冒険者に肩入れする事は出来ない、敵側の人間だからな……。
「チケット余ってたから観光で来ただけだし……」
「こんな大事な時に観光……なんて呑気な……」
呆れた表情のお姉さん、俺も同じ立場なら呆れてると思う。
「……ねぇねぇ」
「うん?」
エミが俺の背中を軽く引っ張ってくる。恐らく相談したい事があるのだろう少し後ろに下がってエミの話に耳を向ける。
「ギルドに入るかは置いといて、とりあえず話だけでも聞いておけば?」
「そうだな……そうするか」
この地方の情報をまったく手に入れていないので、この人達から情報を得るのは悪い選択ではないだろう。ダンジョンマスター達の場所も知れそうだし……。完全に死んだ目をしているお姉さんに近づく。
「入るかは置いといて、話を聞くくらいなら……」
「本当ですか!?」
「入るかは置いといてね!!」
目の輝きを再び取り戻してお姉さんに話を聞いてみる。現在冒険者側は劣勢らしく従来のエノルル地方の内まともに人が住める場所は4割以下になっているとの事、一時期は魔物で海上を完全に封鎖されていたが、制海権だけは何とか取り返したようだ。逃げてきた住民達の避難所は、沿岸部に集中しているらしく冒険者ギルドの集いも自ずと沿岸部に固まっているらしい。
「なるほどなぁ……冒険者ギルド自体は沢山あってギルド全体で同盟関係にあるってわけだな」
「そういう事! まぁ、同盟関係といっても対等じゃなくギルドの強さで序列がありますけどね……」
「へー、ちなみにここのギルドは序列どれくらい?」
「聞いて驚かないで! このギルドはエノルル地方で序列は2番目に高いです!」
本当かよ……。ここにいる面子を見た限り、強そうなのって革のコート着ているリードという名前の男くらいだけど。いや、このメンバーはリーダー格で実際の構成員の数が凄いのかもしれない。
「このギルドって全体で何人くらいいるの?」
「ここにいるメンバーで全部です!」
そんな事はなかった。人数4人しか居ないギルドが序列2位て……そりゃ領土も6割取られるわな。
「……まぁ、後1人団長がいますが」
「団長? へぇ、どこにいるの?」
「それが……放浪癖がある人だからどこに行ったのかさっぱり……本来あの人がギルド内の権限を掌握してるのですが。もう3ヶ月くらい姿を見せていないせいでどんどんメンバーが脱退していった結果……」
それがこの有様というわけか、それもう団長死んじゃってるんじゃないと思ったがさすがに口に出すほど空気が読めない俺ではない。
「それもう団長死んでるだろ」
ブランが真顔で発言する。空気が読めない奴がいたー!!! いやまぁ、言いたくなる気持ちはわかるけど……。それを聞いたギルドメンバーは、全員嫌な顔をするどころか不敵に笑う者、涼しい顔をした者、真顔な者など様々な反応を見せた。
「団長が死ぬ……ありえないわね」
「ないな、あいつは俺が唯一認めた冒険者だからな」
「…………団長が死ぬ所、お目にかかってみたいですね」
ルルとリードと……寝転んだシスターが反応はそれぞれだが否定した。よほど強い団長らしい。だからこそこのギルドが序列2位なのかもしれない。これは今後のために団長の情報を集めておくか……。
「その団長ってちなみにどんな人?」
「……うーん、怒ると怖いですね。レア装備を横領しようとした団員の両手足を切断して海に沈めました」
「そうねぇ……爆発系魔術の使い手ね。私が見た中だと100以上の魔物の群れを一撃で消し飛ばしてたわ」
「魔物嫌いで敵には一切の容赦がない、魔物相手なら女子供関わらず息の根を止めるだろう」
「…………あの人は天才ですからねぇ、魔術師なのに肉弾戦で武闘家に余裕で勝っちゃう人ですから」
話を聞いている限りかなりやばい人なのはわかった。両手足を切断して海に沈めるとかマフィアのボスかよ……。話を聞いて怖くなったのかブランとグレーがガタガタ震えている、絶対に遭遇しないようにしよう。
「そういえば、お名前を聞いてませんでしたね」
「あぁ……相川瑠比だよ」
「相川さん……影の冒険者ギルドに入っては貰えませんか……?」
涙目の上目遣いで懇願してくるお姉さん……罪悪感を覚えてしまうがぐっと堪える。立場的にも無理だし、話を聞く限りでやばい団長がいるギルドになんて所属出来るわけがない。
「いやー、無理ですねぇ」
「もしもギルドに入ってくださったら、私の胸くらいだったら揉んでも構いません……」
「………………ふむ」
「悩まないでください」
ダンジョンコアが軽く殴ってきた、他のメンバーの視線が痛い。もしも俺が一人だったら入ってかもしれないが、さすがに仲間に危害が加わりそうなのでダメだな。さようなら…………おっぱい。
「いやー……ちょっと無理かなぁ」
「ダメですか……宿泊日数も1日ありますし、是非考え直してくださいね」
「なーんだ、折角人がいっぱい増えたと思ったのに……」
「ふむ、手応えがありそうな連中だっただけに残念だな」
「…………ヨミ的には、それもまた仕方ないって感じですねぇ」
残念な表情を浮かべるメンバーに申し訳なさを感じるが、とりあえず詫びの言葉を入れてホテルに戻ろうと元来た通路に行こうとするが暗闇から走ってきた人に激突する。普通ぶつかったらお互いに何らかのリアクションがあると思うが俺だけが衝撃で吹き飛ばされ、相手は何ともなさそうに立ち止まる。
「ぐへぇ……」
「あうー、ごめんなさい! ぶつかっちゃった……」
金髪のロングヘアーをした少女……130cmほどだろうか。キラキラと青白く光るクリスタルをヒラヒラとした白い服に散りばめている。泣きそうな顔をして慌てて俺に近寄ってくる。
「大丈夫……? ごめんねぇ、前見てなかったの」
「あぁ……大丈夫、大丈夫。俺意外と頑丈だからさ」
衝撃的には自転車と衝突するぐらいあったが言わないでおく。手の差し伸ばしてくれた少女の手を取り立ち上がる。すると少女は、一瞬目を驚かせたがすぐにニコニコ顔になった、どうしたのだろう?
「あなた、もしかして影のギルドに入りたいのー?」
「え? あぁ……いや……」
「団長! この方々は、ギルドに入るのを検討中とのことですよ!」
いや、入る事はないけどね…………うん? 団長??
「そうなんだー! 是非……入って欲しいなぁ~」
ニコニコ顔で俺の顔を見続ける少女……。アハハ、この子が団長? そんなわけないよね、きっと聞き間違えかダンチョーとかいう名前なのだろう、きっとそうだ。そうに違いない。少女はニコニコ顔のまま俺にゆっくりと顔を近づけて小さな声でこう呟いた。
「……あなたダンジョンマスターでしょ?」
「…………」
少女はニコニコ顔のまま、ドスの効いた声を発した。
ダンジョンマスターですが二度目の人生終わったかもしれません。
本日8/03日投稿予定でしたが都合により明日の8/04日に投稿とさせてください。
投稿遅れて申し訳ありません。




